
糖尿病と血糖値の関係は?基準値や血糖値を抑えるためのポイントも解説
「糖尿病と血糖値にはどのような関係があるのか」
「血糖値が上昇するとどのような症状が現れる?」
「血糖値をコントロールするためのポイントについて知りたい」
糖尿病と血糖値の関係について、このような疑問や不安をお持ちの方もいるかと思います。
糖尿病は、血液中の糖の濃度が高い状態が慢性化することによって発症します。
そのため、定期的な血液検査を受診し、血糖値を把握することで、糖尿病の発症リスクを抑えることにつながるのです。
もっとも、具体的にどのような基準で糖尿病の診断がなされるかについては疑問をお持ちの方が多いでしょう。
血糖値といっても、糖尿病はいくつかの数値を測定することによって診断がなされます。
本記事では、糖尿病と血糖値の関係性や糖尿病の診断を行う際に測定される血糖値の検査項目について解説します。
また、血糖値が高い状態が続くことで現れる症状やそのメカニズムについても合わせて解説します。
糖尿病は慢性的な高血糖状態によって引き起こされますが、適切な血糖コントロールができれば、糖尿病発症のリスクを抑えることが可能です。
本記事では、血糖コントロールのためのポイントについても紹介しますので、ご自身の体調管理を見直すきっかけとなれば幸いです。
1.糖尿病と血糖値の関係
糖尿病は、慢性的に血液中の血糖値が高い状態によって、さまざまな症状を引き起こす病気です。
糖質(炭水化物)の分解・吸収に関わるインスリンという物質が作られなくなることや細胞に対するインスリンの作用が弱まることで生じます。
通常であれば、食事などを通じて糖質(炭水化物)が摂取されると、唾液に含まれるアミラーゼという酵素のはたらきによって、糖質はブドウ糖(グルコース)に分解され、血液中に吸収されます。
糖質は細胞や組織のはたらきに必要不可欠な栄養素であり、細胞や組織に取り込まれることで、エネルギーに変換されます。
このようなはたらきを糖代謝といい、ブドウ糖(グルコース)の分解・吸収を促進するはたらきを持つのが膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞で作られるインスリンという物質です。
血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)の上昇が見られた場合にはインスリンが放出され、細胞でのブドウ糖(グルコース)の吸収が促進されます。
これによって増えたブドウ糖(グルコース)がエネルギー源として消費され、血糖値が一定に保たれるのです。
もっとも、糖尿病ではこのような糖代謝に異常が生じてしまうことで、血糖値の上昇が見られます。
糖尿病になると、細胞に吸収されてエネルギー源となるはずのブドウ糖(グルコース)が吸収されないことによって血液中に大量に残ってしまい、血糖値が高くなってしまうのです。
なお、糖尿病を大きく分けると、β細胞の破壊に伴うインスリン量の低下が生じる1型糖尿病と各細胞でのインスリンの作用が弱まってしまう2型糖尿病があります。
1型糖尿病では、免疫機能の異常によってβ細胞が異物と判断されてしまい、これに対する自己抗体が作り出されてしまいます。
そして、この自己抗体がβ細胞を破壊することでインスリンを作り出すことが不可能となってしまうことで発症するのです。
つまり、1型糖尿病では、体の中のインスリン量が足りないことによって生じることを押さえておきましょう。
これに対して、2型糖尿病では、作り出されるインスリンの量に問題はないものの、細胞に対するインスリンの作用が弱められることによって発症します。
インスリンの作用が弱まってしまうことをインスリン抵抗性ともいい、肥満や慢性的な運動不足などの生活習慣の乱れによってインスリン抵抗性が高められてしまうことが知られています。
なお、糖尿病の中でも2型糖尿病が95%以上を占めます。
2型糖尿病では、急激に血糖値の上昇が見られることはほとんどなく、ゆっくりとした時間をかけて血糖値が上昇していき、それが慢性化することで発症する場合が一般的です。
そのため、健康診断などで血糖値が高いことが判明した場合には、糖尿病のリスクが潜んでいることに注意が必要です。
血糖値が高い状態を放置することで、糖尿病を発症してしまい、さまざまな合併症を患うリスクも高まります。
糖尿病の合併症には生命に関わる重篤な病気や症状もあるため、リスクを正しく把握し、定期的な血液検査を通じて血糖値の把握をすることが重要です。
糖尿病は、早期に発見することができれば、適切な治療を行うことで症状の悪化や合併症の発症を抑制することができます。
また、血糖値のコントロールによって、糖尿病の発症を予防することも可能です。
血糖値の把握のために必要な指標については次項で詳しく解説します。
2.糖尿病の診断基準と血糖値
糖尿病の診断は、主に血液検査の結果によって行われます。
具体的には、血糖値の測定によって診断が下される場合がほとんどです。
血液検査において参照される血糖値には、以下の3つの指標があります。
- 空腹時血糖値
- 食後血糖値
- HbA1c
このうち、1または2によって糖尿病であるかどうかが判断されることが多いです。
もっとも、いずれかのみを満たす場合には、日を開けて再度検査が行われ、糖尿病であるかの再評価が行われます。
それぞれの検査項目の概要と基準値についてご説明します。
(1)空腹時血糖値
空腹のときの血糖値を参考にする指標です。
具体的には、10時間以上食事をとっていない状態で測定する血糖値のことをいいます。
食事などによって糖質の取り込みを行っていないため、最も血糖値が低い状態であることから、診断の際や治療経過を判断する際に参照されることが多いです。
なお、一般的な健康診断の検査項目でもあるため、定期的に健康診断を受診している場合には正確に数値を把握することができます。
糖尿病の診断の際には、空腹時の血糖値が126㎎/dL以上であるか否かが基準値となります。
そのため、126㎎/dL以上である場合には糖尿病のリスクが高いと言えるでしょう。
もっとも、その基準よりも低い場合でも、110~125㎎/dLの範囲にあるときは、「糖尿病の疑いが否定できない」基準とされ、糖尿病境界型とも呼ばれます。
この時点で予防を行うことで、血糖値の上昇を抑えて糖尿病の発症リスクを抑制することができる場合があるため、定期的な健康診断を受けるだけでなく、数値の変動も意識することが大切です。
(2)食後血糖値
食事をとった後の血糖値を指します。
具体的には、食後2時間以内の血糖値であり、糖質が血液中に吸収された状態であることから、最も血糖値が高い状態です。
この時点では血液中のブドウ糖(グルコース)濃度が高いため、通常であればインスリンが放出されて細胞への取り込みが促されます。
その意味で、食後の血糖値はインスリンが正常にはたらいているか否かを評価する際に参照される指標といえます。
そのため、食後血糖値が高い状態では、インスリンが正常に作用していないことを意味し、糖尿病が疑われることになるのです。
具体的には、食後血糖値が200㎎/dL以上であるかどうかが診断の基準となります。
また、140~199㎎/dLの範囲にある場合には、糖尿病の可能性が疑われることにも注意が必要です。
なお、空腹時の血糖値が基準値に収まっていたとしても、食後血糖値が高い場合にも注意が必要となります。
一般的に空腹時血糖値あるいは食後血糖値が基準値を上回ると、糖尿病の診断がなされます。
もっとも、いずれの基準値も満たさない場合にも、後述するHbA1cの値が基準値以上となる場合には糖尿病と診断されます。
(3)HbA1c
HbA1cは、過去2か月程度の血液中のブドウ糖(グルコース)濃度を評価する指標です。
上記の空腹時血糖値および食後血糖値は、測定を行った時点での血糖値の評価しか行えないのに対して、HbA1cの測定を行うことで検査を行う前の一定の期間における血糖値の状態を把握することができます。
HbA1cはグリコヘモグロビンとも呼ばれ、血液中で酸素を運ぶ役割を担うヘモグロビンにブドウ糖(グルコース)が結合したものです。
血糖値が高い状態になると、ヘモグロビンに多くのブドウ糖(グルコース)が結合するため、HbA1cの値が高くなります。
そのため、HbA1cの値が高い場合には、持続的に血糖値の上昇が生じていることを意味し、6.5%以上の数値が測定されると糖尿病と診断されます。
もっとも、このような値が測定されても自覚症状に乏しく、無症状であることが多いのが特徴です。
HbA1cの値の上昇を放置すると、さまざまな症状が現れることがあるため、早期に治療を行うことが重要となります。
3.血糖値が高いことによって生じる主な症状
先ほども述べたように、血糖値が高い状態が慢性化すると、糖尿病を発症するリスクが高まります。
しかし、血糖値の上昇が見られても、初期の段階では自覚症状がほとんど現れることはないため、本人も気づかないケースが多いです。
そのため、知らないうちに高血糖の状態が慢性化することで、徐々に症状が進行するケースが多く見られます。
高血糖の状態が継続することで、主に以下のような症状が生じます。
- 頻尿・多尿
- のどや口の渇き
- 倦怠感・疲労感
- 体重の急激な減少
メカニズムも合わせて順にご説明します。
(1)頻尿・多尿
インスリンの欠乏や細胞へのはたらきが低下すると、血液中のブドウ糖(グルコース)が細胞内に吸収されなくなり、血糖値が上昇します。
これによって血管の外の細胞や組織との間で濃度の差が生じてしまうため、これを調整するために血液中に血管の外の細胞や組織から水分が取り入れられるのです。
そのため、血液中の水分量が増えてしまい、体は余分な水分を体の外に排出しようとし、頻尿や多尿の症状が現れるようになります。
なお、高血糖の状態が慢性化すると、いずれ尿の中に糖が流出する尿糖という症状が現れることになります。
通常、血糖は腎臓の尿細管という器官で再吸収され、尿の中に糖が流出することはほとんどありません。
具体的には、腎臓の中にある糸球体という器官でブドウ糖(グルコース)がろ過され、近位尿細管という器官で再吸収が行われるのです。
糸球体でろ過されるブドウ糖(グルコース)の量は血糖値と比例する一方、近位尿細管で再吸収されるブドウ糖(グルコース)の量には上限があり、約375㎎/分となっています。
つまり、血糖値が上昇した状態では、過剰な量のブドウ糖(グルコース)が糸球体でろ過されてしまい、近位尿細管での再吸収量の上限を上回ってしまうのです。
そして、上限を上回った分だけブドウ糖(グルコース)が尿の中に排泄されてしまい、尿糖という症状が現れてしまいます。
このように、尿の中に再吸収されなかったブドウ糖(グルコース)が排出されるため、糖尿病という名前がつけられています。
なお、一般的に血糖値が160~180㎎/dLを超えると、尿の中に糖が出てくるといわれています。
また、一般の健康診断の検査項目である尿検査でも尿糖が見られるかどうかを判定することが可能です。
そのため、尿検査で尿糖の項目が陽性となった場合には、糖尿病の可能性を視野に入れて糖尿病専門クリニックなどの専門の医療機関で精密検査を受診することを推奨します。
(2)のどや口の渇き
上記の頻尿・多尿の症状と合わせて、のどや口の渇きといった症状が現れる場合があります。
これは、頻尿や多尿の症状が現れると、体の細胞や組織の水分が血液中に移動し、それが体の外へ排出されてしまうため、細胞や組織の水分量が低下してしまうことに原因があります。
これによって体の細胞や組織に必要な水分量が枯渇してしまい、口やのどの渇きが現れ、水分を多く摂取する多飲の症状も現れるのです。
一般的に血糖値が250㎎/dL以上になると人はのどや口の渇きを感じるといわれています。
激しい運動などをしていないにも関わらず、水分を大量に摂取したり、水やお茶を大量に飲んでいるにも関わらずのどの渇きが収まらない場合には、糖尿病の可能性が疑われます。
もっとも、腎臓の機能が低下することによる慢性腎不全や血液中のカルシウム濃度が上昇する高カルシウム血症などのほかの病気でもこのような症状が見られるケースがあります。
判断に迷う場合には、一般内科や内分泌科を受診されることも検討しましょう。
(3)倦怠感・疲労感
インスリンの欠乏や作用の低下によってブドウ糖(グルコース)が吸収・分解されなくなると、細胞や組織の活動に必要な栄養素が取り込まれなくなってしまいます。
これによって、体の中のあらゆる細胞や組織がエネルギー不足に陥り、倦怠感や疲れやすさなどの症状が現れることがあります。
また、急激な血糖値の上昇が生じると、吐き気などの症状が現れることもあり、重篤な場合には意識障害や昏睡などが引き起こされるケースもあるため、注意が必要です。
もっとも、倦怠感や疲労感は血糖値の上昇以外の要因によっても現れることがあります。
具体的には、寝不足や過労、更年期障害などさまざまな要因や病気によっても生じるため、糖尿病であることに本人も気づかないケースが見られます。
また、鉄分の不足・欠乏によって、血液中の赤血球の量が減少することで酸素の運搬が滞り、動悸や息切れなどから倦怠感や疲れやすさが生じることもあります。
このように、倦怠感や疲労感はほかの病気でも見られることがあるため、糖尿病の症状であることが見逃されてしまうことが多いです。
(4)体重の急激な減少
ブドウ糖(グルコース)が吸収されないことによって、糖質(炭水化物)を摂取してもエネルギー源として利用することができなくなってしまいます。
これによって、肝臓や筋肉に蓄えられているグリコーゲンをエネルギー源として分解してしまい、体重の減少が生じてしまうのです。
なお、体重の減少については、ほかの代謝異常の病気によっても生じることがあります。
例えば、甲状腺の病気の中でもバセドウ病では、血液中に放出される甲状腺ホルモンの量が通常よりも過剰になってしまいます。
甲状腺ホルモンは腸管における糖質の吸収を促進するはたらきのほか、肝臓での脂質やタンパク質の分解・吸収を促進する役割も担っています。
そのため、バセドウ病では甲状腺ホルモンが過剰に血液中に放出されることでこれらのはたらきが高められ、過剰に栄養素が分解・吸収されることで体重の急激な減少が見られるのです。
また、一般的にはがんでも体重の急激な減少が見られることに注意が必要です。
これはがん細胞が作り出した物質に必要なエネルギーが奪われてしまうことで生じることが多いとされています。
このように、体重の減少も糖尿病以外の病気で見られる症状であるため、これらとの区別が難しく、見逃されてしまう可能性があるのです。
4.糖尿病によって引き起こされる主な合併症
糖尿病は慢性的な高血糖の状態になることで、上記のような症状が現れます。
そして、慢性的な高血糖が持続することで、血管の状態が悪化し、さまざまな合併症を引き起こすリスクが高まることに注意が必要です。
特に体の末端や組織に入り組んでいる細い血管(毛細血管)から損傷がはじまり、それが次第に動脈などの太い血管にまで広がっていく場合があります。
以下では、糖尿病によって引き起こされる主な合併症について解説します。
(1)毛細血管が傷つくことで生じる合併症
毛細血管は、体の末端や組織の中に複雑に入り組んだ細い血管のことです。
慢性的な高血糖状態に陥ることで、毛細血管が傷つけられ、血液の流れが滞ることで以下のような合併症を発症するリスクが高まります。
- 糖尿病性網膜症
- 糖尿病性腎症
- 糖尿病性神経症
これらは一般的に糖尿病の三大合併症とも呼ばれています。
中には生命に関わるものもあるため、リスクを把握した上で予防に努めることが重要です。
#1:糖尿病性網膜症
高血糖の状態が慢性化すると、血液中のブドウ糖(グルコース)が固まりやすくなり、末端の毛細血管が詰まりやすくなってしまいます。
これによって、眼の一番奥にある網膜という神経の膜に通っている毛細血管の一部がこぶ状に拡張する毛細血管瘤が生じやすくなります。
網膜は硝子体と呼ばれるゼラチン質の器官を経由して届いた光などの刺激を電気信号として変換し、神経から脳に伝達することで視覚のはたらきに重要な役割を果たしています。
そして、網膜への血液の流れが悪くなることで酸素や栄養分が不足して生じるのが糖尿病性網膜症であり、主に眼のかすみや視力低下などが生じます。
症状が進行・悪化すると硝子体の内部で出血が起こり、失明するリスクもあります。
もっとも、初期には自覚症状が現れず、本人も気づかないうちに進行してしまうことがほとんどです。
眼科の定期健診を受診することで判明し、早期発見と治療につながることもあるため、必要に応じて眼科を受診して検査を受けることも大切です。
#2:糖尿病性腎症
高血糖の状態が慢性化することによって、腎臓の機能が低下することにも注意が必要です。
腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排出するほか、体の中の水分量やミネラル量、血圧などの調整にも関わります。
高血糖の状態が慢性的になると、毛細血管の傷みや詰まりなどが生じ、腎臓で老廃物のろ過を担う糸球体の機能が低下し、老廃物の排出がうまくできなくなってしまいます。
これは、糸球体が毛細血管が複雑に入り組んでできていることに理由があります。
毛細血管が詰まることで糸球体の機能が低下し破壊されると、血液中のタンパク質(アルブミン)が尿の中に漏れ出すことによるタンパク尿の症状が生じます。
このほか、症状が進行すると血圧の調整ができないことによる高血圧や老廃物の排出機能の低下によるむくみなどが生じるケースもあります。
糸球体の破壊が進行すると、腎機能不全に陥り、慢性的に老廃物をろ過・排出できなくなってしまい、人工透析や腎移植が必要となる場合もあるので、注意が必要です。
もっとも、糖尿病性腎症も初期は自覚症状に乏しく、進行に気づかないケースが多いのが特徴です。
しかし、早期発見と適切な治療によって糖尿病性腎症も予防することが可能であり、医療機関で定期的な尿検査を行うことで早期発見につながる場合があります。
#3:糖尿病性神経症
高血糖の状態が慢性化すると、末梢神経のはたらきに異常が生じてしまいます。
神経は、脳や脊髄などによって構成される中枢神経とそこから手足に広がる末梢神経の2つがあります。
また、末梢神経には、ものを触る際に関わる感覚神経、手足を動かす際の運動神経、呼吸や血圧の維持・調整などの無意識的な活動に関わる自律神経があります。
特に神経は手指などの末端にいくほど血管が細くなるため、高血糖の状態が続くことで、末端の血管が詰まりやすくなり、酸素や栄養素が十分に運搬されなくなってしまいます。
また、神経の活動に必要な栄養素が運ばれなくなることで、末梢神経のはたらきが鈍くなるなどの症状が現れるのです。
具体的には、手指や足先の痺れや冷えが生じるほか、足裏に紙や布が張り付いたような感覚に陥る場合もあります。
なお、自律神経に異常が生じると、立ち眩みや発汗量の増加、消化不良などの症状が現れるケースもあります。
症状を放置することで、痛みを感じなくなり、免疫機能も低下することから、細菌感染による炎症や足の組織の壊疽などのリスクが高まります。
小さな傷口から感染症が生じてもこれに気づかず、組織の壊疽が進行してしまい、手足の切断を余儀なくされるケースもあるのです。
このように、糖尿病性神経症そのものが命に関わるわけではないものの、神経障害によって病気に気づきにくくなり、重症化のリスクが高まることに注意が必要です。
(2)大型血管が傷つくことで生じる主な合併症
高血糖の状態が慢性化すると、毛細血管だけでなく太い血管も傷ついてしまうリスクが高まります。
具体的には、糖尿病は動脈硬化を引き起こすリスクが高いことでも知られています。
動脈硬化とは、動脈の血管の壁のしなやかさが失われて硬くなり、血管内部にさまざまなものが沈着することで血管が詰まりやすくなった状態のことです。
動脈硬化が進行することで、主に以下のような合併症のリスクが高まるため、注意が必要です。
- 狭心症
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
それぞれについてご説明します。
#1:狭心症
狭心症は、心臓の筋肉(心筋)を取り巻く太い血管である冠動脈が狭まってしまい、心筋に酸素や栄養分を運びづらくなる病気です。
狭心症を発症する原因としては動脈硬化が最も多く、肥満や糖尿病、高血圧などの事情によっても発症しやすくなります。
主に階段を上ったときや重いものを運んだときに息苦しさや胸の痛み・圧迫感といった症状が見られます。
もっとも、これらの症状が現れても安静にしていれば治まることが多いため、本人も気づかないうちに進行してしまうことが多いです。
狭心症であることに気づかずに放置してしまうと、後述する心筋梗塞を引き起こすリスクが高まるため、注意を要します。
#2:心筋梗塞
心筋梗塞は、心筋の冠動脈が詰まってしまうことによって心筋に酸素や栄養分を運ぶことができなくなる病気です。
冠動脈が詰まってしまう主な原因は動脈硬化であり、血管の内部にコレステロールなどが沈着したプラークが生じ、これが何らかの原因によって亀裂が入り、血栓ができてしまうことによって引き起こされます。
これによって心筋は活動に必要な酸素や栄養を得ることができなくなり、心筋の組織が壊死してしまいます。
胸や上半身の不快感や激しい痛みなどを伴い、突然死を引き起こすこともある重篤な病気です。
糖尿病では高血糖の状態が続いてしまうほか、腎臓の機能が低下して高血圧などの症状も現れるため、心筋梗塞が生じやすくなります。
また、糖尿病の三大合併症である糖尿病性神経症が進行すると、痛みを感じなくなるケースがあり、心筋梗塞による激しい痛みに気づかずに突然死につながるリスクもあるのです。
#3:脳梗塞
脳梗塞は、脳の血管が詰まってしまうことによって脳の細胞に酸素や栄養分を送ることができなくなる病気です。
発症のメカニズムは心筋梗塞と似ており、動脈硬化によって引き起こされることが多いです。
血流が途絶えてしまうことで脳の細胞が壊死し、脳の神経細胞の伝達が行われないことによってさまざまな症状が現れます。
血管の詰まりが脳のどの部分で生じるかによって現れる症状には違いが見られますが、主に以下のような症状が現れることが多いです。
- 呂律が回らない
- 手足の痺れや感覚の喪失
- 文字を読んだり書いたりすることができない
- 記憶力や集中力の低下 など
症状を放置してしまうと、体の麻痺や言語障害などの重篤な後遺症を来すケースがあるほか、生命に関わることもあります。
5.血糖値の上昇を抑えるためのポイント
血糖値が上昇し続けることによって、さまざまな症状や合併症を引き起こすリスクが高まります。
合併症を引き起こしてしまうと、インスリン注射などの治療が不可欠となるため、合併症が生じる前に予防を行うことが何よりも大切です。
糖尿病やそれに伴う合併症は、適切な血糖コントロールができれば、予防や症状の悪化の抑制をすることが十分に可能です。
高血糖の状態を予防するための方法として、以下のものが挙げられます。
- 糖質を多く含む食品に注意する
- 食物繊維やビタミンなどを合わせて摂取する
- タンパク質・脂質のとり方を工夫する
- 血糖値を上昇させない食べ方を意識する
- 朝食をしっかりとる
- 適度な運動習慣を取り入れる
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
(1)糖質を多く含む食品に注意する
糖質(炭水化物)を摂取することによって血糖値が上昇するため、糖質を多く含む食品の摂取は控えるようにしましょう。
血糖値を急激に上昇させる食品を多く摂取してしまうと、血糖値を下げるために短時間で大量のインスリンが必要となり、血糖値をうまく下げることができなくなってしまいます。
もっとも、糖質を多く含む食品の中でも、血糖値が急激に上昇するものと緩やかに上昇していくものの2つがあります。
例えば、甘い菓子パンや白米、麺類などは血糖値を急激に上昇させてしまうため、注意が必要です。
これに対して、雑穀米や芋類、かぼちゃなどは血糖値の上昇が比較的緩やかであることが知られています。
このように、同じ糖質を含む食品でも血糖値の上昇スピードに違いがあるため、なるべく血糖値の上昇を緩やかにする食品をとるように心がけることが重要です。
(2)食物繊維やビタミンなどを合わせて摂取する
食物繊維やビタミン、ミネラルは糖質の吸収を抑制し、血糖値の上昇を緩やかにするはたらきがあります。
そのため、糖質を多く含む炭水化物をとるときには、これらの栄養素と合わせて取り入れることで、急激な血糖値の上昇を抑制する効果が期待できます。
例えば、玄米や野菜、海藻類やきのこなどにはこれらの栄養素が多く含まれているため、炭水化物に偏った食習慣を見直し、野菜や海藻類を多くとるなどの対策も有効です。
(3)タンパク質・脂質のとり方を工夫する
タンパク質は筋肉や内臓などの細胞や組織を作り出す際の材料となる栄養素です。
また、脂質は腸での吸収が緩やかであることから、糖質と合わせて摂取することで、糖質の吸収も緩やかになり、急激な血糖値の上昇を抑制する効果が期待できます。
さらに、筋肉をつけて長期的にインスリンの効果が現れやすくすることも可能です。
タンパク質や脂質を多く含む食品としては、肉や魚、大豆などがあります。
もっとも、動物性タンパクの過剰摂取には弊害もあるため、肉をとるときは脂肪分の少ない部位を選ぶことが大切です。
なお、魚や大豆でタンパク質をとることもおすすめです。
(4)血糖値を上昇させない食べ方を意識する
血糖値を上昇させないためには、上記のような栄養素のバランスに加えて、食べ方も重要です。
糖質がゆっくりと吸収される食べ方・順番を意識することで、血糖値の上昇を抑えることができます。
具体的には、食物繊維の多い野菜類を最初にとり、次にタンパク質や脂質、最後に炭水化物をとる順番で食事をすると、血糖値が上昇しにくくなります。
このように、摂取する栄養素のバランスはもちろん、食べ方や順番も意識することが血糖値のコントロールをする上では有効といえます。
(5)朝食をしっかりとる
1日の食事量が同じ場合でも、朝食を抜くと血糖値が上昇しやすくなることが知られています。
これは、朝食を抜くことで昼食や間食の量が増えることで、食事の量に偏りが生じ、血糖値が上昇しやすくなることに要因があると考えられているためです。
また、朝食に食物繊維を多く含む食品をとることで、昼食などの次にとる食事の際に血糖値が上昇しにくくなることが報告されています。
そのため、朝食を抜くことなくしっかりとることが血糖値の上昇を抑制することにつながるのです。
なお、朝の8時30分以前に朝食を摂取する人は、そうでない人と比べて空腹時血糖値が低いことが報告されています。
また、細胞におけるインスリンの作用が高まり、血糖値の抑制につながることも知られています。
(6)適度な運動習慣を取り入れる
運動習慣は、血糖値のコントロールに有効な方法の1つです。
運動することによって、体の中の糖代謝を高めることができ、それが翌日まで持続することが知られており、血糖値の上昇を抑制する効果をキープすることができます。
なお、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を行うことで、血糖をエネルギーに変換することを促進できるため、血糖値の低下が期待できます。
また、ブドウ糖(グルコース)が蓄えられるのは主に筋肉であるため、筋肉をつけるための筋トレや無酸素運動を合わせて行うことも効果的です。
運動のタイミングも重要であり、食後15分を目安に軽い体操や散歩などを行うことがおすすめです。
このタイミングで運動を行うことで、血糖値の上昇が抑えられやすく、立っているだけでも効果が期待できます。
運動習慣がない場合には、まずは無理のない範囲から運動をはじめ、それを継続していくことが大切なのです。
まとめ
本記事では、糖尿病と血糖値の関係や血糖値が高い状態が続くと現れる症状などについて解説しました。
血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つき、さまざまな合併症を発症するリスクが高まります。
そのため、定期的に血液検査を受け、血糖値の把握をしておくことが糖尿病やそれに伴う合併症を予防することにつながります。
また、糖尿病やそれに伴う合併症は、血糖値のコントロールを行うことで症状の悪化や発症リスクを抑えることが可能です。
血糖値が高い方は、本記事でも紹介した血糖値の上昇を抑えるためのポイントも踏まえながら、生活習慣の見直しや改善を図ることから始めてみましょう。