むくみと糖尿病の関係は?糖尿病性腎症の症状や予防のためのポイントも解説

「糖尿病になると手足がむくんでしまうのは本当なのか」
「どの程度症状が進行するとむくみが現れるのか知りたい」
「糖尿病によるむくみの治療法や予防するためのポイントは?」

糖尿病の症状について、このような疑問や不安をお持ちの方もいると思います。

むくみは体の中の水分量が多くなることで生じます。

一見すると糖尿病と関係がないように思えますが、糖尿病が進行・悪化することで体の中の余分な水分が排出されなくなり、むくみが現れることがあるのです。

もっとも、糖尿病は初期段階では目立った自覚症状が現れないことがほとんどです。

そのため、原因に心当たりがない場合にむくみが生じているケースでは、糖尿病がすでに進行している可能性があります。

本記事では、糖尿病でむくみが生じるメカニズムやむくみを生じさせる「糖尿病性腎症」という合併症について解説します。

むくみは、糖尿病だけでなく、さまざまな病気のサインにもなる症状です。

むくみを生じさせている原因によっては、生命に関わることもあります。

そのため、むくみのほかにも症状が現れている場合には、なるべく早期に専門の医療機関で精密検査を受けることがおすすめです。

1.むくみと糖尿病の関係

糖尿病の症状が進行すると、むくみが現れることがあります。

むくみとは、皮膚の下の組織に水分が溜まってしまい、その部分が腫れてしまう状態をいいます。

糖尿病によるむくみは、主に手や足に生じることが多いです。

糖尿病によってむくみの症状が引き起こされるのは、腎臓のはたらきが低下してしまうことに理由があります。

糖尿病は、膵臓で作られるインスリンというホルモンのバランスが崩れることによって発症します。

インスリンは、体の中の細胞にはたらきかけて、食事を通じて血液の中に吸収されたブドウ糖がエネルギー源として消費されるのを促す役割を担っています。

これによって、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が一定に保たれるのです。

しかし、インスリンの量が不足したり、細胞へのはたらきが弱められたりすることで、ブドウ糖がうまく細胞に吸収されなくなり、血糖値が高い状態が続いてしまいます。

そうすると、血液がドロドロの状態になり、血管が傷つけられたり詰まったりすることで、さまざまな臓器に影響が現れるのです。

特に腎臓には細い血管(毛細血管)が集まっており、老廃物のろ過や必要な栄養素の再吸収などのはたらきを担っています。

血糖値が高い状態が続くことで、腎臓の機能が低下し、血液をろ過して尿を作るはたらきが損なわれてしまいます。

これによって、老廃物が排出されず、体の中に溜まってしまうことでむくみが生じてしまうのです。

このように、血糖値が高い状態によって腎機能の低下が引き起こされるものを「糖尿病性腎症」といいます。

糖尿病性腎症は、糖尿病に合併しやすい病気であり、糖尿病性神経症と糖尿病性神経症と合わせて、三大合併症とも呼ばれています。

このうち、糖尿病性腎症は初期には目立った症状がほとんどなく、むくみなどの症状が現れた時点ですでに糖尿病が進行し、悪化している可能性があることに注意が必要です。

また、糖尿病の合併症を原因として動脈硬化や脳卒中などの病気を引き起こす可能性が高まり、生命に関わるリスクもあります。

もっとも、早期に発見することができれば、適切な治療によって症状の進行を食い止め、糖尿病性腎症をはじめとする合併症を発症してしまうことを予防できることも多いです。

そのため、健康診断を定期的に受け、体調の管理と把握に努めることが最も重要といえます。

また、血糖値が高いことを指摘されたり、生活習慣に不安があったりする場合には、糖尿病のリスクも考えて、なるべく早期に内分泌科や糖尿病専門のクリニックを受診して精密検査を受けることがおすすめです。

なお、糖尿病の疑いがある代表的な症状については、以下の記事も合わせてご覧ください。

また、糖尿病の三大合併症やほかの合併症の内容などについては、以下の記事で詳しく解説しています。

2.糖尿病性腎症のステージと主な症状

糖尿病性腎症は、症状の進行度合によってステージ化されています。

具体的には、5つのステージに分かれており、これらは、尿検査の数値を基準としています。

なお、それぞれのステージで見られる症状には違いがあります。

どのような症状が見られることが多いのかについては、以下で解説します。

(1)第1期(腎症前期)

糖尿病性腎症の初期段階では、自覚症状がほとんどないことが多いです。

もっとも、血糖値が高い状態が続いているため、以下のような症状が見られることがあります。

血糖値が高い状態が続くことで現れる主な症状

  • 尿の量・回数が多い
  • のどが異常に渇く など

血糖値が高い状態が長く続いていると、血液がドロドロになってしまうため、体は血管の外の細胞から水分を取り入れて濃度を薄くしようとします。

これによって血管の中に余分な水分があふれてしまい、それが尿として排出されるため、尿の量や回数が増えるのです。

また、細胞の水分が尿として排出されることで、体の中の水分が不足してしまい、のどの渇きとそれに伴う水分の摂取量の増加が起こります。

激しい運動などをしていないにも関わらず、のどの異常な渇きがある場合には、血糖値が高い状態が続いている可能性があるため、注意が必要です。

なお、血糖値が高いことによって引き起こされるそのほかの症状については、以下の記事も参考になります。

(2)第2期(早期腎症期)

このステージになると、腎臓のはたらきが少しずつ低下していくことになります。

先ほども述べたように、腎臓には血液をろ過して必要な栄養素を再吸収し、不要なもの(老廃物)を尿として排出するはたらきがあります。

腎臓の機能が低下すると、必要な栄養素を再吸収するはたらきが弱められてしまい、尿の中にタンパク質が漏れ出てしまう「蛋白尿」と呼ばれる症状が見られるケースがあるのです。

尿の中にタンパク質が混ざっていると、尿が泡立つなどの現象が現れることもあります。

なお、この段階でも目立った自覚症状はないことが多いです。

そのため、健康診断などで尿検査を行い、尿タンパク検査が陽性になってはじめて気づくというケースも少なくありません。

(3)第3期(顕性腎症期)

さらに腎機能が低下する第3期では、尿に混ざるタンパク質(アルブミン)の量が増加し、このステージになると、むくみなどの症状が現れることがあります。

そのため、むくみが生じている場合には、糖尿病性腎症も進行・悪化している可能性があることに注意が必要です。

また、老廃物を排出することができなくなり、余分な水分が体の中に溜まってしまうこともむくみが生じる原因の1つです。

このほか、息切れや疲れやすさ、食欲不振などの症状が現れることもあります。

なお、糖尿病の治療法のうち、経口血糖降下薬を用いた薬物療法を行っている場合には、薬の副作用によってむくみが引き起こされるケースがあることに注意が必要です。

特にインスリンのはたらきを改善させる薬によるむくみの副作用は女性に現れやすいという報告もあります。

(4)第4期(腎不全期)

このステージでは、腎臓のろ過のはたらきが停止することが多いです。

具体的には、「全身性浮腫」とも呼ばれる症状が現れ、心不全や肺に水が溜まる肺水腫によって、息切れや疲労感、消化器の不調による吐き気や嘔吐などが見られることもあります。

このほか、皮膚のかゆみや湿疹、顔色が悪くなるなどの症状が現れるケースもあります。

また、腎臓は血圧の調整にも関わるため、腎機能の低下に伴う高血圧が見られることも多いです。

なお、腎臓のろ過のはたらきが停止することで、カリウムの排出がされず、血液中にカリウムがあふれる「高カリウム血症」と呼ばれる状態に陥るケースがあります。

これによって、足がつりやすくなったり、こむら返りが起こりやすくなったりします。

また、高カリウム血症から不整脈が引き起こされることもあり、重篤な場合には生命に関わることもあるため、注意が必要です。

(5)第5期(透析療法期)

完全に腎臓の機能が停止してしまうと、尿を作り出すことができなくなり、老廃物を排出することができなくなってしまいます。

主に筋肉の痺れや硬直、発熱などの症状を伴うことがあります。

そのため、機械を用いて体に不要なものをろ過して排出する「人工透析」という治療が必要になることに注意が必要です。

なお、透析による治療を行っている間には、水分やカリウムの摂取量に制限が加わるなどの制約が多いことも押さえておきましょう。

人工透析が必要な状態になってしまうと、腎機能を元に戻すことは困難です。

そのため、腎臓のはたらきが完全に失われてしまう前に適切な治療を行い、症状の進行や悪化を防ぐ必要があります。

3.むくみの症状が見られるほかの病気

糖尿病の合併症である糖尿病性腎症では、腎臓の機能が低下することによってむくみの症状が現れます。

もっとも、むくみの症状は腎臓のはたらきが弱められることによって生じるため、糖尿病以外の病気が原因で腎機能が低下した場合にも、むくみが生じる可能性があるのです。

具体的には、むくみは以下のような病気によっても引き起こされるケースがあります。

むくみの症状が見られるほかの病気

  1. 心不全
  2. 肝硬変
  3. ネフローゼ症候群
  4. 甲状腺機能低下症
  5. リンパ浮腫
  6. 下肢静脈血栓症

それぞれのメカニズムやむくみ以外に現れる症状についてもご説明します。

(1)心不全

心不全とは、心臓が正常にはたらかなくなり、全身に血液や栄養素を送り出すことができなくなった状態をいいます。

心筋梗塞や高血圧などの病気を発症すると、心不全に陥ることが多いです。

主に動悸や息切れなどの症状が現れます。

また、血液の流れが悪くなり、腎臓に必要な酸素や栄養素が運ばれなくなることで腎機能が低下し、尿を作り出すことができなくなり、むくみが生じることがあるのです。

具体的には、脚の前面や足首、足の甲などに起こることが多く、指で押さえるとへこみができるようなむくみが見られます。

なお、心不全は糖尿病によっても引き起こされることが多い病気です。

そのため、糖尿病を発症すると、適切な治療を行わなければ心不全のリスクも高まることに注意が必要です。

(2)肝硬変

肝硬変は、肝臓を形作る肝細胞が減少したり死滅したりすることで生じる病気です。

運動不足による肥満やアルコールの過剰摂取などによって、肝臓に脂肪が貯まったり、肝臓の細胞が傷ついたりすることで引き起こされるほか、肝炎を引き起こすウイルスに感染することによっても発症することがあります。

肝臓には、タンパク質を作り出すはたらきのほか、体に有害な物質を分解して無害な物質に変えるはたらきなどがあります。

しかし、肝硬変になるとこれらのはたらきが低下し、タンパク質の中でもアルブミンという物質が作られなくなってしまうのです。

アルブミンには血液中の水分を保つはたらきがあるため、アルブミンが不足すると血液中の水分が外に出やすくなり、その水分が細胞や組織に溜まることでむくみが生じてしまいます。

主に両脚にむくみが現れるほか、腹部に水分が溜まって膨らむ「腹水」という症状が見られることが多いです。

また、ビリルビンという物質が肝臓で分解されずに沈着することで、皮膚や眼が黄色く変色する「黄だん」や皮膚のかゆみなどの症状が現れることもあります。

なお、肝硬変が進行すると、ホルモンバランスが崩れることで腎機能も低下してしまうケースがあるため、注意が必要です。

肝硬変を放置することで、肝がんを引き起こすリスクが高まることにも注意が必要といえます。

具体的には、肝硬変を発症してから10年以内に肝がんを発症するケースは30~50%に上るという報告もあります。

そのため、早期に発見し、適切な治療を行うことが重要です。

(3)ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群は、腎臓の中で血液をろ過する役割を持つ糸球体という器官が傷つくことで発症する病気です。

通常であれば、血液中のタンパク質は糸球体のはたらきによって体に再吸収されるものの、ネフローゼ症候群では糸球体がはたらかなくなり、タンパク質が大量に尿の中に漏れ出してしまいます。

これによって体の中にタンパク質が不足してしまい、血液中のアルブミンの濃度も下がってしまうため、血液から水分が流出して溜まることでむくみが生じるのです。

主に腹部や胸部にむくみが現れるほか、まぶたに水分が溜まって重く感じるケースもあります。

また、重力の影響を受けてむくみが全身にわたって移動することもあり、夜間はまぶたなど体の上の方でむくみが生じ、日中では立ったり座ったりすることで足首など体の下の方でむくみが生じます。

タンパク質のほかにも体に必要な栄養素が尿として排出されてしまうため、エネルギー不足に陥って全身の倦怠感を伴うこともあるのです。

なお、血液中のタンパク質の濃度が低くなると、中性脂肪の濃度が高くなり、血液が固まりやすくなってしまいます。

そうすると、血栓ができやすくなってしまい、血管を詰まらせてしまうことで脳梗塞や心筋梗塞を発症するリスクが高まります。

また、糖尿病を原因として腎機能が低下し、ネフローゼ症候群を引き起こしてしまうケースもあるため、注意が必要です。

(4)甲状腺機能低下症

甲状腺ホルモンのバランスが崩れ、甲状腺機能低下症を引き起こした場合にも、むくみが生じることがあります。

甲状腺ホルモンは、心臓の筋肉を収縮させて心拍数を増加させるほか、タンパク質や脂質の分解・吸収を促すはたらきがあります。

甲状腺機能低下症は、作り出される甲状腺ホルモンの量が不足することで、体の中のさまざまなはたらきが停滞してしまう病気です。

体の中に甲状腺ホルモンが不足してしまうと、皮膚の下にムコ多糖類(ヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸など)と呼ばれる物質が溜まってしまいます。

ムコ多糖類には水分を保持する性質があるため、これによってむくみや腫れなどが見られることが多いです。

具体的には、手足や顔などにむくみが生じることが多く、指で押してもへこまずにすぐに戻る点に特徴があります。

また、甲状腺ホルモンには胃や腸などの消化器の活動を促すはたらきがあるため、甲状腺機能低下症になると消化器の活動が停滞してしまいます。

これによって消化不良などを引き起こし、便秘や体重の増加などが見られることも多いです。

なお、むくみが重症化すると「粘液水腫」と呼ばれる病気を引き起こし、心臓などのはたらきを低下させ、昏睡や意識障害が生じるリスクが高まります。

これによって、呼吸困難などから死に至ることもあるため、早期に必要な治療を行うことが最も重要です。

甲状腺機能低下症を引き起こす原因や治療法、予防のためのポイントなどについては、以下の記事も合わせてご覧ください。

(5)リンパ浮腫

リンパ管に何らかの異常が生じると、リンパ管を通るリンパ液の流れが滞り、細胞の隙間に水分が溜まってしまい、むくみの原因となることがあります。

リンパ管は、血管と同じく、体中に張り巡らされています。

血管は、酸素や栄養素を体の細胞に運び、それぞれの細胞や組織から二酸化炭素などの老廃物を受け取って、処理をする臓器に運びます。

このとき、血管とともに老廃物を受け取って運ぶはたらきを担っているのがリンパ管です。

しかし、外科的処置などによってリンパ管が傷つけられたりすると、その中を通るリンパ液の流れが悪くなり、外の細胞や組織にしみ出すことで、むくみや腫れを引き起こします。

特にリンパ管をつなぐリンパ節という組織にがん細胞が転移した際に行われる外科手術の後遺症として生じることが多いです。

初期段階では軽度であることが多く、指で押すと跡がつくような柔らかいむくみや腫れが見られます。

また、むくみよりも先に体の重さや倦怠感といった症状が現れることが多いです。

もっとも、症状を放置することで次第に進行・悪化し、皮膚の表面が硬くなったりデコボコしたりするため、注意が必要です。

なお、リンパ節の切除を行った場合に必ずしもリンパ浮腫が生じるとは限りません。

ストレスや肥満などをトリガーとしてリンパ液の流れが滞り、リンパ浮腫を生じさせることがあるため、適度な運動や食習慣の改善などを行うことも予防には効果的といえるでしょう。

(6)下肢静脈血栓症

下肢静脈血栓症は、下肢(主に太腿やふくらはぎなど)の静脈に血の塊である血栓ができてしまい、血管が詰まってしまうことで生じます。

静脈は体の末端から心臓に戻る血液の流れであり、体の細胞や組織で受け取った老廃物などの不要物を肝臓などの処理器官に運ぶ役割も担っています。

そのため、静脈が詰まってしまうことで老廃物が溜まり、ふくらはぎなどにむくみや腫れなどが現れることが多いです。

なお、むくみや腫れは血栓ができることに原因があるため、血栓ができている片側のみに生じる点に特徴があります。

血栓が血液の流れに乗って肺の血管に運ばれると、呼吸困難や胸の痛みなどの症状が現れ、肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を引き起こすリスクもあります。

そのため、直ちに循環器内科などを受診することが必要です。

4.糖尿病性腎症の治療法

むくみの症状が見られる場合には、その原因を特定し、原因となっている病気などを治療することで症状の改善を目指します。

もっとも、糖尿病性腎症によるむくみの場合には、血糖値のコントロールのほか、ステージの進行度合いによって治療法が異なります。

ステージが進行するにつれて、治療法の選択肢も限られてくることに注意が必要です。

そのため、血糖値が高いことを指摘されたことがある場合には、むくみの症状が現れた時点で早期に専門の医療機関を受診することが大切といえます。

(1)第1期(腎症前期)

食事を通じて血糖値をコントロールすることが主な治療法です。

具体的には、1日の摂取カロリーのコントロールによって血糖値の改善を目指し、症状が進行・悪化するのを防ぐことが重要です。

1日の摂取カロリーについては、体重1㎏につき25~30kcalが基準値となります。

また、腎臓の機能が低下すると蛋白尿の症状が現れることがあるため、このステージでは過剰なタンパク質摂取を控えることが求められます。

なお、塩分の摂取量については制限がないものの、高血圧が見られる場合には、塩分の摂取量を1日に6gまでとする塩分摂取量の制限が行われることもあることを押さえておきましょう。

(2)第2期(早期腎症期)

糖尿病性腎症がある程度進行し、腎機能の低下が見られる状態であるため、より厳格な血糖値コントロールとともに、血圧を下げることが治療の中心となります。

具体的には、1日の摂取カロリーを体重1㎏につき25~30kcalとすることに加えて、タンパク質の摂取制限が行われます。

1日のタンパク質の摂取制限は、体重1㎏につき1.0~1.2gが目安となることが一般的です。

また、高血圧が見られる場合には、第1期と同様に塩分の摂取量を1日に6gまでとする制限が加わることもあります。

なお、血圧を下げるために食事の制限に加えて降圧薬による薬物療法がとられることもあります。

糖尿病と高血圧の関係や主な降圧薬の特徴については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。

(3)第3期(顕性腎症期)

蛋白尿やむくみなどの症状が現れていることが多い第3期でも、血糖値と血圧のコントロールを行うことが重要です。

1日の摂取カロリーについては、体重1㎏につき25~35kcalが基準となります。

尿に混ざるタンパク質の量が増加していることが多いため、1日のタンパク質の摂取量については、体重1㎏につき0.8~1.0gが基準となります。

なお、塩分の摂取量については1日につき7~8gが基準となります。

カリウムについては特に摂取制限が設けられていないものの、腎機能の低下が進行している場合には、過剰に摂取することで高カリウム血症を引き起こす可能性もあるのです。

そのため、むくみの症状の程度などに応じて、カリウム摂取が緩やかに制限される場合もあります。

また、これに合わせて水分の摂取量の制限が行われることもある点を押さえておきましょう。

(4)第4期(腎不全期)

ろ過の機能が停止していることが多いこのステージでは、血糖値の管理に加えて、塩分・タンパク質・カリウムの厳密な摂取コントロールが行われます。

塩分については、1日の摂取量が5~7gに制限され、タンパク質は体重1㎏につき0.6~0.8gに制限されることが一般的です。

また、カリウムについては1日に1.5gまでが摂取基準となります。

これに加えて、むくみの程度に応じて水分の摂取にも制限が加わることがあります。

なお、このステージでは症状の内容や程度によっては、透析療法がとられるケースがあることに注意が必要です。

(5)第5期(透析療法期)

透析治療が開始されているこのステージでは、透析療法における食事に準じて治療が進められます。

具体的には、1日の摂取カロリーについては、体重1㎏につき30~35kcalが基準となります。

また、タンパク質の摂取量は体重1㎏につき0.9~1.2g、塩分については1日につき6g未満が基準です。

これに加えて、カリウムは2000㎎以下、水分の摂取量はできるだけ少なくなるように調整を行うことが重要です。

5.糖尿病によるむくみを予防するためのポイント

むくみが一時的に現れる場合には、マッサージなどの対処療法で改善することがほとんどです。

もっとも、むくみの症状が長く続くようであれば、糖尿病などの病気によって引き起こされている可能性が高いです。

特に糖尿病の合併症である糖尿病性腎症によってむくみが生じている場合には、すでに糖尿病が進行・悪化している可能性もあります。

そのため、糖尿病によるむくみを予防するためには、まずは糖尿病の発症を予防することが効果的といえます。

具体的には、食事や運動を通じて血糖値をコントロールすることが大切です。

そのためには、以下のポイントを押さえておきましょう。

糖尿病によるむくみを予防するためのポイント

  1. 塩分の摂取量を減らす
  2. カリウムの摂取量を増やす
  3. ウォーキングなどの有酸素運動に取り組む
  4. レジスタンス運動を行う

順に見ていきましょう。

(1)塩分の摂取量を減らす

糖尿病によるむくみを予防するためには、普段から塩分の摂取量に注意を払いましょう。

塩分(ナトリウム)は水分を保持する性質があり、過剰に摂取することでむくみの原因になるほか、むくみの症状を悪化させる可能性があります。

また、塩分のとりすぎは血液や体液の量の増加を招き、血圧の上昇につながります。

血圧が高い状態が続くことで、血管内部に強い圧力がかかり続けて血管を傷つけると、動脈硬化のリスクが高まってしまうのです。

さらに、高血圧によって糖尿病を発症するリスクが高まってしまうことも知られています。

そのため、塩分の摂取量を減らすことは、むくみと糖尿病の両方を予防することにつながります。

(2)カリウムの摂取量を増やす

カリウムには、余分な塩分(ナトリウム)を排出するはたらきがあります。

そのため、塩分の摂取量を抑えると同時に、カリウムを多く摂取するようにすることもむくみを予防するために効果的です。

カリウムを多く含む食材には、以下のようなものがあります。

カリウムを多く含む食材

  • ほうれん草
  • 枝豆
  • 小松菜
  • 昆布
  • わかめ
  • バナナ
  • キウイフルーツ など

なお、腎機能が低下している場合には、カリウムを過剰に摂取することで高カリウム血症を引き起こす可能性があります。

そのため、腎機能の低下を伴う病気をすでに発症している場合には注意が必要です。

(3)ウォーキングなどの有酸素運動に取り組む

ウォーキングなどの有酸素運動に取り組むことで、血液の流れを改善し、むくみを予防したりむくみの症状を改善させたりすることが可能です。

具体的には、1日に8000歩を目標にすることが効果的とされています。

また、普段から階段を使ったり、少し速く歩いたり、日常生活の中で少しずつ体を動かす習慣を身につけましょう。

血液の流れを改善することはリンパの流れをよくすることにもつながるため、リンパ浮腫によるむくみを予防したり改善したりすることにも有益です。

また、有酸素運動を行うことで、血液中のブドウ糖がエネルギー源として消費されるため、血糖値の改善も期待することができます。

(4)レジスタンス運動を行う

有酸素運動と合わせて、筋力トレーニングなどのレジスタンス運動を行うこともむくみの予防や改善のために有益といえます。

特に脚の筋力を鍛えることで、むくみの予防や改善につながります。

これは、脚の筋肉が不足することで、血液を心臓に戻す力が低下し、それによってむくみが引き起こされてしまうことが関わっています。

そのため、脚に筋力をつけることは、心臓への血液の流れを改善させ、むくみを予防・改善する効果が期待できるのです。

なお、レジスタンス運動を通じて筋肉をつけることは、むくみだけでなく血糖値を改善することにもつながります。

筋肉をつけることで、血液中の余分なブドウ糖がグリコーゲンという形で蓄えられやすくなり、これによって血糖値を下げる効果が期待できるのです。

また、脂肪を減らし、筋肉を増やすことは、細胞に対するインスリンのはたらきを改善することにもつながるため、有酸素運動と合わせて取り組むことがおすすめです。

まとめ

本記事では、糖尿病とむくみの関係や糖尿病性腎症の症状などについて解説しました。

一時的ではなく、長い期間にわたってむくみの症状が現れている場合には、糖尿病やほかの病気によって引き起こされている可能性もあります。

特に尿糖や蛋白尿などの症状も現れている場合には、腎臓のはたらきが低下しており、糖尿病の合併症である糖尿病性腎症を引き起こしているリスクもあるため、注意が必要です。

糖尿病やそれに伴うむくみの症状は、血糖値のコントロールなどによって、予防・改善することができます。

症状が進行・悪化してしまう前に不調や違和感を覚えた場合には、内分泌科や腎臓内科などの専門の医療機関を受診するようにしましょう。