診療ご案内
内分泌(主に甲状腺)の病気
甲状腺はどこにあるのでしょうか?
甲状腺は首の前側中央にあり、のどぼとけの下に蝶が羽を広げたような形をしています。男女差はあるものの大きさは4cmほどです。
医師が診察の時に、のどぼとけ周辺を触っている場合は、甲状腺を触って、大きさやしこりなどの病変を観察しています。ただし、正常の甲状腺は柔らかく、手で触っても皮膚や筋肉のため正確に特定するのは難しいです。しかし、病気により甲状腺が大きくなったり、しこりが出来たりすると手で触ることができます。
甲状腺はどんな役割をしているの?
脳からの指令に応じて甲状腺ホルモンを出します。
甲状腺ホルモンの働きとは?
甲状腺ホルモンは、食事の中に含まれるヨードから作られ、身体の新陳代謝(しんちんたいしゃ)全般に関わり、心臓や脳の活動、体温調節などを行っています。
甲状腺ホルモンを「ガソリン」に例えてみましょう。甲状腺ホルモンの少ない病気は、ガソリン不足から車の動きが悪くなるように、人も元気が無くなり、寒がりになります。逆に甲状腺ホルモンの多い病気は、一見ガソリンが豊富で良いようにも見えますが、蓄えきれずに余ったガソリンを常に消費しなければいけない状態になり、イライラしたり、汗を多くかき、動悸がしたりします。
甲状腺ホルモンは、生命活動するための必要なエネルギーを作り、快適な生活を送るためになくてはならないものです。そのため病気により甲状腺ホルモンに異常が出た場合は正常に保つ必要があります。
甲状腺ホルモンに異常があると、どんな症状が現れるのでしょうか?
下記のチェックリストで4つ以上当てはまるものがありましたら、当院で甲状腺検査を行いましょう。
【甲状腺ホルモンが多い時の症状】
- 汗が多い
- 暑がりになった
- 脈拍が速く感じ、動悸がする
- 手足がふるえる
- 食欲が常にあり食べてもあまり太らない
- 首が腫れる
- 元気だと思ったら直ぐに疲れる
- 少しの動作で息切れがする
- イライラする
- 眠れない
- 37度前半の微熱
- 抜け毛が増える
- 排便の回数が増え、やや軟便から下痢気味
- 眼球が出てくる
【甲状腺ホルモンが少ない時の症状】
- 汗が少なくなった
- 寒がりになった
- 脈が遅くなった
- 体重が増えてきた
- 首が腫れる
- すぐに疲れてしまう
- 気力がない
- むくむ(顔だけでなく全身)
- 声がくぐもって聞き取りにくいといわれた
- すぐに眠くなる
- 物忘れが増えた
- 動作が鈍いと指摘された
- 髪の毛が抜ける
- 便秘気味
- 筋力が低下し以前より重いものが持てなくなった
このような症状だけでなく、健康診断で甲状腺の異常を指摘された場合なども遠慮なく当院にご相談ください。
甲状腺のホルモンの測定は採血で行います。結果が返ってくるまでに数日ほどかかりますので、結果は後日ご説明させていただきます。
甲状腺の病気
甲状腺の病気は?
大きく3つに分類できます。
- 甲状腺ホルモンが多い病気(例:バセドウ病など)
- 甲状腺ホルモンが少ない病気(例:橋本病など)
- 甲状腺にしこりができた病気(例:甲状腺がんなど)
耳にされたことが多いと思われるのはバセドウ病です。バセドウ病は有名人の中にもかかっていることを告白している方もいます。また、日本人の医学者により発見された橋本病は、甲状腺の病気の中で最もかかっている患者さんが多いとされます。
検査の流れ
①甲状腺を触診し大きさや腫瘤が触れないか確認します。
②甲状腺の正確な大きさや結節が無いかを超音波で確認します。痛みなどは伴いませんが、少し首が圧迫される感じがあるかもしれません。
③採血を行い甲状腺ホルモンや各種自己抗体をチェックします。ホルモンの数値については後日、電話もしくは対面で説明いたします。
橋本病(慢性甲状腺炎)
症状
橋本病は九州大学の橋本先生が発見されたため橋本病という名前になっています。慢性甲状腺炎とも言い、何年にもわたってゆっくりと進行するといわれます。病気の兆候や症状に気付かないかもしれませんが、最終的に甲状腺ホルモン産生の低下は、次のいずれかの症状を引き起こす可能性があります。このような症状がある際には一度、当院で甲状腺ホルモンを測定してみましょう。
- 倦怠感とだるさ
- 寒がりになる
- 眠気の
- 乾燥肌
- 便秘
- 筋力低下
- 筋肉痛、圧痛、こわばり
- 関節の痛みとこわばり
- 不規則または過度の月経出血
- うつ病もしくはうつ状態
- 記憶力や集中力の問題
- 甲状腺の腫れ(甲状腺腫)
- 顔のむくみ
- 脱毛
- 舌の拡大 など
原因
橋本病は自己免疫疾患といわれる、自分の免疫が甲状腺細胞を細菌、ウイルス、またはその他の異物であるかのように攻撃する抗体を作成した結果、甲状腺が炎症を起こし、細胞に損傷を与え、細胞死につながるとされます。
2つの抗体が主に知られています。
- 抗サイログロブリン抗体(TgAb)
- 抗TPO抗体(TPOAb)
を測定し判断していきます。
免疫系が甲状腺細胞を攻撃する原因は残念ながら現在のところ明らかではありません。病気の発症は以下に関連している可能性があるとされます。
- 遺伝的要因
- 感染、ストレス、放射線被曝などの環境トリガー
- 環境要因と遺伝的要因の相互作用
危険因子
以下の要因は、橋本病のリスク増加に関連しているとされます。
- 性:女性は橋本病にかかる可能性がはるかに高くなります。
- 年齢:橋本病はどの年齢でも発生する可能性がありますが、一般的には中年に発生します
- その他の自己免疫疾患:関節リウマチ、1型糖尿病、狼瘡などの別の自己免疫疾患があると、橋本病を発症するリスクが高まります。
- 遺伝学と家族歴:家族の他の人が甲状腺疾患または他の自己免疫疾患を持っている場合、橋本病発症のリスクが高くなります。
- 妊娠:妊娠中の免疫機能の典型的な変化が原因とされます。
- ヨウ素の過剰摂取:食事中のヨウ素(過剰なワカメやノリなどの海産物の摂取)が多すぎると、すでに橋本病のリスクがある人々の引き金として機能する可能性があります。
治療
甲状腺ホルモン(チラーヂンSやチロナミン)の補充になります。橋本病を根本から治療することは現在の医療ではできないため、下がってしまったホルモンを補充することで下記の合併症のリスクを抑えることになります。ホルモン補充を適切に行えば、合併症の頻度は下げることができるため、橋本病は生命に影響を与えるリスクは少なく、良性の疾患といえます。
合併症
甲状腺ホルモンは、多くの身体システムの健康的な機能に不可欠です。したがって、橋本病や甲状腺機能低下症を治療せずに放置すると、多くの合併症が発生する可能性があります。これらが含まれます。
- 甲状腺腫:甲状腺腫は甲状腺そのものが大きくなってしまうことです。橋本病により甲状腺ホルモンの産生が低下すると、甲状腺は下垂体というホルモンの司令塔からより多く甲状腺ホルモンを作るように信号を受け取ります。このサイクルは甲状腺腫を引き起こす可能性があります。一般的に症状はありませんが、大きな甲状腺腫は外見に影響を与え、飲み込みや呼吸を妨げる可能性があります。
- 心臓の問題:甲状腺機能低下症は、心機能の低下、心臓の肥大、不整脈を引き起こす可能性があります。また、心血管疾患や心不全の危険因子であるLDL(通称「悪玉」コレステロール)の上昇をもたらします.
- メンタルヘルスの問題:うつ病やその他のメンタルヘルス障害は、橋本病の初期に発生する可能性があります。
- 性的および生殖機能障害:女性では、甲状腺機能低下症は性欲の低下、排卵不能、および不規則で過度の月経時の出血を引き起こす可能性があります。甲状腺機能低下症の男性は、性欲減退、勃起不全、精子数の低下を示す可能性があります。
- 流産や早産:妊娠中の甲状腺機能低下症は、流産や早産のリスクを高める可能性があります。未治療の甲状腺機能低下症の女性から生まれた赤ちゃんは、知的能力の低下、自閉症、言語遅延、その他の発達障害のリスクがあります。
- 粘液水腫:長期の重度の未治療の甲状腺機能低下症が原因で発症するとされますが非常に稀です。
バセドウ病
バセドウ病とは?
バセドウ病は、甲状腺ホルモンの過剰産生(甲状腺機能亢進症)を引き起こす自己免疫系の障害であり、甲状腺機能亢進症の最も多い原因です。甲状腺ホルモンは体のシステム特に新陳代謝に影響を与えるため、バセドウ病の兆候や症状は多岐にわたります。バセドウ病は、女性や40歳未満の人が好発年齢とされます。治療目標は、甲状腺ホルモンの量を減らし、症状を軽減することです。
バセドウ病の症状は?
バセドウ病の一般的な症状は次のとおりです。
- 不安や神経過敏
- 手や指の細かい震え(文字を書くときに震えます)
- 暑がり
- 汗が多く湿った肌の増加
- 通常の食生活もしくは過食にもかかわらず、体重が減少
- 甲状腺の肥大(甲状腺腫)
- 月経周期の変化
- 勃起不全または性欲減退
- 頻繁な排便もしくは下痢
- 眼球突出(バセドウ眼症)
- 疲労
- 通常、すねや足のてっぺんに厚くて赤い皮膚(皮膚症)
- 動悸
- 睡眠障害
バセドウ眼症
バセドウ病患者の約10~30%は、バセドウ眼症の症状を示すとされます。バセドウ眼症では、炎症やその他の免疫異常が目の周りの筋肉やその他の組織に影響を与え下記の症状が出現するとされます。眼科医と相談しないとわからないこともあります。必要に応じて眼科受診を勧めることもあります。
- 眼の突出
- 目のざらざらした感覚
- 目の痛み
- まぶたの腫れ
- 目の発赤
- 光過敏
- 二重に見える
- 視力低下および喪失
バセドウ皮膚症
バセドウ皮膚症と呼ばれる、すねや足の甲の皮膚の発赤と肥厚が見られることがあります。
原因
バセドウ病は、体の病気と戦う免疫系の機能異常によって引き起こされますが、詳細な原因は不明です。
通常、甲状腺機能は脳にある下垂体から放出されるホルモン(TSH)によって調節されています。バセドウ病に関連する抗体である甲状腺刺激ホルモン受容体抗体(TRAb)は、調節性下垂体ホルモンのように作用してしまい、正常な調節を無効にし、甲状腺ホルモンの過剰な産生(甲状腺機能亢進症)を引き起こします。
バセドウ眼症の原因
目の後ろの筋肉や組織に炎症を起こすことに起因しますが、その原因も不明です。甲状腺機能低下症をきたす橋本病も眼の症状を起こすことから、甲状腺機能障害を引き起こす抗体は目の周囲の組織に何らかの影響を持っている可能性があるようです。
眼症は、甲状腺機能亢進症と同時に、または数ヶ月後に現れることがよくあります。しかし、眼症の徴候や症状は、甲状腺機能亢進症の発症の前後数年で現れることもあります。また、眼症は、甲状腺機能亢進症がなくても発生する可能性がありますが、甲状腺機能を正常化させておくのが治療に有効とされます。
危険因子
次のような多くの要因が病気のリスクを高める可能性があります。
- 家族歴:バセドウ病の家族歴は既知の危険因子です。
- 性:女性は男性よりもバセドウ病を発症する可能性がはるかに高いです。.
- 年齢:バセドウ病は通常、40歳未満の人に発症します。
- その他の自己免疫疾患:1型糖尿病や関節リウマチなど、免疫系の他病気を持つ人々はリスクが高くなります。
- 感情的または肉体的ストレス:ストレスはバセドウ病の発症の引き金となる可能性があります。
- 妊娠:妊娠または出産は、リスクを高める可能性があります。
- 喫煙:免疫系に影響を与える可能性のある喫煙は、バセドウ病のリスクを高めます。バセドウ病を患っている喫煙者は、バセドウ眼症を発症するリスクも高くなります。
バセドウ病の治療
薬物(抗甲状腺薬)治療、放射性ヨウ素内用療法、手術の3つの治療法があり、最初に薬物治療を優先して行います。その後、症状の改善が乏しい場合に放射性ヨウ素内用療法や手術を行うことが一般的です。
①薬物療法
薬物療法(メルカゾールやチウラジール)は、最も簡便で外来でできるため、多くの場合に第1選択となります。近年はメルカゾールを第一選択薬として用います。欠点として、副作用(皮疹・肝機能障害・無顆粒球症など)が生じる可能性があることや、治療効果に個人差が大きく、一旦寛解(症状が一時的にでても消えたり、安定して薬を中止できること)しても再発率が高いことなどが挙げられます。薬物療法を2年以上継続しても薬を中止できる目途が立たない場合は、下記の治療法を検討します。
② 放射性ヨウ素内用療法
放射性ヨウ素内用療法は、安全で効果が確実であり、甲状腺の腫れも小さくなります。欠点としては、永続的な甲状腺機能低下症により甲状腺ホルモン薬の服用が必要になる場合があります。また、実施できる医療機関が限られていること、バセドウ病による眼の症状が悪化することがあること、小児や妊婦・授乳婦では行えないことなどが挙げられます。
③甲状腺摘除術
状腺摘出術は、最も早く確実に治療効果が得られます。欠点としては、再発がないように全摘除を行うと甲状腺ホルモン薬の服用が必要になります。他にも、入院が必ず必要であること、手術痕が残ること、手術合併症(反回神経麻痺、副甲状腺機能低下症など)が生じるリスクがあることなどがあります。
合併症
バセドウ病の合併症には以下が代表的です。
- 妊娠と出産の問題:妊娠中のバセドウ病の考えられる合併症には、流産、早産、胎児の甲状腺機能障害、胎児の成長不良、母体の心不全、高血圧などを引き起こしえます。
- 心不全:治療せずに放置すると、バセドウ病は心調律障害、心筋の構造と機能の変化、心臓が体に十分な血液を送り出すことができない(心不全)につながる可能性があります。.
- 甲状腺クリーゼ:まれですが生命を脅かす合併症です。。重度の甲状腺機能亢進症が未治療または不適切に治療されている場合に発生する可能性が高くなります。発熱、発汗、嘔吐、下痢、せん妄、重度の脱力感、発作、不整脈、黄色の皮膚と目(黄疸)、重度の低血圧、昏睡など、多くの影響を引き起こす可能性があります。直ちに救急医療を必要となり死亡することもあります。
- 骨粗鬆症:骨の強度は、骨に含まれるカルシウムやその他のミネラルの量に依存します。甲状腺ホルモンが多すぎると、カルシウムを骨に取り込む体の能力が妨げられるため骨が脆くなります。
副甲状腺機能亢進症
概要
副甲状腺機能亢進症という聞きなれない病気ですが、副甲状腺ホルモンが過剰に出てしまう病気です。「副」甲状腺という名前から誤解を生みがちですが、甲状腺ホルモンとは異なるホルモンになり、「カルシウムやリンにかかわるホルモン」です。甲状腺の後ろにあるため「副」甲状腺と名付けられて、米粒ほどの大きさです。
副甲状腺機能亢進症には2つのタイプがあります。
原発性副甲状腺機能亢進症では、1つまたは複数の副甲状腺の肥大が副甲状腺ホルモンの過剰産生を引き起こします。これは血中のカルシウムが高くなり、リンが低下し、健康上の問題を引き起こす可能性があります。手術は原発性副甲状腺機能亢進症の最も一般的な治療法となりますが薬物療法も選ばれることもあります。
続発性副甲状腺機能亢進症は、最初に体内で低カルシウムレベルを引き起こす別の疾患が原因で発生します。代表的な病気は腎機能低下に伴うもので、血液透析の患者によく見られます。
今回は原発性副甲状腺機能亢進症についてお伝えします。
症状
原発性副甲状腺機能亢進症は、兆候や症状が発生する前に診断されることがよくあります。これは通常、定期的な血液検査でカルシウムの上昇が見られるためです。症状は非常に軽度で非特異的つまり特徴的なものが存在しないため、副甲状腺機能に関連していないように見える場合もあり、時に重度である場合もあります。徴候と症状の範囲は次のとおりです。
- 折れやすい骨が弱い(骨粗鬆症)
- 腎臓結石
- 頻尿
- 胃(腹部)の痛み
- 疲れやすい、または脱力感
- うつ病または物忘れ
- 骨と関節の痛み
- 明確な原因のない病気の頻繁な苦情
- 吐き気、嘔吐、食欲不振
原因
原発性副甲状腺機能亢進症の原因には、副甲状腺の腺腫、過形成、がんがあります。このうち8割以上は良性の腺腫で、この場合は4つある副甲状腺のうち一つだけが腫大します。過形成は4つの副甲状腺のすべてが異常になるもので、多発性内分泌腺腫症(MEN1型)という遺伝的な病気に合併して起こることがほとんどです。副甲状腺以外に、腫瘍が見られた場合には、MENの遺伝子検査を勧めますのでご紹介させていただきます。なお、がんは稀ですが、副甲状腺が大きく腫大したり、手術をしてもカルシウムの値が下がりにくく、また局在もはっきりしないこともあり診断に難渋することもあります。
治療
原発性副甲状腺機能亢進症での治療の原則は、腫大した副甲状腺を摘除する手術をする病院を紹介します。手術に対しては適応などを慎重に決める必要がありますので、現在の年齢・腎臓の機能・骨粗しょう症の有無・カルシウムの値などを複合して決めていきます。腺腫の場合には、通常ひとつの腺だけの異常なのでこれを摘出します。過形成の場合には、4腺すべてが腫れているので、1腺の前腕筋肉内へ移植し他を摘出します。
手術を行わない場合には、カルシウム値、腎臓、骨粗鬆症の状態などの経過をみながら、薬物治療が近年進歩しています。レグパラという薬をはじめいくつかの薬が使用でき、以前に比べてカルシウムの管理はできるようになってきました。
尿崩症
疾患分類
尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH)の分泌不全もしくは作用不全により発症する。前者は間脳下垂体領域の不可逆的障害が原因とされ中枢性尿崩症、後者はADHの作用部位である腎臓での異常のため腎性尿崩症と呼ばれる。
診療/治療ガイドラインは以下の通り
疾患疫学(罹患率と予後)
・1999年の厚生労働省の全国調査では中枢性尿崩症の患者数は4700人であり、中枢性尿崩症の治療に使用する薬剤の消費量から推定した患者数は6200人(2006年)である。実際には更に増加していると考えられる。
・腎性尿崩症に関しては詳細な疫学データはなく本邦における患者数は不明である。
・なお尿崩症は高度な脱水にならずに治療介入が行われれば予後は良好である。
分類・原因
・尿崩症の原因は、表1に示す。
・従来は特発性の頻度が高かったが、画像検査の進歩により炎症・肉芽腫性病変の関与する病態の割合が増加している。
・先天性腎性尿崩症は、X連鎖性劣性遺伝を呈する尿細管細胞のADHの2型受容体の遺伝子異常が大半を占める。
・続発性腎性尿崩症は、リチウム製剤によるものが最も多い。他にシスプラチンなどの抗癌剤や高カルシウム血症が原因となることがある。
中枢性尿崩症 | 腎性尿崩症 |
続発性(約60%程度) 頭部外傷:脳出血 外傷・下垂体手術 腫瘍:胚細胞腫 頭蓋咽頭腫 奇形腫 下垂体腺腫 転移性腫瘍 白血病 リンパ腫 肉芽腫:サルコイドーシス、ランゲルハンス細胞組織球症 感染症:結核 脳炎 炎症:リンパ球性下垂体炎 |
続発性(頻度不明) 薬物性:リチウム シスプラチン、アミノグリコシド系抗菌薬など 代謝性:高カルシウム血症、低カリウム血症 血管性:急性尿細管壊死 |
特発性(約40%) | 特発性(頻度不明) |
家族性(約1-2%) | 家族性(頻度不明) |
病態生理
尿崩症とは、尿濃縮力が障害され口渇、多飲多尿を示す状態である。ADHはアルギニンバソプレシン(AVP)ともいわれ、視床下部で合成され下垂体後葉に蓄えられる下垂体後葉ホルモンである。ADHは視床下部で産出、下垂体後葉で分泌され、尿細管に作用するホルモンのため、これらの異常をきたす尿崩症は、①中枢性尿崩症(=ホルモンが産出されない)、②腎性尿崩症(=ホルモンが産出されるが標的細胞の異常がある)の2種類に分けられる。その他に多尿をきたし尿崩症との鑑別が必要になる疾患としては原発性多飲(心因性多飲や視床下部障害など)や薬剤や高血糖による浸透圧利尿がある。これらの鑑別は尿所見や検査データや病歴、薬剤歴を聴取することが大事となる。
臨床検査、生理機能検
ADHの基準範囲は安静下の通常水分摂取時に4.2 pg/mL 以下とされる。血漿ADH 濃度は飲水により低下し、脱水で上昇する。すなわち、健常人でも十分な飲水により血漿ADH 濃度は低下し検出できないことがある。このようにADHは体液量と血漿浸透圧の調節を行っているため、血漿ADH 濃度と血漿浸透圧(あるいは血清Na 濃度)との間には正の相関関係が認められる(図1)。つまり血漿浸透圧が上昇すればADH分泌も上昇する。この正の相関関係からの逸脱を血漿ADH 濃度の異常値といい、ADHの評価は、その分泌調節機序をふまえて考えなければならない。
中枢性尿崩症は血漿ADH濃度が血清Na 濃度に対して絶対的(0.3pg/mL 未満)あるいは相対的に低下する。相対的低値とは、血清Na 濃度が148 mEq/L 以上でもADH が基準値にとどまる場合である。5%高張食塩水点滴などの分泌刺激試験を行い、血漿浸透圧を増加させても血漿ADH 値が上昇しないことを確認する。また中枢性尿崩症の原因についても頭部画像を用いて検査する。
腎性尿崩症における血漿ADH 濃度は、あくまで血漿浸透圧との関係では正常の分泌調節範囲内にある。
図1:血清Na値とADHの関係
SIADH
腎性尿崩症
中枢性尿崩症
SIADH:バゾプレシン分泌過剰症
中枢性尿崩症の診断と治療の手引き(平成 22 年度)より一部改編
薬物療法とそのターゲット
中枢性尿崩症の治療はデスモプレシンを点鼻もしくは経口投与する。デスモプレシンは、バゾプレシンの1位のシステインが脱アミノ化されるとともに8位のL型アルギニンがD型アルギニンに置き換わった化学合成誘導体である。デスモプレシンの抗利尿効果はバゾプレシンの5~10倍であり、平滑筋収縮作用をほとんど認めない。
腎性尿崩症は水補給や原因疾患の治療で対処する。また腎性尿崩症においては、尿量を減らす目的でサイアザイド系利尿薬を使用することもある。これはサイアザイドが糸球体濾過量を減少させ、近位尿細管での水・電解質の再吸収を促進する作用があるためである。