
糖尿病とはどのような病気?メカニズムや主な症状について解説
「糖尿病とはどのような病気?」
「主にどのような症状が現れるのか知りたい」
「糖尿病を放置するリスクは?」
糖尿病は、糖質を分解・吸収する体の中のはたらきに異常を来すことで生じます。
糖質は主に炭水化物を摂取することで体の中に取り込まれ、私たちの体の活動のエネルギー源となる重要な栄養素の1つです。
具体的には、細胞を作り出したり、組織や臓器が正常に活動するためのエネルギー源として活用されたり、さまざまな役割を果たします。
しかし、体の中で糖質の分解・吸収がうまく行われなければ、血液中に余分な糖質が残ったままとなります。
糖尿病は、糖質の分解・吸収作用がうまくはたらかなくなり、血液中に余分な糖質が残ったままの状態が続くことで発症するのです。
これによって、さまざまな症状や合併症を引き起こす恐れがあるため、早期に適切な治療を行うことが重要です。
本記事では、糖尿病が生じるメカニズムや主な症状などについて解説します。
また、糖尿病が進行することによって生じる可能性がある代表的な合併症についても合わせて解説しています。
糖尿病は、早期に発見することができれば、適切な治療を行うことで合併症の発症を抑えることが可能です。
本記事で紹介した症状が現れた場合には、早期に内科や糖尿病専門のクリニックを受診されることを推奨します。
1.糖尿病とは
糖尿病は、糖代謝の異常によって慢性的な高血糖状態が続くことで、さまざまな病気を引き起こすものといえます。
私たちは生命活動を維持するために、タンパク質や脂質、糖質(炭水化物)などの必要な栄養素を食事などを通じて取り入れています。
これらの栄養素は体の中の細胞に吸収され、新しい細胞を作り出す材料にされたり、エネルギーに変換されたり、さまざまな生命活動に利用されているのです。
このうち、糖質を利用して体の中の細胞を作り出したり、エネルギー源に変換することを糖代謝といいます。
糖尿病は、これらの栄養素のうち糖質(炭水化物)の吸収・分解がうまくできなくなる病気のことを指します。
糖質は、唾液に含まれるアミラーゼという酵素によってブドウ糖(グルコース)に分解されると、血液中に吸収されます。
このときに、ブドウ糖(グルコース)が細胞に吸収されるのを助ける役割を持つのが、膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞から放出されるインスリンという物質です。
インスリンは細胞にある受容体と呼ばれる器官に作用し、ブドウ糖(グルコース)が細胞の中に吸収されるのを促進するはたらきを担っています。
このようなインスリンのはたらきによって、ブドウ糖(グルコース)は細胞に吸収され、新しい細胞を作り出す材料や活動のエネルギー源として利用されるのです。
また、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)は一定に保たれていることが必要であり、エネルギー源として利用されない余分なブドウ糖(グルコース)は肝臓や筋肉などにグリコーゲンという形で蓄えられています。
インスリンは、ブドウ糖(グルコース)を蓄えやすいグリコーゲンという形に変えるはたらきも担っているのです。
糖尿病は、膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞が減少してインスリンを作り出せなくなった場合やインスリンを作り出すことはできても、細胞の受容体への作用が弱まることによって発症します。
特にインスリンを作り出せなくなることによるものを1型糖尿病、細胞へのインスリンの作用が低下したことによって生じるものを2型糖尿病と呼んで区別しています。
このうち、1型糖尿病は遺伝的要因に何らかの環境的な要因が加わることによって発症するといわれています。
2型糖尿病とは異なり、生活習慣との関連性は乏しく、統計的にはアジア人よりも欧米人に多いです。
なお、糖尿病のうち95%以上を占めるのが2型糖尿病であり、1型糖尿病よりも遺伝による影響が大きく、これに生活習慣の要因が加わることで発症することが多いとされています。
具体的には、運動不足や脂質の多い食事習慣など、肥満に傾くような生活習慣を持っている場合に2型糖尿病を発症しやすくなるといわれています。
これは、肥満が体の細胞の受容体に対するインスリンの作用を弱めてしまうことに原因があるからです。
糖尿病になると、糖質(炭水化物)の吸収・分解がうまくできなくなってしまい、それによっていくつかの症状が現れます。
具体的な症状については、次項で詳しく解説します。
2.糖尿病の主な症状
糖尿病では、血液中の糖の濃度(血糖値)が基準よりも高い状態となります。
具体的には、以下の指標を用いて判断されます。
- 空腹時の血糖値が126㎎/dL以上
- 食後の血糖値が200㎎/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
これらのいずれかの指標に該当する場合、糖尿病と診断されます。
なお、血糖値が160~180㎎/dL程度にまでなると、尿の中にも糖が含まれることがあります(尿糖)が、初期症状では必ずしも検出されないケースが多いです。
そのため、糖尿病の初期には目立った症状が現れず、自覚症状がほとんどであることから、本人も知らないうちに症状が進行する場合があることに注意が必要です。
糖尿病には、主に以下のような症状が見られます。
- 頻尿・多尿
- のどの渇き
- 倦怠感・疲労感
- 体重の急激な減少
糖尿病は症状が進行すると、さまざまな合併症が現れ、その中には命に関わるものもあります。
早期発見ができれば、適切な治療を通じて合併症を予防することができるため、このような症状が現れた場合には糖尿病の可能性も視野に入れて一般内科や糖尿病専門クリニックなどを受診することがおすすめです。
(1)頻尿・多尿
インスリンの欠乏や細胞へのはたらきが低下すると、血液中のブドウ糖(グルコース)が細胞内に吸収されなくなり、血液中に残った状態となります。
これによって、血糖値が上昇することとなります。
血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度が上昇すると、血管の外の細胞や組織との間で濃度の差が生じてしまうため、これを調整するために血液中に血管の外の細胞や組織から水分が取り入れられます。
これによって血液中の水分量が増えてしまい、体は余分な水分を体の外に排出しようとし、頻尿や多尿の症状が現れるのです。
通常、血液中のブドウ糖(グルコース)は腎臓の尿細管という器官で再吸収され、尿に糖が流出することはほとんどありません。
具体的には、腎臓の中にある糸球体という器官でブドウ糖(グルコース)がろ過され、近位尿細管という器官で再吸収が行われることによって、体の外に糖が排出されるのが抑制されます。
糸球体でろ過されるブドウ糖(グルコース)の量は血糖値と比例する一方、近位尿細管で再吸収されるブドウ糖(グルコース)の量には上限があり、約375㎎/分となっています。
血糖値が上昇した状態では、過剰な量のブドウ糖(グルコース)が糸球体でろ過されてしまい、近位尿細管での再吸収量の上限を上回ってしまい、上限を上回った分だけブドウ糖(グルコース)が尿の中に排泄されてしまうのです。
尿の中に再吸収されなかったブドウ糖(グルコース)が排出されるため、糖尿病という名前がつけられています。
なお、先ほども述べたように、血糖値が上昇し始めた初期の段階では、必ずしも尿の中に糖が含まれるわけではありません。
しかし、血糖値が高い状態が慢性化するに従って、尿に糖が含まれる症状が現れることになります。
そのため、尿に糖が含まれる状態は、糖尿病が進行していることを意味するため、検査で尿糖が判明した場合には、直ちに一般内科や糖尿病専門クリニックを受診し、適切な治療を開始することが重要です。
(2)のどの渇き
頻尿や多尿の症状が現れると、体の細胞や組織の水分が血液中に移動し、それが体の外へ排出されているため、細胞や組織の水分量が低下してしまいます。
そのため、必要な水分量が枯渇し、口やのどの渇きが現れ、水分を多く摂取する多飲の症状も現れることに注意が必要です。
特に異常なほどの口やのどの渇きによって、頻繁に水分補給を行っている場合には、糖尿病の可能性もあります。
なお、糖尿病におけるのどの渇きは、頻尿や多尿とセットで現れるのが特徴的です。
(3)倦怠感・疲労感
インスリンの欠乏や作用の低下によってブドウ糖(グルコース)が吸収・分解されなくなると、細胞や組織の活動に必要な栄養素が取り込まれなくなってしまいます。
これによって、細胞や組織はエネルギー不足に陥り、倦怠感や疲れやすさなどの症状が現れやすくなります。
もっとも、倦怠感や疲労感は血糖値の上昇以外の要因によっても現れることが多いことに注意が必要です。
具体的には、寝不足や過労、更年期障害などさまざまな要因や病気によっても生じます。
また、鉄分の不足・欠乏によって、血液中の赤血球の量が減少することで酸素の運搬が滞り、動悸や息切れなどから倦怠感や疲れやすさが生じることもあるのです。
特に糖尿病は徐々に進行していくため、主に中高年で発症することが多く、更年期障害などのほかの病気と間違われてしまうこともあります。
このように、倦怠感や疲労感はほかの病気でも見られることがあるため、糖尿病の症状であることを本人も自覚していない場合には、発見が遅れるケースもあります。
(4)体重の急激な減少
糖尿病では、ブドウ糖(グルコース)が吸収されないことによって、糖質(炭水化物)を摂取してもエネルギー源として利用することができなくなってしまいます。
これによって、肝臓や筋肉に蓄えられているグリコーゲンをエネルギー源として分解してしまい、体重の減少が生じてしまうのです。
そのため、十分な食事をとっていても、体重が急激に減少している場合には、糖尿病の可能性があります。
なお、体重の減少は糖尿病以外のほかの代謝異常の病気によっても生じることがあります。
例えば、甲状腺の病気の中でもバセドウ病では、甲状腺で作り出される甲状腺ホルモンの量が通常よりも過剰になってしまいます。
甲状腺ホルモンは腸管における糖質の吸収を促進するはたらきのほか、肝臓での脂質やタンパク質の分解・吸収を促進する役割も担っています。
バセドウ病では甲状腺ホルモンが過剰に血液中に放出されることで、これらのはたらきが高められ、過剰に栄養素が分解・吸収されることで体重の急激な減少が見られるのです。
また、一般的にはがんでも体重の急激な減少が見られます。
これは必要なエネルギーが体の中にできたがん細胞に奪われてしまうことで生じることが多いです。
体重の減少も糖尿病以外の病気で見られる症状であるため、これらとの区別が難しく、見逃されてしまう可能性があります。
もっとも、体重の急激な減少が生じるのは、必要な栄養素をうまく分解・吸収できないことによる代謝異常によることが多いです。
特に理由のない体重減少が生じている場合には、代謝異常による病気である可能性も疑い、内分泌科などの専門の医療機関を受診することも検討しましょう。
内分泌科であれば、糖尿病の検査や診察を行うこともできるため、急激な体重減少が生じた場合には代謝異常の病気の可能性も視野に入れて受診することが重要です。
3.糖尿病の主な合併症
上記のように、糖尿病が進行するとさまざまな症状が現れます。
しかし、場合によっては糖尿病が進行していたとしても、上記のような典型的な自覚症状が乏しいケースも見られます。
糖尿病であることに気づかず、そのまま放置してしまうことで、さまざまな合併症のリスクが高まるのです。
具体的には、以下のような合併症が引き起こされる可能性があります。
- 糖尿病性神経症
- 糖尿病性網膜症
- 糖尿病性腎症
これらは一般的に糖尿病の三大合併症と呼ばれ、高血糖の状態が継続することで血管に影響が生じ、それによって引き起こされるものがほとんどです。
糖尿病では、合併症を発症することによって生命に関わるリスクもあるため、合併症を発症してしまう前に適切な治療を行うことが重要です。
早期に血糖値の上昇を抑えることができれば、これらの合併症を発症する可能性を抑制することができます。
そのため、普段から健康診断を定期的に受診し、体の状態を把握することが糖尿病や合併症のリスクを軽減することにもつながります。
(1)糖尿病性神経症
神経は、脳や脊髄などによって構成される中枢神経とそこから手足に広がる末梢神経の2つがあります。
また、末梢神経には、ものを触る際に関わる感覚神経、手足を動かす際の運動神経、呼吸や血圧の維持・調整などの無意識的な活動に関わる自律神経があります。
高血糖の状態が慢性化すると、末梢神経のはたらきに異常が生じてしまうのです。
特に神経は手指などの末端にいくほど血管が細くなるため、高血糖の状態が続くことで、末端の血管が詰まりやすくなり、酸素や栄養素が十分に運搬されなくなってしまいます。
また、神経の活動に必要な栄養素が運ばれなくなることで、末梢神経のはたらきが鈍くなるなどの症状が現れるのです。
具体的には、手指や足先の痺れや冷えが生じるほか、足裏に紙や布が張り付いたような感覚に陥る場合もあります。
なお、自律神経に異常が生じると、立ち眩みや発汗量の増加、消化不良などの症状が現れるケースもあります。
もっとも、適切な血糖コントロールを行うことによって、これらの症状を軽減させたり、なくしたりすることも可能です。
しかし、症状を放置することで血糖値が高い状態が慢性化すると、痛みを感じなくなり、免疫機能も低下することから、細菌感染による炎症や足の組織の壊疽などのリスクが高まります。
小さな傷口から感染症が生じてもこれに気づかず、組織の壊疽が進行してしまい、手足の切断を余儀なくされるケースもあります。
また、痛みを伴う病気にも気づかず、発見が遅れることで突然死につながるリスクもあります。
例えば、心筋梗塞の場合には、通常であれば胸に強い痛みが生じますが、それを感じることができずに処置が遅れてしまうケースもあるのです。
そのため、糖尿病性神経症そのものが命に関わるわけではないものの、神経障害によって病気に気づきにくくなり、重症化のリスクが高まることに注意が必要です。
(2)糖尿病性網膜症
眼の一番奥の眼底には網膜と呼ばれる神経の膜があり、そこには細かな血管である毛細血管が張り巡らされたように存在しています。
眼にある水晶体と呼ばれる器官はレンズのようなはたらきをしていて、ここを通った光などの刺激が硝子体と呼ばれるゼラチン質の器官を経由して網膜で受け取られます。
網膜が受け取った刺激は電気信号として神経を経由して脳に伝達され、これらの一連の流れが視覚という感覚を構成しているのです。
糖尿病により、高血糖の状態が慢性化すると、血液中のブドウ糖(グルコース)が固まりやすくなり、末端の毛細血管が詰まりやすくなってしまいます。
これによって網膜の毛細血管の一部がこぶ状に拡張する毛細血管瘤や血管の壁に負担がかかることで眼底出血などが生じやすくなります。
網膜への血液の流れが悪くなることによって、酸素や栄養分が不足することによって生じるのが糖尿病性網膜症であり、眼のかすみや視力低下などが生じるのです。
症状が進行・悪化すると硝子体で出血が起こり、失明するリスクもあります。
もっとも、初期には自覚症状が現れず、本人も気づかないことがほとんどです。
眼科の定期健診を受診することで判明し、早期発見と治療につながることもあるため、必要に応じて眼科を受診して検査を受けることも大切といえます。
(3)糖尿病性腎症
高血糖の状態が慢性化することによって、腎臓の機能が低下することがあります。
腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排出するほか、体の中の水分量やミネラル量、血圧などの調整にも関わる器官です。
高血糖の状態が慢性的になると、血管が傷み、毛細血管の詰まりなどが生じてしまいます。
腎臓で老廃物のろ過を担う糸球体は毛細血管の塊であるため、高血糖の状態が継続することで糸球体の機能が低下し、老廃物の排出がうまくできなくなるのです。
糸球体の機能が低下し、毛細血管が詰まることで糸球体が破壊されると、血液中のタンパク質(アルブミン)が尿の中に漏れ出すことによるタンパク尿の症状が生じます。
このほか、症状が進行すると血圧の調整ができないことによる高血圧や老廃物の排出機能の低下によるむくみなどが生じるケースもあります。
糸球体の破壊が進行すると、腎機能不全に陥り、老廃物をろ過・排出できないことによる人工透析や腎移植が必要となる場合もあるので、注意が必要です。
もっとも、糖尿病性腎症も初期は自覚症状に乏しく、進行に気づかないケースが多いのが特徴です。
しかし、早期発見と適切な治療によって糖尿病性腎症も予防することが可能であり、医療機関で定期的な尿検査を行うことで早期に発見することができます。
4.そのほかの合併症
糖尿病の合併症は、上記で述べたものが代表的です。
もっとも、上記のようなもののほかにも、以下のような合併症が生じるリスクがあるため、注意が必要です。
- 動脈硬化
- 認知症
- がん
- 脂肪肝
- 歯周病
これらについては、糖尿病以外の原因によって生じることもあります。
もっとも、糖尿病を基礎疾患として発症するケースも多く見られるため、これらの病気のリスクについても把握しておくことが重要です。
(1)動脈硬化
動脈硬化とは、動脈の血管の壁のしなやかさが失われて硬くなり、血管内部にさまざまなものが沈着することで血管が詰まりやすくなった状態のことをいいます。
糖尿病の代表的な合併症は、毛細血管の傷みや詰まりが原因で引き起こされますが、動脈硬化は主に太い血管に生じる点に違いがあります。
血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)や中性脂肪が多い場合やHDLコレステロール(善玉コレステロール)が少ない場合に生じることが多いです。
また、高血圧や肥満などの因子が加わると、動脈硬化が進行しやすくなることが知られています。
糖尿病の中でも2型糖尿病は、生活習慣の乱れや肥満などによって、細胞に対するインスリンの作用が弱められることで発症します。
インスリンの作用が弱まった状態になると、腎臓の機能が低下することによって高血圧や脂質異常の症状が現れ、これによって動脈硬化が進行してしまうリスクがあるのです。
動脈硬化が進行すると、脳卒中や心不全、心筋梗塞が生じるリスクが高まり、生命に関わるケースもあります。
なお、毛細血管の傷みや詰まりが原因となって生じる糖尿病の合併症と比較すると、動脈硬化は糖尿病が軽い段階でも進行・悪化していくことに注意が必要です。
(2)認知症
糖尿病の高齢者は、そうでない人と比較すると、認知症を発症するリスクが約2倍高くなることが報告されています。
これは、糖尿病による高血糖の状態が慢性化することで、血管の傷みや詰まりが進行し、脳の組織への酸素や栄養素の運搬が滞ってしまうことに要因があります。
また、高血糖の状態が慢性的に継続することで、神経細胞に大きなダメージが生じることにも理由があります。
なお、糖尿病では、脳の血管障害による認知症のほか、アルツハイマー型の認知症のリスクが高まることも近年の研究で明らかになってきています。
アルツハイマー型認知症は、アミロイドβという物質が脳に長年にわたって蓄積することで、神経細胞が破壊される一因となって発症すると考えられています。
インスリンはブドウ糖(グルコース)の分解・吸収を促進するはたらきを担いますが、役割を終えた後には分解酵素のはたらきによって分解されます。
このインスリンを分解する酵素は、アミロイドβも分解するはたらきがあり、糖尿病になってしまうと、過剰に放出されたインスリンを分解するために酵素が使われ、アミロイドβを分解する分が不足してしまうのです。
これによって、分解されなかったアミロイドβが蓄積されることで、アルツハイマー型認知症の発症トリガーとなることが明らかとなってきました。
特に糖尿病を原因とする認知症では、物事の遂行機能などの高次認知機能が低下しやすく、目的を達成するために計画的に行動するのが困難になるのが特徴です。
(3)がん
がんは、糖尿病患者の死因の第1位を占める病気です。
悪性腫瘍や悪性新生物とも呼ばれることがあり、細胞が体のコントロールを失って過剰に成長・増殖することで生じます。
国内外の報告によると、主に2型糖尿病の患者では、がんのリスクが糖尿病でない人と比較すると20%ほど高まるとされています。
特に大腸がんや肝がん、膵がんのリスク増大と糖尿病が深く関わっていることが知られています。
なお、国立がん研究センターの研究では、男性の糖尿病患者はそうでない人と比較すると肝がんのリスクが2.24倍、女性では卵巣がんのリスクが2.42倍となることが明らかとされていることに注意が必要です。
糖尿病でがんのリスクが増大する理由については、高血糖や高血圧の状態が慢性的に続くことによって抗酸化作用が低下することが挙げられます。
私たちは空気中の酸素を取り入れることで、細胞や組織の活動に必要なエネルギー源を確保しています。
体の中に取り入れられた酸素は細胞の中のミトコンドリアに吸収され、エネルギーに変換されます。
その過程で作り出されるのが活性酸素であり、その量を維持・調整するはたらきを持つのが抗酸化作用なのです。
慢性的な高血糖や高血圧が続くことで、抗酸化作用が弱められてしまい、過剰に作り出された活性酸素が自らの細胞や組織を傷つけることによって、がんができやすくなります。
また、2型糖尿病ではインスリン作用が弱められることによって血液中にインスリンが過剰に放出されてしまい、このことががん細胞の増加を促してしまうという指摘もあります。
このように、2型糖尿病では、がんのリスクが増大することに注意が必要です。
(4)脂肪肝
脂肪肝とは、肝臓での脂質の分解・吸収が追いつかず、肝細胞に中性脂肪が貯まってしまう状態をいいます。
糖尿病は、糖質の代謝異常によって生じる病気ですが、糖尿病になると脂質代謝にも異常を来すことが多いです。
これは、インスリンが肝臓でリポ蛋白という物質が作り出されるのを調整することで、中性脂肪の吸収・分解に関わるからです。
脂肪肝は過度の飲酒によって発症することが多いものの、過剰な栄養の摂取や不適切な食習慣などによって引き起こされる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)もあります。
体の中でのインスリンの作用が弱まることで、中性脂肪の吸収・分解のバランスが崩れ、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄えられてしまい、脂肪肝となってしまうのです。
特に2型糖尿病の70%程度に合併しているとされていますが、自覚症状がほとんどなく、本人も気づかないうちに進行してしまうことに特徴があります。
脂肪肝の状態が進行すると、やがて肝細胞が壊死し、線維化することで肝硬変や肝がんのリスクが高くなります。
(5)歯周病
歯周病は、歯の周りの組織や歯を支える骨などが細菌によって溶かされてしまう病気です。
一般的に加齢とともに歯周病になるリスクが高まるとされており、糖尿病と関係なく発症することもあります。
もっとも、糖尿病によって歯周病のリスクが高まることも報告されています。
これは、インスリン作用が弱められた状態によって免疫力が低下し、細菌感染に対する抵抗力が弱まることによって歯周病を発症しやすくなることに原因があるとされています。
歯周病は初期の頃にはほとんど自覚症状が現れず、進行に気づかないケースが多いです。
症状が進行すると、歯の周りの組織が細菌によって傷つけられ、炎症反応や膿が生じ、歯がぐらつくようになります。
最終的には歯を抜かなければならなくなり、ものを噛んだり言葉を発したりすることが難しくなってしまいます。
もっとも、糖尿病であっても、血糖値のコントロールがうまくできれば、歯周病を予防することが可能です。
そのため、定期的な歯科受診も欠かせないことを押さえておきましょう。
5.糖尿病の治療方法
糖尿病の治療方法については、1型と2型で異なります。
また、症状の度合いや進行の程度によっても、選択される治療法には違いがあることに注意が必要です。
(1)1型糖尿病
1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞が減少し、インスリンを作り出すことができなくなることで生じます。
なお、1型糖尿病を発症するのは主に若年者に多く、体重が正常あるいはやせ型の場合が多いことも特徴です。
発症の原因については明らかにされていない点も多いですが、遺伝的要因によって生じ、自己免疫のはたらきによってランゲルハンス島のβ細胞が破壊されてしまうことによって発症するとされています。
私たちの体には、免疫機能というはたらきがあり、細菌やウイルスなどの異物が侵入すると、これを攻撃して排除する機能があります。
自己免疫とは、免疫機能が正常にはたらかなくなり、体の中の細胞や組織を異物と判断してしまい、攻撃してしまうことを指します。
1型糖尿病では、β細胞を異物と判断してしまい、これに対する自己抗体が作り出され、β細胞を破壊してしまうのです。
これによって、β細胞の量が明らかに減少し、インスリンを体の中で作り出すことができない状態となってしまいます。
そのため、1型糖尿病では、インスリン薬の投与によるインスリン療法が唯一の治療法となります。
もっとも、血液中にケトン体と呼ばれる物質が放出され、血液が酸性化しているケトアシドーシスと呼ばれる状態になっている場合には脱水症状の改善のために生理食塩水を用いた輸液と合わせて少量のインスリン投与が持続的に行われます。
インスリン薬は静脈投与のほか、皮下注射による方法がほとんどです。
なお、必要となるインスリン量や注射の頻度(回数)は症例によって大きく異なるため、定期的かつ厳密な血糖値測定が必要不可欠となることにも注意が必要です。
(2)2型糖尿病
2型糖尿病は、細胞にあるインスリンの受容体のはたらきが低下し、インスリンの作用がはたらかないことによって発症します。
糖尿病の95%以上は2型糖尿病であり、症状の進行も緩やかであることから、主に中高年から発症していくケースが多いです。
遺伝的要因のほか、生活習慣による影響があり、特に肥満に傾くような生活習慣を送った場合に発症のリスクが高まることが知られています。
もっとも、高血糖の状態を抑制することができれば、合併症のリスクも抑えることができるため、食事療法と運動療法によって、血糖値と体重、エネルギーのコントロールを行うことが重要です。
また、症状の進行が軽微であれば、食事療法と運動療法によって血糖値をコントロールすることは十分に可能であり、インスリンによる治療を必ずしも必要としないケースも見られます。
もっとも、症状が進行していたり重篤化していたりすると、これらの治療のみでは不十分であり、インスリン療法や経口薬による薬物療法が必要となることが多いです。
糖尿病を放置すると、症状が進行し、治療方法の選択肢が限られてしまい、生活にも影響が生じる可能性があります。
早期発見と適切な治療を行うことで、症状の進行や合併症の発症を抑制することにつながるため、定期的な検診を受診することで糖尿病のリスクを把握することが重要です。
まとめ
本記事では、糖尿病のメカニズムや主な症状、合併症などについて解説しました。
糖尿病は、高血糖の状態が続くことで発症しますが、初期には自覚症状が乏しく、本人も自覚しないうちに症状が進行・重篤化することも多いです。
また、日頃の生活習慣の乱れも糖尿病を引き起こすトリガーとなるため、バランスの取れた食習慣や適度な運動習慣を身につけることが糖尿病を予防することにつながります。
血糖値や生活習慣による体の変化は、健康診断などを通じて定期的に把握することが可能です。
本記事で紹介したような症状が現れる前に健康診断などで気になる項目があれば、内分泌科や糖尿病専門クリニックを受診されるのがおすすめです。