中性脂肪が低いのは甲状腺の病気?ほかに考えられる病気についても解説

「中性脂肪が低いことを指摘されたけど、甲状腺のはたらきと関係ある?」
「中性脂肪が低いことによるリスクや考えられる病気のリスクが知りたい」

健康診断などの血液検査で中性脂肪の数値が低いことを指摘された方の中には、このような疑問をお持ちの方もいると思います。

中性脂肪の値が基準値を上回ると、動脈硬化などの病気のリスクが高まることが知られています。

そのため、一般的には基準値を上回らないように注意する必要がありますが、基準値を下回る場合にも健康上の影響が生じる可能性があるのです。

特に中性脂肪が低いだけでなく、理由の分からない動悸や息切れ、体重の減少などが見られる場合には、甲状腺機能の異常が潜んでいる可能性もあります。

本記事では、甲状腺のはたらきが中性脂肪の数値に影響を与える理由や中性脂肪の数値が低い場合に考えられる病気について解説します。

また、中性脂肪の数値を正常範囲に保つためのポイントについてもあわせて解説しますので、普段の生活習慣が気になる方の参考となれば幸いです。

なお、甲状腺の病気で見られる症状やセルフチェック項目については、以下の記事をご覧ください。

1.中性脂肪の数値と甲状腺の関係

中性脂肪は、体の活動に必要不可欠な物質です。

しかし、基準値よりも高い場合や低い場合には、エネルギー代謝に異常が生じている可能性があります。

そして、中性脂肪の数値が低い場合には、甲状腺のはたらきが関係しているケースもあります。

中性脂肪と甲状腺の関係について、押さえておきたいポイントは以下の通りです。

中性脂肪の数値と甲状腺の関係

  1. 中性脂肪とは
  2. 甲状腺が中性脂肪の数値に影響を与える理由
  3. 中性脂肪が低いことによる主な症状

順にご説明します。

(1)中性脂肪とは

中性脂肪は、血液中に存在する脂質のうちの1つであり、トリグリセライド(TG)とも呼ばれる物質です。

主に臓器や筋肉のエネルギー源として消費されます。

中性脂肪は食事によって体の中に取り込まれますが、糖質や脂質などを材料として肝臓で作られることもあります。

そして、エネルギーとして消費されなかった余分な中性脂肪は、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄えられます。

中性脂肪の数値は通常の健康診断でも検査を受けることができ、以下のような基準値によって評価されることが一般的です。

中性脂肪の数値(空腹時) 評価
30~150mg/dL未満 正常
150~199mg/dL 境界域
200mg/dL以上 高値

なお、中性脂肪は「高いときの基準」は明確(空腹時中性脂肪≧150mg/dLなど)ですが、「低いときの全国共通の診断基準」は定まっていません。

多くの検査機関では「参考値」として下限(例:30mg/dL前後)を設けていますが、施設によっても差があります。

中性脂肪は体温の維持・調整やビタミンの吸収を促すはたらきなどもありますが、基準値を上回る場合には動脈硬化などのリスクを高めることが知られています。

しかし、数値が低ければよいというわけではありません。

例えば、中性脂肪の数値が正常よりも低い(30mg/dLを下回る)場合には、エネルギー代謝に異常が生じており、脂肪をうまく体の中に蓄えられていない可能性があります。

中性脂肪の数値が変動する原因としては、食事の栄養素のバランスが乱れることや運動量の変化などの生活習慣が関わることが多いです。

例えば、極端な糖質制限や脂質制限などのダイエットを行うことで、中性脂肪が体の中で作られず、低い値を示すことがあります。

また、ジョギングなどの運動量の多いスポーツ習慣がある場合には、中性脂肪が過剰に消費されてしまい、基準値を下回ることもあります。

(2)甲状腺が中性脂肪の数値に影響を与える理由

甲状腺は、喉仏の下あたりにある小さな器官です。

主に甲状腺ホルモンと呼ばれる物質を作り、血液の中に放出するはたらきを担っています。

甲状腺ホルモンは、体の代謝(エネルギー消費や熱を作るはたらき)や心臓・血管・肝臓などの臓器のはたらきを維持・調整する役割を持っています。

そのため、甲状腺ホルモンの量が多すぎても少なすぎても問題があります。

しかし、甲状腺の病気を発症すると、甲状腺ホルモンを作るはたらきにも異常が生じ、甲状腺ホルモンのバランスが崩れてしまうことがあるのです。

特に甲状腺ホルモンが血液中に過剰に放出されてしまうと、体の代謝が促されてしまい、中性脂肪の消費も促されることになります。

これによって、中性脂肪の数値が基準値を下回ってしまうことがあるのです。

特に甲状腺のはたらきが過剰に高められてしまう甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)では、中性脂肪の数値が極端に低くなることがあります。

また、血清総コレステロール値とLDL(悪玉)コレステロール値も低下することが多いです。

一方で、甲状腺機能低下症ではLDL(悪玉)コレステロールの上昇に加えて、中性脂肪が高めになることがあり、甲状腺機能の補正によって脂質プロフィールが改善することが報告されています。

このように、甲状腺ホルモンは血液中の脂質のバランスの調整にも関わることから、中性脂肪の数値にも影響を与えることがあります。

なお、甲状腺ホルモンには小腸でのブドウ糖の吸収を促すはたらきもあるため、甲状腺機能亢進症では中性脂肪の数値が低いのに対して、血糖値が高くなることもあります。

甲状腺機能亢進症を引き起こす原因やバセドウ病の主な症状、治療のポイントなどについては、以下の記事で詳しく解説しています。

また、血糖値が高い状態が続いている場合には、糖尿病に原因がある可能性も考えられます。

糖尿病のメカニズムや主な症状、治療や予防のポイントについては、以下の記事も参考になります。

(3)中性脂肪が低いことによる主な症状

一般的に中性脂肪が基準値を下回る場合であっても、目立った自覚症状は乏しいです。

しかし、中性脂肪が低い状態が続くことで、エネルギー不足に陥り、以下のような症状が現れることがあります。

中性脂肪が低いことによる主な症状

  • 疲労感や疲れやすさが続く
  • 低体温や冷え性
  • 肌荒れや抜け毛
  • 免疫力の低下 など

中性脂肪は、脂溶性ビタミンの吸収を促すはたらきもあります。

具体的には、ビタミンA・D・E・Kがこれにあたります。

特にビタミンAは皮膚や粘膜を正常に保つはたらきがあり、ビタミンEには抗酸化作用などがあり、体の機能を維持する役割があります。

しかし、中性脂肪の数値が低い状態が続くことで、これらのビタミンがうまく取り込まれなくなり、皮膚の乾燥や免疫力の低下などを引き起こすことがあるのです。

食事の栄養素のバランスの乱れや過度な運動習慣などによって中性脂肪が低い状態に陥っている場合には、生活習慣を改善することで正常な範囲に戻すことができることが多いです。

これに対して、甲状腺の病気によって中性脂肪の数値が低い場合には、生活習慣を改善しても甲状腺の機能が正常に戻らなければ症状を改善することにつながらない可能性があります。

また、中性脂肪の数値が低い状態が続くだけでなく、動悸や息切れ、手指の震え、急激な体重の減少などが見られる場合には、甲状腺機能亢進症の疑いがあります。

そのような場合には、ホルモン異常に関連する病気の診断・治療を専門とする内分泌科などの診療科を受診し、精密検査を受けることがおすすめです。

甲状腺の病気の診断では、血液中の甲状腺ホルモンなどの濃度を測定することで評価を行います。

甲状腺の病気が疑われる際に実施される血液検査の主な項目や診断基準については、以下の記事が参考になります。

2.中性脂肪の数値が低い場合に考えられるほかの病気

中性脂肪の数値が低い場合には、生活習慣の乱れのほか、甲状腺の病気の可能性もあります。

特に病気が原因で中性脂肪の数値が低下している場合には、その病気の治療を行うことが重要といえます。

しかし、中性脂肪の数値は、以下のような病気によっても低くなる傾向があるため、現れている症状などと照らし合わせながら考えることが大切です。

中性脂肪の数値が低い場合に考えられるほかの病気

  1. 吸収不良症候群
  2. 慢性肝障害
  3. 副腎皮質機能低下症(アジソン病)

それぞれのメカニズムや症状について見ていきましょう。

(1)吸収不良症候群

吸収不良症候群は、消化・吸収に関する臓器に異常が生じることで、体に必要な栄養素が十分に吸収されなくなる病気です。

主に小腸に異常が生じることで引き起こされることが多いですが、胃などの消化酵素のはたらきが低下することによっても発症することがあります。

特に腸内細菌のバランスが崩れたり、小腸の切除などの外科的処置が行われたりすると、栄養素の吸収ができなくなり、中性脂肪の数値が低くなることがあります。

また、ビタミンやミネラルなどの栄養素の吸収が十分ではない場合には、不足する栄養素によって皮膚の乾燥や骨密度の低下、貧血、目まいなどの症状が見られることもあります。

このほか、消化器自体の異常によって、腹部の膨満感や腹痛、下痢、脂肪便などの症状が現れることもあるのです。

症状が比較的軽度の場合には、食事の栄養素のバランスを整えることや消化酵素の投与を中心とした治療が行われます。

しかし、症状の程度が重度の場合には、静脈注射などによって体の中に直接栄養分を補充する治療法がとられることもあります。

消化器の異常による吸収不良の症状を放置することで、体は慢性的なエネルギー不足に陥り、全身の機能が低下するリスクもあるため、早期に消化器内科などを受診しましょう。

(2)慢性肝障害

慢性肝障害は、6か月以上にわたって肝臓の機能が低下している状態を指します。

主に肝臓で炎症が起こり、肝細胞が傷つけられてしまうことで肝臓の機能が徐々に低下していきます。

肝臓は中性脂肪を作り出すはたらきがあるため、慢性肝障害に陥ると中性脂肪がうまく作られなくなり、血液中の中性脂肪の数値が低下してしまうのです。

また、慢性肝障害では血中総コレステロール値とLDL(悪玉)コレステロール値も低くなる傾向があります。

肝臓で炎症が生じる原因には、ウイルス感染(C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス)や脂肪肝などが挙げられます。

通常、慢性肝障害を発症しても、初期には目立った症状がほとんど現れません。

そのため、本人も気づかないうちに進行・悪化していくことが多いです。

肝細胞の破壊が進行すると、エネルギー代謝に異常が生じ、全身の倦怠感や食欲不振などの症状が現れることもあります。

慢性肝障害を放置すると、破壊された肝細胞が線維化し、肝硬変や肝がんを引き起こすリスクも高まります。

肝機能が低下してしまうと、完全に元に戻すことは困難です。

健康診断などで肝機能の異常を指摘された場合には、早期に消化器内科や肝臓内科を受診し、治療を開始することが大切です。

(3)副腎皮質機能低下症(アジソン病)

副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、左右の腎臓の上にある副腎と呼ばれる器官に異常が生じることで引き起こされる病気です。

副腎は内部の髄質と外側の皮質に分かれており、それぞれが体の機能の維持・調整に必要なホルモンを放出しています。

特に副腎皮質からは以下のようなホルモンが放出されています。

主な副腎皮質ホルモンの種類 作用
コルチゾール 血糖値の維持・調整に関わる
アルドステロン 血圧の維持・調整に関わる
副腎アンドロゲン 女性ホルモンや男性ホルモンを作る

副腎皮質機能低下症(アジソン病)では、これらのホルモンの放出量が減少し、倦怠感や脱力感、食欲不振、皮膚の色素沈着、血圧の低下などの症状が見られます。

また、コルチゾールの放出量が低下することで、糖質(ブドウ糖)を作るはたらき(糖新生)が弱められてしまいます。

そうすると、体は活動に必要なエネルギーを脂質やタンパク質からまかない、中性脂肪も分解・消費されることで中性脂肪の数値が低下することがあります。

なお、副腎皮質機能低下症(アジソン病)を発症するメカニズムについては完全には解明されておらず、自己免疫や特定の感染症などがトリガーとなっている可能性が指摘されています。

また、自己免疫が関わる場合には、甲状腺機能にも影響を及ぼし、甲状腺機能低下症(特に橋本病)と合併しやすいという研究もあります。

副腎皮質機能低下症(アジソン病)の症状は、コルチゾールなどのホルモンが不足することで生じるため、不足しているホルモンを補うことによって治療が進められます。

副腎の機能低下が原因となって生じている場合には、副腎皮質ホルモンの放出量が改善する可能性は低く、生涯にわたって治療を行う必要性があることが一般的です。

副腎皮質機能低下症(アジソン病)に感染症などのストレスが加わることで、副腎クリーゼという急性合併症を引き起こすこともあり、生命にも関わる可能性もあります。

そのため、上記のような症状が見られる場合には、早期に内分泌科などを受診し、精密検査を受けることが重要です。

甲状腺機能低下症や橋本病の詳細については、以下の記事もあわせてご覧ください。

3.中性脂肪を正常な範囲に保つためのポイント

中性脂肪の数値は生活習慣や病気を原因として基準値よりも高くなったり低くなったりすることがあります。

また、甲状腺の病気は、生活習慣の乱れやストレスなどがトリガーとなって引き起こされることもあることが指摘されています。

そのため、日々の生活を改善することで、中性脂肪の数値を正常な範囲に維持するだけでなく、甲状腺のはたらきを維持することにもつながるといえるでしょう。

具体的には、以下の点を押さえることが大切です。

中性脂肪を正常な範囲に保つためのポイント

  1. 食事量や栄養バランスを意識する
  2. 適度な運動量と頻度を確保する
  3. 定期的に健康診断を受けて体調をチェックする

それぞれについてご説明します。

(1)食事量や栄養バランスを意識する

中性脂肪の数値は、食事の量や栄養素のバランスなどによって影響を受けるため、食習慣に注意を払うことが大切です。

特に中性脂肪が低い場合には、栄養不良の状態が続いている可能性も考えられます。

甲状腺の病気などによらない中性脂肪の低値は、炭水化物・タンパク質・脂質の栄養素バランスを整えることで改善することができる場合がほとんどです。

中性脂肪の数値が低いことによる倦怠感や疲れやすさは、炭水化物の摂取量が不足している低血糖に理由があることも考えられます。

そのような場合には、単に脂質の摂取量を増やすだけではなく、炭水化物などの栄養素もしっかりと補うようにしましょう。

また、甲状腺ホルモンのバランスが崩れてしまう要因として、ヨウ素を含む食品や食材の過剰摂取も挙げられます。

具体的には、昆布やひじきなどの海藻類、魚介類にはヨウ素が多く含まれていることが多く、これらを過剰に摂取することで甲状腺ホルモンが作られるはたらきが妨げられてしまうことがあります。

甲状腺機能を正常にするためには、ヨウ素を含む食品などの過剰摂取を控えることも重要といえるでしょう。

(2)適度な運動量と頻度を確保する

食事の栄養素のバランスを整えるだけでなく、運動習慣の改善も図りましょう。

中性脂肪の数値が低い場合には、運動量が多く、それによって中性脂肪が過剰に消費されている可能性もあります。

また、中性脂肪の数値が基準値よりも高い場合には、食事を通じて取り込まれた脂肪などが適切に消費されずに溜まっている可能性もあります。

そのため、適度な運動量と頻度を意識することが重要です。

運動の習慣は、食事の栄養素バランスの改善とともに身につけることが効果的といえます。

定期的な運動に取り組むことで、心臓や筋肉のはたらきを維持し、基礎代謝を高める効果も期待できます。

これによって、甲状腺のはたらきをサポートし、甲状腺の病気のリスクを抑えることにもつながるでしょう。

もっとも、甲状腺機能亢進症では、心臓や血管のはたらきが高められることによって、動悸や息切れ、心拍数の増加などが見られることが多いです。

甲状腺機能亢進症の治療中に過度な運動に取り組むと、心拍数が急激に上昇し、これらの症状が悪化する可能性もあります。

そのような場合には、ヨガや瞑想などのリラクゼーション効果があるものに取り組むこともおすすめです。

特にヨガなどにはストレスの軽減効果もあることが知られているため、心身のリラックスと心拍数の安定を図ることもできるでしょう。

(3)定期的に健康診断を受けて体調をチェックする

上記のように生活習慣の改善を図ると同時に、定期的に健康診断を受けることも重要です。

特に中性脂肪をはじめとする脂質の数値は、通常の健康診断の血液検査項目にも含まれています。

また、中性脂肪の数値とも関連する肝機能の検査を受けることもできるため、定期的に健康診断などを受けることで、体の状態を客観的に把握することにもつながります。

健康診断の結果で異常などを指摘された場合には、専門の医療機関を受診し、精密検査を受けることで、病気を早期に発見したり早期に治療を開始できたりする可能性が高まります。

特に数値の異常だけでなく、原因の分からない倦怠感や動悸、手指の震え、体重の急激な減少などの症状が現れている場合には、甲状腺の病気によって引き起こされている可能性があります。

そのため、普段から自覚症状についても把握し、健康診断などを少なくとも1年に1回は受診し、自身の体調を管理することが重要といえるでしょう。

まとめ

本記事では、中性脂肪の数値と甲状腺のはたらきの関係や中性脂肪が低い場合の病気のリスクなどについて解説しました。

甲状腺ホルモンは脂質の分解に関するはたらきがあるため、甲状腺の病気によって甲状腺ホルモンが過剰に放出されると、脂肪の分解が促され、中性脂肪の値が低くなることがあります。

また、甲状腺ホルモンの量が過剰になると、全身の機能が高められ、動悸や息切れ、手指の震え、代謝の促進による体重の減少などが見られることがあります。

しかし、極端な減量に伴う栄養素の不足や過度な運動習慣などによっても中性脂肪の数値が低くなることがあるため、そのような場合には生活習慣の改善が大切です。

健康診断などで中性脂肪が低いことを指摘された場合には、その背後に甲状腺の病気のほかにもさまざまなリスクが潜んでいる可能性があるため、内分泌科などを受診して精密検査を受けるようにしましょう。