
高齢者は糖尿病の発症リスクが高まる?主な原因や特徴的な症状、治療のポイントについて解説
「年齢が上がると糖尿病を発症するリスクが高まるのか」
「高齢者が糖尿病を発症すると症状の現れ方はどんなものか知りたい」
「高齢者の糖尿病患者が治療を進める上で押さえるべきポイントは?」
糖尿病と年齢の関係について、このような疑問や不安をお持ちの方もいると思います。
糖尿病は、膵臓のβ細胞で作られるインスリンというホルモンのバランスが崩れ、ブドウ糖をうまくエネルギーとして消費できなくなる病気です。
食事によって血液中に吸収されたブドウ糖は、通常であれば、インスリンのはたらきによって細胞に取り込まれ、エネルギー源として消費されます。
これによって、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)は一定に保たれます。
しかし、インスリンの量が減少したり、インスリンのはたらきが弱められたりすることで、体はブドウ糖をうまく消費することができなくなってしまいます。
そうすると、血糖値は高いままとなり、これが続くと糖尿病を発症してしまうことに注意が必要です。
特に細胞に対するインスリンのはたらきが弱められてしまうことで発症する2型糖尿病は、遺伝的要因や生活習慣の乱れなどが関わることで引き起こされます。
そのため、徐々に進行・悪化し、40代以降の中年期で発症することが多いです。
もっとも、一般的に2型糖尿病は加齢とともに発症するリスクが高まり、60代以降の高齢者にも糖尿病患者が増加傾向にあるといえます。
特に65歳以上で発症する糖尿病は「高齢者糖尿病」とも呼ばれ、症状の現れ方や治療法などについていくつかの注意点もあります。
そのため、一人ひとりに合わせた適切な治療を行うことが大切です。
本記事では、高齢者が糖尿病を発症しやすい理由や症状の特徴などについて解説します。
1.高齢者が糖尿病を発症する可能性が高まる理由

先ほども述べたように、糖尿病の中でも2型糖尿病は、一般的に加齢とともに発症リスクが高まることが知られています。
2型糖尿病は、遺伝的な要因に生活習慣の乱れなどの要因が複雑に関わることによって発症すると考えられています。

そのため、急激に症状が現れるわけではなく、徐々に血糖値の乱れが慢性化し、40代以降で発症してしまうことが多いです。
なお、わが国では65歳以上を高齢者、75歳以上を後期高齢者と定めています。
近年では、高齢期に入ってから2型糖尿病を発症するケースも増加しており、2019年の厚生労働省による調査によると、60代の男性の25.3%が糖尿病が疑われるという結果が出されています。
また、60代の女性では10.7%が糖尿病を疑われるとされており、60代の男性では4人に1人、60代の女性では10人に1人が糖尿病が疑われるということになります。
70代では、男性は26.4%、女性は19.6%となっており、男女問わず年齢が上がるごとに糖尿病が疑われる率も上昇することが明らかとなったのです。
このように、年齢が上がるにつれて糖尿病のリスクが高まることには、以下のような理由があるといえます。
- インスリンの量が低下している
- 筋肉量の低下と内臓脂肪の蓄積が見られる
- 基礎疾患が糖尿病の発症リスクを高める
順にご説明します。
(1)インスリンの量が低下している
インスリンは、膵臓にあるβ細胞という場所で作られます。
そして、一般的にβ細胞のはたらきは、年齢とともに低下していくことが知られています。
これによって、インスリンの量が低下すると、ブドウ糖をうまく細胞に取り込ませることができず、血糖値が高い状態が続いてしまうのです。
このように、加齢によってインスリンの量が低下することに高齢者の糖尿病リスクが高まる理由があるといえます。
また、インスリンが放出されるタイミングが遅れることによって、血糖値が上昇しやすく、状況によっては食後しばらくしてから血糖が下がりすぎることもあります。

このような血糖値の乱高下を「血糖値スパイク」といい、糖尿病の発症リスクを高めることにも注意が必要です。
血糖値スパイクによる代表的な症状には、食後や日中の強い眠気が挙げられ、糖尿病を発症した初期にも見られることがあります。
糖尿病の初期で見られる眠気の原因や特徴については、以下の記事も参考になります。
(2)筋肉量の低下と内臓脂肪の蓄積が見られる
筋肉量が低下したり内臓脂肪の量が増えたりすることにも高齢者の糖尿病リスクが高まる原因があります。
インスリンはブドウ糖を細胞に取り込ませてエネルギー源として消費させるほか、余分なブドウ糖を肝臓などに蓄えるはたらきも持っています。
このとき、余分なブドウ糖は筋肉にも蓄えられるのです。
しかし、筋肉量が低下することで、ブドウ糖が蓄えられず、血液中に残されてしまいます。
これによって、血糖値が高い状態が続いてしまうと、インスリンの量が低下することも相まって、糖尿病を引き起こすリスクが高いです。
筋肉量の低下は、加齢によって自然と引き起こされる現象の1つといえます。
また、運動機能が低下することによる運動不足によって、筋肉量が低下してしまうこともあるため、注意が必要です。
なお、運動不足によって内臓脂肪が蓄積されると、血糖値のコントロールに悪い影響を与えることがあります。
これは、内臓脂肪からインスリンのはたらきを妨げる物質(悪玉アディポサイトカインなど)が放出されることに理由があります。
そうすると、さらに血糖値が下がりにくくなり、糖尿病を発症するリスクを高めてしまうことに注意しましょう。
このように、加齢による筋肉量の低下や運動機能の低下による内臓脂肪の蓄積がインスリンのはたらきを弱めてしまうことで血糖値の上昇が起こりやすくなります。
なお、内臓脂肪の蓄積による肥満が糖尿病やほかの病気に与えるリスクや肥満を予防するポイントについては、以下の記事もご覧ください。
(3)基礎疾患が糖尿病の発症リスクを高める
高齢者は、運動機能の低下だけでなく、身体機能も低下する傾向にあります。
これによって、心臓や肺、腎臓などの臓器のはたらきも低下すると、さまざまな不調や病気を引き起こすことがあります。
そして、このような基礎疾患が糖尿病の発症に関わることがあるため、注意が必要です。
特に心臓や肺のはたらきが低下すると、心血管系の病気(狭心症や心筋梗塞など)を引き起こすリスクが高まります。
また、腎臓は体の水分量や血圧を調整する役割を担う臓器であるため、このはたらきが低下することで高血圧を引き起こすこともあるのです。
このような基礎疾患は、体の中でのブドウ糖の利用や消費にも悪影響を与えることで、血糖値が上昇しやすくなることが知られています。
そのため、高血圧などの基礎疾患をすでに有している場合にも、糖尿病を引き起こすリスクが高まることに注意が必要です。
特に高血圧は自覚症状がほとんどなく、定期的に健康診断や検査などを受けていない場合には、本人も気づかないことが多いといえます。
糖尿病の発症リスクを少しでも抑えるためには、普段から健康診断や検査などを定期的に受け、ご自身の体の状態を把握することが大切です。
また、健康診断などを定期的に受けることで、生活習慣などを見直すきっかけにもなるでしょう。
糖尿病を引き起こしやすい生活習慣や糖尿病の診断に関する検査項目については、以下の記事も合わせてご参照ください。
2.高齢者の糖尿病患者に特有の注意点

糖尿病は、加齢とともに発症のリスクが高まります。
そして、血糖値が高い状態が続くことで、以下のような症状が見られることが多いです。
- 口や喉が異常に渇く
- 水分摂取量の増加による頻尿・多尿
- 日中の倦怠感や疲れやすさ
- 体重の急激な減少 など
もっとも、高齢者の糖尿病患者には、上記のような代表的な症状が見られないケースもあります。
また、加齢によるインスリン量の低下やインスリンのはたらきにくさによって、症状の内容や現れ方に以下のような特徴があります。
- 食後血糖値が高い傾向にある
- 低血糖の症状に気づきにくい
- 筋肉量の低下による転倒のリスクが高い
- 合併症を引き起こすリスクが高まる
- 免疫力の低下による感染症のリスクが高まる
- うつ病や認知症を合併しやすい
これらのうち、免疫力や認知機能の低下などは、糖尿病とは無関係に生じるケースもあります。
そのため、単なる加齢による症状と捉えられ、糖尿病に原因があることを見逃されることも多いです。
これによって発見が遅れると、糖尿病の症状が悪化し、重篤な合併症を引き起こす可能性も高まります。
原因の分からない不調や症状がある場合には、内分泌科などの医療機関を受診して精密検査を受けるようにしましょう。
(1)食後血糖値が高い傾向にある
高齢者が糖尿病を発症した場合、食後血糖値が高くなる傾向があります。
これは、膵臓のβ細胞のはたらきが低下することによって、インスリンの放出のタイミングが遅れてしまうからです。
インスリンは、食後に血糖値が上昇するタイミングで放出されますが、それ以外のときでも一定の量が24時間放出され続けています。

食後以外のときに放出されているものを「基礎分泌」といい、食後に放出されるものを「追加分泌」といいます。
特に高齢者の場合には、追加分泌の量が減っている場合や放出のタイミングが遅れることが多く、食後の血糖値が上がりやすくなるのです。
なお、空腹時には、肝臓で「糖新生」と呼ばれる現象が起こります。
これは、ほかの物質をブドウ糖に変えることで、不足しているブドウ糖を補い、血糖値が下がりすぎないようにするための活動です。
しかし、高齢者の場合には肝臓のはたらきが低下していることもあり、糖新生が十分に行われないことによって、空腹時の血糖値が低くなる傾向にあります。
このように、高齢者ではインスリンの放出の遅れなどによって食後高血糖が目立ちやすい一方で、低血糖は薬物療法(インスリンやSU薬など)を行っている場合に腎機能の低下や食事量の低下・食事の遅れなどをきっかけに起こりやすくなります。
なお、空腹時血糖の傾向は個人差が大きく、治療内容や栄養状態によって変わる点に注意が必要です。
(2)低血糖の症状に気づきにくい
先ほども述べたように、高齢者の糖尿病患者は、肝臓などのはたらきが低下することによって、空腹時の血糖値が低くなる傾向があります。
特に血糖値が正常な範囲を超えて下がってしまう低血糖と呼ばれる状態に陥りやすいことに注意が必要です。
ブドウ糖は体の活動に必要不可欠な物質であり、不足することによって、脳や自律神経のはたらきに影響が生じることがあります。
具体的には、以下のような症状が現れることがあります。
- 動悸
- 目まい
- 手指の震え
- 冷や汗
- 立ちくらみ
- 意識障害 など
しかし、高齢者の場合には、これらの症状が強く現れない場合や本人が気づきにくい場合が多いです。
これは、自律神経の機能が低下することに理由があるとされています。
また、高齢者の2型糖尿病患者では、血糖値のコントロールが悪い状態が長く続いたことによって発症するケースが一般的です。
そのため、低血糖の症状に対する感受性が下がることによって体が症状に慣れてしまい、気づきにくくなることにも原因があるといわれています。
低血糖の状態を放置することで、昏睡などを引き起こすこともあり、重篤な場合には生命にも関わります。
そのようなリスクを避けるためにも、治療中に血糖値をこまめに把握することや周囲の人の注意深い見守りが必要となることを押さえておきましょう。
低血糖に陥った場合の対処法や低血糖を予防するために意識すべきポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。
(3)筋肉量の低下による転倒のリスクが高い
若年者や中年の糖尿病患者と比較すると、高齢者の糖尿病患者では、筋肉量の低下(サルコペニア)が生じていることが多いといえます。
筋肉量の低下によって、余分なブドウ糖を蓄える場所が減り、これが血糖値が高い状態が続いてしまう原因にもなるのです。
また、高齢者の場合には、筋肉量の低下によって運動機能も低下していることが少なくありません。
具体的には、握力や歩く速度の低下などが挙げられます。
これによって、ふらつきやすくなり、転倒などを引き起こす可能性が高まることにも注意が必要です。
なお、糖尿病を発症すると、血液中にあふれたブドウ糖が体の中のタンパク質と結合してAGEs(糖化最終生成物)という物質が作られる「糖化」という現象が生じます。

タンパク質は筋肉を作るための材料となるため、糖化が起こると筋肉がうまく作られなくなってしまいます。
このように、糖尿病を原因として筋肉量の減少が引き起こされることがあり、加齢による筋肉量の低下と糖尿病はお互いに影響を及ぼし合うことに注意が必要です。
また、糖化によって骨の強度が低下することも知られており、転倒による骨折が起こりやすくなることもあります。
特に高齢者の場合には、骨折によって寝たきりとなることを余儀なくされるケースもあり、生活の質(QOL)を大きく損なう要因にもなるでしょう。
(4)合併症を引き起こすリスクが高まる
すでに基礎疾患などの治療を行っているケースで糖尿病を発症すると、さまざまな合併症のリスクも高まることに注意が必要です。
特に高血圧や動脈硬化を基礎疾患として有している場合には、糖尿病を引き起こす可能性が高まります。
これは、高血圧や動脈硬化を引き起こす原因やリスク因子が糖尿病のリスク因子と共通していたり関連していたりすることに理由があります。
また、これらの基礎疾患によって、糖尿病に合併しやすい「糖尿病の三大合併症」を引き起こすリスクも高まることに注意が必要です。
なお、糖尿病による血糖値の乱れが高血圧や動脈硬化を悪化させ、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こす可能性があることにも注意しましょう。
糖尿病に合併しやすい三大合併症の詳細や主な症状などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
(5)免疫力の低下による感染症のリスクが高まる
一般的に加齢は免疫力を低下させる原因にもなります。
免疫とは、体の中に細菌やウイルスなどの異物が侵入した際に、これを攻撃して排除する体の仕組みです。
また、糖尿病を発症すると、血糖値が高い状態が続くことによっても免疫力の低下が見られることがあります。
これは、高血糖によって免疫機能を担う白血球の活動が弱められるからです。
高血糖の状態に陥ると、免疫を担う白血球(特に好中球)のはたらきが低下しやすく、さらに血流障害なども重なって感染症が重症化しやすくなります。
特に高齢者の糖尿病患者の場合には、歯周病や肺炎などの感染症にかかりやすくなり、重症化しやすいことに特徴があります。
これは、細菌やウイルスなどの感染が起こることで、炎症を促す物質(サイトカイン)やストレスホルモンなどが放出され、炎症反応が長引くことで症状が悪化するからです。
また、ストレスホルモンにはインスリンのはたらきを妨げるはたらきがあり、血糖値のコントロールが悪くなってしまいます。
そうすると、さらに白血球の活動や免疫機能が低下することになります。
このように、糖尿病による高血糖と免疫力の低下は、お互いに悪循環に陥る関係性にあり、これに加齢が影響することで感染症のリスクが高まることに注意が必要です。
(6)うつ病や認知症を合併しやすい
高齢者の糖尿病患者は、うつ病や認知症を発症しやすくなることが知られています。
特に低血糖の状態が繰り返し起こることで、うつ病の発症リスクが高まるという報告があります。
また、うつ病による食欲不振などによって低血糖が引き起こされることもあり、お互いに影響を及ぼし合うといえるでしょう。
なお、加齢によって認知症を発症する可能性が高まりますが、糖尿病によっても認知症が引き起こされることがあるため、注意が必要です。
これは、血糖値が高い状態が続くことで、認知症を引き起こすアミロイドβと呼ばれる物質が脳に蓄積しやすくなることに理由があります。

特に2型糖尿病の場合には、初期にはインスリンの放出量に問題がないことが多いです。
しかし、インスリンのはたらきが弱められることで、ブドウ糖をうまく消費できなくなり、体はさらにインスリンを放出してブドウ糖が細胞に取り込まれることを促します。
これによって、血液中にインスリンがあふれてしまう「高インスリン血症」という状態が引き起こされてしまうのです。
過剰に放出されたインスリンは分解酵素のはたらきによって分解されますが、この分解酵素はアミロイドβの分解にも関わっています。
そのため、高インスリン血症の状態では、アミロイドβが分解されずに蓄積していき、このことが認知症の発症に関わることが明らかとなってきました。
このように、高齢者が認知症を発症すると、心身ともに影響が生じる可能性があることに注意が必要です。
3.高齢者の糖尿病治療のポイント

上記のように、高齢者の糖尿病患者は、若年者や中年と比較すると症状の現れ方などに特徴があります。
また、運動機能や身体機能の低下など、さまざまな要因が加わることによって、血糖値をコントロールすることが難しくなる傾向があります。
そのため、若年者や中年の糖尿病の場合とは異なり、治療を進める上ではいくつかの注意点もあることを押さえておきましょう。
具体的には、以下のような点です。
- 血糖値の数値目標を適切に設定する
- 無理のない範囲で運動を定期的に行う
- 極端な糖質制限に注意する
- 植物性のタンパク質や魚を意識的にとる
- 薬の服用に関する管理を徹底する
順にご説明します。
(1)血糖値の数値目標を適切に設定する
糖尿病の進行・悪化を防ぐためには、血糖値をコントロールすることが必要不可欠です。
血糖値のコントロールが悪い状態が続くことで、高齢者の糖尿病患者は特に重篤な合併症や病気を引き起こすリスクが高まってしまいます。
そのため、治療を開始する段階では、目標とする血糖値の基準値を定めることになります。
もっとも、高齢者の場合には、年齢や身体能力、認知機能などの状態が一人ひとりによって異なります。
また、糖尿病を発症する前に何らかの基礎疾患などを抱えている場合もあり、その基礎疾患が血糖値に影響を与えていることもあるのです。
このように、高齢者の糖尿病患者については、若年者の糖尿病患者に用いられる血糖値の基準値をそのまま当てはめることが適切ではない事情がいくつか考えられます。
そのため、高齢者の糖尿病患者では、特にHbA1cについては、以下のような基準が設けられています。
もっとも、個別性が高く、主治医が合併症・低血糖リスク・生活状況を踏まえて調整されることが一般的です。
| 患者の状態 | 重症低血糖のリスクがある薬剤の投与がない | 重症低血糖のリスクがある薬剤の投与がある |
| 認知機能が正常であり、かつ日常生活動作が自分で行うことができる | 7.0%未満 | 7.5%未満(下限6.5%) |
| 軽度認知障害~軽度認知症、または手段的日常生活動作が低下 | 7.0%未満 | 8.0%未満(下限7.0%) |
| 中程度以上の認知症、または基本的日常生活動作が低下、または併存疾患や機能障害が多い | 8.0%未満 | 8.5%未満(下限7.5%) |
HbA1cは、血液中の赤血球にブドウ糖が結合した物質(グリコヘモグロビン)の濃度を表す指標です。
血糖値が高い状態が続いていると、血液中のブドウ糖が赤血球と結合しやすくなります。
そして、ブドウ糖が一度結合してしまうと、赤血球の寿命である2~3か月程度は結合した状態のままとなります。
そのため、HbA1cの数値を参照することで、数か月間の血糖値の変化を評価することが可能です。
しかし、高齢者の場合には若年者や中年の糖尿病患者と比較すると、低血糖に陥りやすい点に特徴があります。
これによって、さまざまな合併症や病気を引き起こす可能性があるほか、重篤な低血糖(重症低血糖)に陥ることで生命に関わるリスクが高まります。
そのため、厳格な血糖値の管理よりも、低血糖が生じるリスクを抑えながら生活の質(QOL)の維持を図ることが最も重要といえるでしょう。
また、身体機能に応じた目標値が設定されていることも特徴です。
具体的には、「日常生活動作(ADL)」という生活自立度を測る指標によって目標値が異なります。
日常生活動作には、大きく以下の2つのものがあります。
| 種類 | 具体的な活動の内容 |
| 基本的ADL | 着衣、移動、入浴、トイレの使用など |
| 手段的ADL | 買い物、食事の準備、金銭の管理、服薬の管理など |
これらの動作を自分だけで行うことができるかどうかも血糖値の目標に関わることを押さえておきましょう。
もっとも、認知機能や身体機能は、特に高齢者の場合には短期間で変化することも多いです。
そのため、患者本人だけでなく患者の家族などの周りを含めたケアやサポートの状況に応じて柔軟に目標値を定める必要があります。
そのような観点から、定期的な通院と血液検査による目標の見直しと調整が欠かせないことも把握しておきましょう。
(2)無理のない範囲で運動を定期的に行う
運動機能と身体機能が低下することによって、血糖値が高い状態が続くと同時に、さまざまな合併症や病気のリスクが高まります。
そのため、適度な運動を行うことによって筋肉量の低下を防ぎ、運動機能や身体機能を維持することにつながります。
もっとも、すでに筋肉量や筋力が低下している場合には、運動を行うことによって却って転倒や骨折などのリスクが高まる可能性があることには注意しましょう。
特に高齢者の場合には、激しい運動に取り組むよりも、無理のない範囲で少しずつ体を動かす習慣を取り入れることが最も大切です。
例えば、軽いウォーキングや散歩、バランス運動などによっても血糖値の改善効果が期待できます。
これは、体を動かすエネルギーとして、ブドウ糖が消費されるからです。
また、運動を少しずつ行うことで、筋肉量を増やすことにもつながり、余分なブドウ糖が筋肉に蓄えられやすくなります。
さらに、筋肉を動かすときにもブドウ糖が消費され、筋肉へのブドウ糖の取り込みはインスリンのはたらきとは関係なく促されます。
これによって、インスリンの放出量が低下している場合であっても、ブドウ糖の消費を促して血糖値を下げることが可能です。
もっとも、どの程度の強度の運動をどのような頻度で行うかは、身体機能のほか、基礎疾患や合併している病気の内容・程度によっても異なります。
そのため、主治医と相談しながら運動の種類や頻度などについて決めることが大切です。
(3)極端な糖質制限に注意する
糖尿病の治療では、食習慣と運動習慣を改善させることが中心です。
特に糖質を多く含む炭水化物に偏った食習慣を送ることで、体の中にブドウ糖が多く取り込まれてしまい、血糖値の急激な上昇を招くことがあります。
そのため、糖質の摂取量を控えることで、血糖値をコントロールすることが可能です。
もっとも、糖質(ブドウ糖)はわたしたちの体に必要な栄養素でもあることから、摂取量を極端に制限することは避けなければなりません。
また、高齢者の場合には、肝機能の低下などのさまざまな要因から低血糖を引き起こすリスクも高いです。
極端な糖質制限を行うことにより、低血糖に陥る可能性がさらに高まってしまうことにも注意しましょう。
なお、糖尿病の治療における食事療法の基本は、栄養バランスを整えることにあります。
具体的には、炭水化物は40~60%、タンパク質は20%を上限とし、脂質は25%を超えない量に抑えることが理想的です。
そのため、炭水化物(糖質)の摂取量を抑える場合には、代わりに食物繊維やミネラルなどを含む食品・食材を多くとるなどの対応が必要となるでしょう。
糖質制限に関する注意点などについては、以下の記事も合わせてご覧ください。
(4)植物性のタンパク質や魚を意識的にとる
先ほども述べたように、高齢者は筋肉量が低下している傾向にあり、そのことが血糖値が高い状態が続いてしまう要因にもなるといえます。
また、筋肉量の低下は運動機能や身体機能の低下を招き、血糖値のコントロールに悪影響を及ぼす可能性があります。
筋肉は運動によって増やすこともできますが、筋肉を作る際に必要となるタンパク質を意識的にとることも重要です。
特に大豆などの植物性のタンパク質や魚などを摂取することで、筋肉が作られることを促す効果が期待できるでしょう。
もっとも、基礎疾患や糖尿病の合併症などによって、すでに腎機能が低下している場合には、タンパク質の摂取量を調整する必要があることにも留意しましょう。
(5)薬の服用に関する管理を徹底する
基礎疾患や糖尿病による合併症がある場合には、その内容や症状の程度によっては、薬物療法が追加で行われることがあります。
例えば、基礎疾患として高血圧がある場合には、血圧を下げるための薬(降圧薬)が処方されることがあります。
また、血糖値を下げるための薬(経口血糖降下薬)が処方されるケースも見られます。
もっとも、高齢者の糖尿病患者では、血糖値が高い状態が長く続いていた場合には、肝臓や腎臓のはたらきがすでに低下しているケースもあります。
これによって、薬の分解や吸収などが遅れることで薬が効きすぎてしまい、低血糖などの副作用を引き起こす可能性が高まることに注意が必要です。
そのため、薬の服用量や服用のタイミングなどについて、管理を徹底するようにしましょう。
なお、すでに認知機能が低下している場合などには、薬の自己管理を行うことが難しいケースも多いです。
そのような場合には、家族などのサポートを受けながら薬の服用を行うことが大切といえます。
また、主治医と相談しながら薬の種類や量についても調整することが治療効果を高めるためにも重要といえるでしょう。
なお、糖尿病の治療で用いられる薬の種類や薬効などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
まとめ
本記事では、高齢者が糖尿病を発症しやすくなる理由や高齢者の糖尿病患者に特徴的な症状の現れ方などについて解説しました。
年齢を重ねることによって、筋肉量の低下やインスリンの放出量が減ってしまう傾向があります。
そのため、高齢者では糖尿病を発症するリスクが高まることに注意が必要です。
特に高血圧などの基礎疾患がすでにある場合には、その症状が影響することによって糖尿病を引き起こすこともあります。
高齢者が糖尿病を発症すると、運動機能や身体機能の低下など、さまざまな要因によって血糖値のコントロールが難しくなり、糖尿病の悪化や合併症の発症リスクも高まってしまいます。
もっとも、基礎疾患の内容や身体機能の状態などは、一人ひとりによっても異なります。
適切な方法で治療を行うためにも、健康診断を長らく受けていない場合や血糖値が高いことを指摘された場合には、内分泌科や糖尿病専門クリニックなどを受診しましょう。







