診療ご案内

糖尿病の診断方法

糖尿病は突然診断されるわけではありません。ここでは、糖尿病と診断されるまでの流れや診断に至る経過の具体例、糖尿病に関係する検査項目についてお話しします。こちらを読んで、症状を自覚している方は当院に受診をしていただき、そうでない方も健康診断や受診時の検査結果を理解するための助けになればと思います。

糖尿病って何?

簡単に言うと「血液中のブドウ糖濃度が高い状態」です。
そんなことは分かっていると思いますが、数値で示してみましょう。難しいと思った方はとばしても良いです。

【判定基準値】

①朝の空腹時血糖値 126mg/dL以上

②75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 200mg/dL以上

③時間関係なく測定した血糖値 200mg/dL以上

④HbA1c 6.5%以上

【判定基準】

⑤朝の空腹時血糖値 110mg/dL未満

⑥75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 140mg/dL未満

血糖値とHbA1cのどちらか一方だけが糖尿病型だった場合、再検査が必要です。
再検査でも糖尿病型だった場合は、糖尿病と診断されます。ただし、初回の検査でも再検査でもHbA1cだけが糖尿病型だった場合は、「糖尿病の疑い」として、その後の経過観察を行ないます。

判定基準 判定
①~④のいずれかが確認された 糖尿病型
→糖尿病の疑いありとして、別の日に再検査する
①~③のいずれかと④が確認された 糖尿病と診断
⑤および⑥が確認された 正常型
上記いずれにも該当しない 境界型

※正常型と判定されても、ブドウ糖負荷後1時間値が180mg/dl以上の場合は、境界型に準じた扱いが必要です。
(日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2018-2019,P.21,文光堂,2018より一部改変)

このように非常に複雑です。
医師の国家試験や内科医の試験などにも糖尿病の診断基準を満たすかどうかの問題が出題されます。
つまり、医師でも糖尿病の診断は難しいときがあります。

では簡単に言うと
「血糖が食事を食べていなくて126mg/dL以上、食事後で200mg/dL以上」かつ「HbA1c6.5%以上」
と認識してもらって大きな誤りはありません。
次に、何回か登場しているHbA1cについて説明します。

糖尿病の原因 2型糖尿病について

2型糖尿病になる原因で多いのは、「働きざかりのストレスが多い肥満体形の中年男性」というものです。

ただ、これに当てはまらない「比較的やせ型~普通体形の女性」なども発症します。最近になり、10台や20台の若者の糖尿病の発症も問題となっています。 2型糖尿病の発症については、生活習慣だけが原因ではなく、膵臓の働きが弱まったり、インスリンの働きを阻害する物質が体内にたまることによって起こるとされます。その背景に遺伝も原因となりうるため、家族に糖尿病患者がいる場合には生活習慣に更なる注意が必要です。
普通もしくはやせているのに生活習慣に注意してくださいと言われると悲しい気持ちになると思いますが、病気の性質をご理解いただくほかありません。

インスリンやブドウ糖がどのように作用するのかがカギになります。

インスリンが出ないから血糖が下がらないだけでなく、ブドウ糖が利用しにくくなる、つまり、ブドウ糖が利用されないから血液中に高い濃度のままになるという事です。

ブドウ糖が利用しにくい事をインスリン抵抗性といいます。

何に抵抗しているのかというとブドウ糖を利用する細胞内に取り込む(つまり血糖が利用されて下がる)ことに抵抗しているのです。

では血糖が下がりにくいインスリン抵抗性の原因は、上記のように「肥満」「加齢」「運動不足」がメインになってきます。
体形が普通~やせ型の人の場合は、インスリン抵抗性ではなく、インスリン分泌が体質的もしくは遺伝的な理由で少ないことが想定されます。

2型糖尿病がなぜ引き起こされるのかについては複雑なメカニズムを持っていることをご理解いただけたと思います。

1型糖尿病

当院では1型糖尿病の治療に糖尿病専門医として積極的に取り組んでいます。通院中の病院と連携を取りながら治療を行ったり、また通院が困難になってきた場合はご相談ください。

1型糖尿病について解説いたします。自分自身の免疫が膵臓にあるインスリンを分泌するβ(ベータ)細胞を破壊しインスリンが出なくなるため高血糖(血糖が常時正常範囲の倍以上)となり、糖尿病を発症します。生活習慣病の要因が強い2型糖尿病とは全く異なる性質の糖尿病で、β細胞が破壊されるためインスリン注射がほとんど全員の方に必須となります。また、様々な自己抗体が陽性になります。代表的なものは抗GAD抗体、抗IA-2抗体、抗インスリン抗体を測定すると陽性であり、近年抗ZnT8抗体なども保険収載されました。

患者さんはどのくらいいるのか?

発症には地域差があることが知られており、北欧諸国に多く見られます。日本での小児1型糖尿病の年齢調整発症率(/10万人)は1.4~2.2人とされ、北欧はその10〜20倍以上とされます。もともと若い人(小児)に多い病気ですが、大人になっても発症する事があります。この場合は急激な発症の場合では無く、インスリンも少ないながら体から分泌されており、年単位で緩やかに発症するケースがある事も知られています。

原因は?

原因はまだ不明な点もありますが、約90%が自己免疫性(1A型)、残り10%が特発性(1B型、原因不明)とされています。上記の通り自己免疫が自分自身を攻撃する事が原因のため、他の免疫異常の疾患(バセドウ病や橋本病)を併発する事もあります。また、発症とウイルス感染の関連を示唆する報告が数多くされています。主なものとしてはエンテロウイルス、ムンプス、麻疹、サイトメガロウイルス、レトロウイルスなどです。新型コロナ感染が関与するかは現在調査されています。近年の情報ではロタウイルスのワクチンを接種したことで、1型糖尿病の発症が減ったという報告もあり、一部のウイルス感染の関与は強いとされます。2型糖尿病とは異なり、生活習慣は発症に無関係とされます。

遺伝するのか?

通常は遺伝しません。近年の報告では一部関与があるとされますが、2型糖尿病の方が遺伝的な関与は高いとされます。

症状は?

糖尿病の典型的な症状といわれる口渇(口が乾く)、多飲(冷たい水を含めて一日3L以上の水分摂取)、多尿(1-2時間ごとに尿に行く)、体重減少がよくある症状です。インスリンが分泌されないと、血糖の上昇に伴い尿に糖分が排出され、尿が増え脱水になります。また、インスリンの不足はエネルギーを細胞内に引き込み出来なくなり、細胞がエネルギー不足になり痩せていきます。さらに、インスリンが全くなくなった状態ではケトン体という酸性物質が産生され、ケトーシスやケトアシドーシスという危機的状態となり、昏睡や死に至るケースもあります。前年の健診までは血糖値の上昇は指摘されなかったといわれる患者さんがほとんどです。また、風邪症状など先行感染を伴う場合がよくあります。

治療法は?

前述の通り、ほとんどの場合、1型糖尿病の患者さんはインスリン療法が必須です。インスリンは今でこそ、糖尿病治療の最終手段のようなイメージがありますが、現在では開発が進み、遺伝子を組み替えたインスリンを使い分けて注射することで、血糖を正常に近付けることが可能です。当院ではインスリン複数回注射だけで無く、インスリン・ポンプを用いて、より安定した血糖コントロールが出来ることもあります。また、フリースタイルリブレなど簡便な血糖測定器を用いる事で負担も軽減します。

インスリン以外では、αグルコシダーゼ阻害薬は食後過血糖がある場合、1型糖尿病患者さんにも投与が可能です。また、最近、SGLT2阻害薬のうちスーグラⓇとフォシーガⓇが1型糖尿病にも投薬可能となり治療の幅が広がりました。しかし、血糖降下作用はインスリンに比較すると弱く、治療の主役はあくまでインスリン注射であるとご理解下さい。

経過は?

インスリン投与により、血糖をコントロールすれば、合併症なく糖尿病ではない人と同じような生活が出来ます。合併症については、目の合併症(糖尿病網膜症)で失明したり、腎臓の合併症(糖尿病腎症)で透析になったり、神経の合併症(糖尿病神経障害)で足を切断する可能性もあります。インスリンの自己中断は1型糖尿病では死につながる事もありえます。当院では患者様にとってより良い治療が受けられるように、インスリンの投与タイミングなどを相談しながら治療にあたってまいります。是非、ご相談下さい。

Clinical inertia(臨床的惰性)

「Clinical inertia」は臨床的慣性と訳される単語です。難しい表現ですが、物理学で惰性というと、ボールがコロコロと転がり続けるイメージになりわかりやすいと思います。病気に対する治療目標の未達にも関わらず適切な治療強化が施されていない状態といえます。糖尿病治療の「Clinical inertia」は、患者の血糖管理が不十分でありながら、積極的な治療介入が行われていない、もしくは先延ばしされている状態であり、これが日常診療でしばしば経験し、現在多くの研究・報告が行われています。

その一部を紹介し、原因についてお伝えします。
海外の報告では、2年以内に目標HbA1cを達成できた患者は56%と約半数に留まるとされています。また、HbA1cが目標値を超えて上昇してから、治療強化までの期間の中央値が1年以上であったとする報告や、日本でも基礎インスリン使用中の2型糖尿病患者で治療強化の必要があると認定された患者のうち21%しか積極治療を受けていないという報告があります。このように糖尿病治療の「Clinical inertia」が国内外で一般的な現象であり糖尿病を専門にする私も残念ながらこの惰性を打ち破るのは難しい事が多いです。

ここからは専門的な話ですが、この惰性の背景については、

  • ①注射や自己血糖測定の心理的負担
  • ②医療費
  • ③糖尿病治療の複雑化

が示されています。

①について、インスリンやGLP-1受容体作動薬の皮下注射に対する苦痛や心理的抵抗はよく遭遇します。そのため、多くの患者様が血糖値悪化への最初の対策として生活習慣の改善を試みる方を好み、治療介入が遅くなってしまいます。

②について、治療強化に必要なGLP-1受容体作動薬やインスリン製剤は高価であり、その治療導入と継続に躊躇が生まれやすいのも事実です。

③については、近年SGLT2阻害薬をはじめ新規薬剤の出現が相次ぎ、他の糖尿病を専門にしていない先生には治療強化への不安から積極的治療への抵抗が生まれます。そして、ほとんどの地域で糖尿病専門医の数が不足し、予約の待ち時間や診察時間を確保出来ないなど制約もあるのも事実です。
医師、患者、医療システムなど複数の要因によって生じる糖尿病の「Clinical inertia」に対して当院でも私だけでなく看護師や栄養士とともに、迅速かつ適切に患者中心の方法で治療を強化することを掲げています。
糖尿病患者の治療目標が達成できていないことは深刻な公衆衛生問題に繋がりかねないため、当院ではスタッフ一丸となって患者様とともに治療について考えていきます。

インスリン治療の重要性

①インスリンを何故打つのか?

  • 細胞にエネルギーを供給し、高血糖が原因で起こる有害生体反応を防止するためです。難しい単語ですが、時系列で考えると2つの意味合いがあります。
  • 短期的有害点:創傷治癒遅延、感染率悪化、術後合併症増加
  • 長期的有害点:合併症(網膜症・腎症・神経)、血管障害、認知症など

血圧をさげる際の注意点

  • 血糖は下げれば良いというわけでは有りません。低血糖は高血糖と同程度、もしくはそれ以上のリスクが報告されています。
  • 低血糖を避けるようにして血糖管理を行います。
  • 低血糖はいち早くブドウ糖投与を行いましょう。

②インスリンの種類について

効果発現による分類としては4種類あります。

  • 超速効型(ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラ)
  • 速攻型(ヒューマリンR、ノボリンR)
  • 中間型 (ノボリンN)
  • ・持効型(ランタス、レベミル、トレシーバ)

「ミックス」というのは①or②と③の混ざったもので、割合に応じて数字が付きます。

ノボラピッド70ミックスであれば、ノボラピッド7割、残り3割ノボリンNになります。

当院ではインスリン導入が必要な場合は上記のインスリンを使い分けつつ、治療にあたっていきます。