糖尿病は血液検査で分かる?主な検査項目や糖尿病のリスクも解説

「糖尿病の可能性があるかどうかは血液検査で分かるのか」
「ほかにどんな検査から糖尿病の可能性が分かる?」
「糖尿病を予防するためのポイントについて知りたい」

これから健康診断を受診される方や精密検査を受けようとされている方の中には、このような疑問や不安をお持ちの方もいると思います。

糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が慢性的に高い状態が続くと発症するリスクが高まります。

血糖値は血液検査を行うことで把握することができ、一般的な健康診断の検査項目にも含まれていることから、定期的に健康診断を受けることで変化や異常に気づきやすいです。

もっとも、血糖値に異常がない場合でも、ほかの検査項目から糖尿病のリスクが判明するケースもあります。

糖尿病を発症すると、さまざまな合併症を引き起こす可能性が高まり、中には生命に関わる重篤なものもあります。

そのため、必要な検査を定期的に受け、糖尿病のリスクについて事前に把握しながら予防の対策を講じることが大切です。

本記事では、糖尿病を疑うきっかけとなる血液検査の項目や糖尿病との関連が高い検査項目などについて解説します。

また、糖尿病によって引き起こされる主な合併症のメカニズムや症状などについても合わせて解説します。

糖尿病は、血糖値が高い状態になることで発症しますが、通常はいきなり血糖値が上昇することは稀で、本人も気づかないうちに徐々に上昇していくケースがほとんどです。

血糖値が高くなっていることを早期に自覚し、必要なポイントを押さえて適切な血糖値コントロールを行うことができれば、糖尿病や合併症の発症リスクを抑えることができます。

なお、糖尿病を発症するリスクを抑えるためのポイントについても紹介していますので、本記事が普段の生活習慣を見つめ直すきっかけとなれば幸いです。

1.糖尿病を疑うきっかけとなる血液検査の項目

糖尿病は、慢性的に血糖値が高い状態が継続することによって、さまざまな症状を引き起こす病気です。

糖尿病は、糖質(炭水化物)の分解・吸収に関わるインスリンという物質が作られなくなることや細胞に対するインスリンの作用が弱まることで生じます。

通常、食事などを通じて糖質(炭水化物)が摂取されると、唾液に含まれるアミラーゼという酵素のはたらきによって、糖質はブドウ糖(グルコース)に分解され、血液中に吸収されます。

糖質は細胞や組織のはたらきに必要不可欠な栄養素であり、細胞や組織に取り込まれることで、エネルギーに変換されます。

このようなはたらきを糖代謝といい、ブドウ糖(グルコース)の分解・吸収を促進するはたらきを持つのが膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞で作られるインスリンという物質です。

インスリンは体の中のさまざまな細胞にある受容体という器官にはたらきかけ、ブドウ糖(グルコース)が細胞の中に吸収されるのを促進する役割を担います。

通常であれば、血糖値は一定に保たれるため、血糖値の上昇が見られた場合にはインスリンが放出され、細胞での吸収が促進されます。

これによって、血液中のブドウ糖(グルコース)がエネルギー源として消費され、血糖値が一定の水準に維持・調整されるのです。

もっとも、糖尿病ではこのような糖代謝に異常が生じてしまうため、血糖値に異常を来してしまいます。

糖尿病になると、細胞に吸収されてエネルギー源となるはずのブドウ糖(グルコース)が吸収されないことによって血糖値が高くなってしまうのです。

そのため、以下のような項目について数値が高い場合には、糖尿病の可能性が疑われることになります。

糖尿病を疑うきっかけとなる血液検査の項目

  1. 空腹時血糖値
  2. ブドウ糖負荷試験
  3. 随時血糖値
  4. グリコヘモグロビン(HbA1c)検査
  5. グリコアルブミン(GA)検査
  6. インスリン(IRI)検査
  7. C-ペプチド検査
  8. 抗GAD抗体検査

順にご説明します。

(1)空腹時血糖値

空腹のときの血糖値を参考にする指標です。

具体的には、10時間以上食事をとっていない状態で測定する血糖値のことをいいます。

糖質の取り込みを行っていないため、最も血糖値が低い状態であり、診断の際や治療経過を判断する際に参照されることが多いです。

また、健康診断の血液検査では、この値の測定が行われることが一般的です。

空腹時の血糖値が126㎎/dL以上であるか否かが糖尿病の診断の際の基準値となります。

もっとも、110~125㎎/dLの範囲にあるときは、「糖尿病の疑いが否定できない」基準とされ、糖尿病境界型とも呼ばれます。

空腹時血糖値の判定と基準値は、以下のようにまとめることができます。

判定 空腹時血糖値の範囲
正常型 正常 100㎎/dL未満
正常高値 100~109㎎/dL
境界型 110~125㎎/dL
糖尿病型 126㎎/dL以上

なお、境界型に該当する場合には、糖尿病である疑いが否定できないため、後述するブドウ糖負荷試験が実施されることもあります。

(2)ブドウ糖負荷試験

75gのブドウ糖を溶かした水を飲み、その2時間後に血糖値を測定する検査です。

糖質が血液中に吸収された状態であることから、最も血糖値が高く、通常であればインスリンが放出されて細胞への取り込みが促されることになります。

その意味で、この数値を測定することで、インスリンが正常にはたらいているか否かを評価することができます。

具体的には、以下の基準に基づいて診断が行われます。

判定 ブドウ糖75g摂取2時間後の血糖値の範囲
正常型 140㎎/dL未満
境界型 140~199㎎/dL
糖尿病型 200㎎/dL以上

なお、空腹時血糖値が正常の範囲内にあったとしても、この検査によって血糖値が高い場合には、糖尿病と診断される場合が多いです。

(3)随時血糖値

食事の時間と関係なく採血を行い、血糖値を測定する検査です。

随時血糖値では、200㎎/dL以上となると、糖尿病と診断されることになります。

もっとも、どのタイミングで測定を行うかによって数値に大きな変動を伴うため、この値のみで糖尿病の判定を行うことは困難であることが多いです。

そのような場合には、後述するグリコヘモグロビン(HbA1c)検査の結果によって判断されます。

(4)グリコヘモグロビン(HbA1c)検査

過去2か月程度の血液中のブドウ糖(グルコース)濃度を評価する指標です。

グリコヘモグロビン(HbA1c)は、血液中で酸素を運ぶ役割を担うヘモグロビンにブドウ糖(グルコース)が結合したものをいいます。

血糖値が高いと、ヘモグロビンに多くのブドウ糖(グルコース)が結合するため、HbA1cの値が高くなります。

つまり、グリコヘモグロビン(HbA1c)の値が高い場合には、持続的に血糖値の上昇が生じていることを意味し、6.0~6.4%で糖尿病の境界型とされ、6.5%以上の数値が測定されると糖尿病と診断されるのです。

(5)グリコアルブミン(GA)検査

血液中のたんぱく質であるアルブミンにブドウ糖(グルコース)が結合したグリコアルブミン(GA)の濃度を測定する検査です。

グリコアルブミン(GA)は採血時点を基準として2~4週間前の平均血糖値が反映された指標であるため、血糖コントロール状態の評価の際に参照されます。

11~16%の範囲が正常値とされており、この値よりも高い場合には血糖コントロールの状態がよくないことを意味します。

(6)インスリン(IRI)検査

血液中のインスリンの濃度を測定する検査です。

インスリンは膵臓で作られ、ブドウ糖(グルコース)が血液中に吸収されると、体の細胞にはたらきかけて、ブドウ糖の吸収・分解を促進する役割を担います。

インスリンが血液中に放出される量を調べることで、糖尿病の診断や病態の解明に用いられます。

例えば、血糖値が高く、インスリンの濃度が低い場合には、β細胞でインスリンが作り出されなくなっている可能性が考えられます。

また、インスリンの濃度が十分にあるものの、血糖値が高い状態であれば、細胞に対するインスリンの作用が弱まっている可能性があります。

このように、血糖値と同時に測定することで、糖尿病のリスクを把握できるだけでなく、1型糖尿病と2型糖尿病を見分けることにもつながるのです。

(7)C-ペプチド検査

C-ペプチドは、膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞でインスリンと同時に作られる物質です。

インスリンとC-ペプチドは同じ量が作られ、同じ量が血液中に放出されます。

そのため、C-ペプチドの濃度を測定すれば、膵臓で作られたインスリンの量を推定することができるのです。

C-ペプチドの濃度は、すでにインスリン療法を行っており、自分の体の中で作り出されたインスリンの量が特定できない場合に測定されることが多いです。

(8)抗GAD抗体検査

GAD抗体は、膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞に作用する自己抗体を指します。

糖尿病の中でも1型糖尿病では、β細胞を異物と判断してしまい、これを攻撃する自己抗体が作り出され、β細胞を攻撃することでインスリンが作り出されなくなってしまいます。

そのため、抗GAD抗体は、1型糖尿病のリスクがある人を早期に発見し、適切な治療を開始することを目的に測定されることが多いです。

2.糖尿病との関連が高い検査項目

上記で述べたように、糖尿病であるか否かは血液検査によって判断されます。

もっとも、以下のような検査項目からも糖尿病のリスクを把握することが可能です。

糖尿病との関連が高い主な検査項目

  1. BMI
  2. 腹囲
  3. 血中脂質
  4. 肝機能
  5. 尿糖

一度糖尿病となってしまうと完治は難しく、合併症などのさまざまなリスクが生じてしまいます。

また、生涯にわたって厳密な血糖値コントロールが必要となり、生活にも影響が生じる可能性があります。

以下のような検査項目は、標準的な健康診断の検査項目であり、肥満に関する指標がほとんどです。

肥満は体の中のインスリンの作用を弱め、2型糖尿病のリスクを高めることが知られています。

そのため、定期的に健康診断を受診した上で、糖尿病のリスクを把握しておくことが重要です。

(1)BMI

BMIは肥満の度合いを示す指標です。

具体的には、以下の計算式を用いて算出することができます。

BMIの計算式

  • 体重(㎏)÷(身長(m)×身長(m))

この数値が18.5以上25未満であれば正常、25以上となると肥満となります。

先ほども述べたように、肥満は2型糖尿病を発症するリスクを高める要因となっています。

これは、肥満がインスリンの作用を弱めてしまうインスリン抵抗性を高めることに理由があります。

また、糖尿病だけでなく、動脈硬化や心不全などの病気のリスクも高まるため、BMIの数値が高い場合には減量などの対策が必要不可欠です。

(2)腹囲

腹囲は腹の周りの大きさを表し、内臓脂肪量を表す指標です。

男性では85㎝以上、女性では90㎝以上で内臓脂肪蓄積と判断されます。

内臓脂肪が増えると、インスリンの作用を阻害する悪玉物質が増加し、血糖値が上昇して糖尿病のリスクが高まるため、注意が必要です。

なお、内臓脂肪は皮下脂肪と比較すると減少させやすいことが知られています。

これは、内臓脂肪が胃や腸などの周りにある太い血管の近くにあり、血流にのって肝臓に運ばれやすく、すぐにエネルギーとして消費されることに理由があります。

そのため、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を行う習慣を取り入れることで、内臓脂肪の減少につながります。

(3)血中脂質

インスリンにはブドウ糖の吸収・分解を促進するはたらきのほか、脂質を分解する役割も担っています。

肥満によってインスリンの作用が弱まると、ブドウ糖だけでなく脂質も分解されずに血液中に残ってしまい、血中脂質の濃度が高くなってしまうのです。

血中脂質の濃度を測定するときには、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、中性脂肪の3つの数値が参照されます。

これらの基準値は、以下のようにまとめることができます。

項目 基準値
LDLコレステロール(悪玉コレステロール) 60~119㎎/dL
HDLコレステロール(善玉コレステロール) 40㎎/dL以上
中性脂肪 30~149㎎/dL

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)と中性脂肪は基準値を上回る場合、反対にHDLコレステロール(善玉コレステロール)が基準値を下回る場合には注意が必要です。

そのような状態が継続すると、動脈硬化が進行し、狭心症や心筋梗塞、脳卒中などのリスクを高めることにつながります。

(4)肝機能

肥満になると、インスリンの作用が阻害され、脂質の分解が行われず、余分な脂質が肝臓に過剰に蓄えられてしまいます。

これによって脂肪肝となってしまい、肝臓の機能が低下してしまうのです。

肝機能が正常であるか否かは、以下の数値によって判断されます。

項目 基準値
AST 30U/L以下
ALT 30U/L以下
γ-GTP 30U/L以下

脂肪肝は特に2型糖尿病の70%程度に合併するとされています。

また、脂肪肝が進行すると肝細胞が壊死して線維化し、肝硬変や肝がんのリスクが高まることにも注意が必要です。

肝機能が低下している場合には、食事のカロリーを減らし、脂肪の材料となる脂質や糖質、果糖の多い飲食物の摂取を控えることによって肝機能の改善を図ることができます。

(5)尿糖

尿糖は、尿の中に糖が含まれているか否かを測定する検査項目です。

通常であれば、血液中のブドウ糖(グルコース)は腎臓で再吸収されるため、尿の中に糖が出てくることはありません。

しかし、血糖値が慢性的に上昇している場合には、腎臓でブドウ糖(グルコース)を再吸収するはたらきに異常を来してしまうのです。

一般的に血糖値が160~180㎎/dLを超えると、尿の中に糖が出てくるといわれています。

尿糖の検査結果が陽性になる場合には、内科や糖尿病専門クリニックなどの専門の医療機関を直ちに受診する必要があります。

3.糖尿病の主な合併症

糖尿病では、慢性的な高血糖状態によって、さまざまな合併症を引き起こすリスクが高まることが知られています。

これは、高血糖状態が慢性的になることによって、血管が傷つけられてしまい、さまざまな組織に影響が生じることに理由があります。

具体的には、以下のような合併症のリスクが高まります。

糖尿病の主な合併症

  1. 糖尿病性網膜症
  2. 糖尿病性腎症
  3. 糖尿病性神経症
  4. 動脈硬化
  5. がん
  6. 認知症

このうち、網膜症、腎症および神経症は糖尿病の三大合併症と呼ばれており、特に発症しやすいため、注意が必要です。

また、糖尿病の三大合併症は主に毛細血管が傷つくことによって引き起こされますが、動脈などの太い血管が傷つけられることで生じやすくなる合併症もあります。

糖尿病の患者は、これらの合併症の影響もあり、一般の人と比較すると平均寿命が10歳以上短いことが報告されています。

血糖値が高い状態が続くことによるリスクを把握した上で、予防を行うことが何よりも重要です。

(1)糖尿病性網膜症

眼の一番奥の眼底には網膜と呼ばれる神経の膜があり、そこには細かな血管である毛細血管が張り巡らされています。

眼にある水晶体と呼ばれる器官はレンズのようなはたらきをしていて、ここを通った光などの刺激が硝子体と呼ばれるゼラチン質の器官を経由して網膜で受け取られます。

そして、網膜が受け取った刺激は電気信号として神経を経由して脳に伝達され、これらの一連の流れが視覚という感覚を構成しているのです。

高血糖の状態が慢性化すると、血液中のブドウ糖(グルコース)が固まりやすくなり、末端の毛細血管が詰まりやすくなってしまいます。

これによって網膜の毛細血管の一部がこぶ状に拡張する毛細血管瘤や血管の壁に負担がかかることで眼底出血などが生じるリスクが高まります。

これによって網膜への血液の流れが悪くなり、酸素や栄養分が不足することによって、眼のかすみや視力低下などが生じるのです。

症状が進行・悪化すると硝子体で出血が起こり、失明するケースも見られます。

初期には自覚症状が現れず、本人も気づかないうちに症状が進行・悪化することが多いため、必要に応じて眼科で検査を受け、眼の状態を把握することが予防につながります。

(2)糖尿病性腎症

高血糖の状態が慢性化することによって、腎臓の機能が低下することもあります。

腎臓は血液中の老廃物をろ過し、尿として排出するほか、体の中の水分量やミネラル量、血圧などの維持・調整にも関わる重要な臓器です。

高血糖の状態が慢性的になると、血管が傷み、毛細血管の詰まりなどが生じることで、腎臓の糸球体という器官が損傷を受けてしまいます。

糸球体は腎臓で老廃物のろ過を担い、毛細血管が入り組んだ構造であるため、高血糖の状態が継続することで糸球体の機能が低下し、老廃物の排出がうまくできなくなってしまうのです。

症状が進行すると血圧の調整ができないことによる高血圧や老廃物の排出機能の低下によるむくみなどが生じるケースもあります。

糸球体の破壊が進行すると腎機能不全に陥り、老廃物をろ過・排出できないことによって、人工透析や腎移植が必要となる場合もあるため、注意が必要です。

特に人工透析に至った原因については、2011年に糖尿病が第1位となり、現在では全体の40%を超えるまで増加していることが報告されています。

そのため、糖尿病を原因とする腎症を放置することは非常にリスクが高いといえるでしょう。

もっとも、早期発見と適切な治療によって予防することが可能であり、医療機関で定期的な尿検査を行うことで早期発見につながるケースもあります。

(3)糖尿病性神経症

神経には、脳や脊髄などによって構成される中枢神経とそこから手足に広がる末梢神経の2つがあります。

高血糖の状態が慢性化すると、末端の血管が詰まりやすくなり、末梢神経のはたらきに異常が生じてしまうのです。

末梢神経には、ものを触る際に関わる感覚神経、手足を動かす際の運動神経、呼吸や血圧の維持・調整などの無意識的な活動に関わる自律神経があります。

そのため、末梢神経のはたらきが鈍くなると、これらの感覚にも異常を来たし、手指や足先の痺れや冷え、足裏に紙や布が張り付いたような感覚に陥る場合があります。

また、自律神経のはたらきに異常が生じると、立ち眩みや発汗量の増加、消化不良などの症状が現れるケースもあるため、注意が必要です。

症状が進行すると痛みを感じなくなり、免疫機能の低下も相まって、細菌感染による炎症反応や足の組織の壊疽などのリスクが高まります。

特に糖尿病になると、肺炎や尿路感染症などの感染症にかかりやすくなり、重症化するリスクも高いことが知られています。

また、痛みを伴う病気にも気づかず、発見が遅れることで突然死につながるリスクもあるのです。

そのため、神経障害によって合併症に気づきにくくなり、重症化や突然死のリスクが高まることにも注意が必要です。

(4)動脈硬化

動脈硬化とは、太い血管の内部にコレステロールなどが沈着し、血管のしなやかさが失われる状態をいいます。

特に糖尿病の場合には、動脈の内部の膜が傷つき、そこにコレステロールなどが入り込んでプラークとなるアテローム(粥状)硬化が生じることが多いです。

動脈硬化が進行すると、血管が狭くなったり詰まったりすることで、さまざまな病気を引き起こすリスクが高まります。

特に心不全や心筋梗塞、脳梗塞などを発症するリスクが高まり、その中でも心筋梗塞は非糖尿病患者と比較しても発症しやすいことが知られています。

また、太腿に通っている太い血管である大腿動脈などが動脈硬化によって狭くなったり詰まったりすることで生じる下肢閉塞性動脈硬化症なども引き起こしやすくなります。

下肢閉塞性動脈硬化症は、下肢(両脚)の血行が動脈硬化によって阻害され、痺れや痛み、末端の冷えなどの症状が現れることが多いです。

また、一定の距離を歩くと痛みが現れ、一時的に休息すると改善して歩き出すことができる「間欠性跛行」と呼ばれる症状が現れるケースもあります。

症状が進行すると末端への血液の流れが止まり、酸素や栄養分を運ぶことができなくなり、足先の組織の壊疽が生じるリスクが高まります。

このように、糖尿病を原因として動脈硬化を合併すると、さまざまな病気を引き起こすトリガーとなる可能性が高いです。

また、これらは糖尿病のほかにも高血圧や肥満などの要因によっても発症することが多く、生命にも関わる重篤な病気であるため、自覚症状がない場合でも、生活習慣の改善を中心とした予防のための対策を行うことが重要といえます。

(5)がん

糖尿病はがんのリスクを高めることが知られています。

特に2型糖尿病に合併するケースが多く、男性は肝がん、女性は卵巣がんのリスクが非糖尿病患者と比較するとおよそ2倍以上に高まることが報告されています。

がんは悪性腫瘍または悪性新生物とも呼ばれ、体の中の細胞が通常の成長コントロールを失って過剰に成長・増殖することで生じます。

糖尿病では、慢性的な高血糖状態が続くことで、血管や組織が損傷を受け、細胞が傷つきやすくなります。

また、2型糖尿病ではインスリンの作用が弱められてしまうことにより、インスリンが過剰に放出されてしまうため、血液中のインスリン濃度が高くなります。

これによって、細胞の成長を促進させるはたらきを持つインスリン様成長因子1(IGF-1)という物質が過剰に放出され、これによって腫瘍細胞の成長が促進されることでがんになりやすくなると考えられています。

なお、がんは糖尿病以外にも、肥満や運動不足、動物性食品の過剰摂取などの生活習慣の乱れによっても引き起こされることが知られています。

そして、2型糖尿病を引き起こす原因には肥満や生活習慣の乱れなども挙げられるため、これらが相乗的に関わることでがんのリスクを増大させるということができるでしょう。

(6)認知症

高齢者が2型糖尿病を発症すると、認知症を合併するリスクが高まることにも注意が必要です。

これは、高血糖の状態が慢性化することによって脳に通う血管が傷つき、詰まりやすくなることによって脳の神経細胞がダメージを受けることに原因があります。

血管に障害が発生することによって生じる血管障害型の認知症は、すべての認知症のうち20%ほどを占めるものであり、高血圧や脳梗塞などを原因として発症するケースもあります。

なお、認知症の中でもおよそ70%を占めるアルツハイマー型認知症についても、糖尿病が与える影響が指摘されています。

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβという物質が脳に蓄積することで発症します。

通常であれば、アミロイドβが蓄積されないように分解酵素がはたらき、分解・排出が行われます。

このアミロイドβを分解する酵素は、血液中に放出されたインスリンを分解するはたらきもあるのです。

2型糖尿病では、細胞に対するインスリンの作用が弱まることで、血糖値の上昇を抑えようと過剰にインスリンが放出されてしまいます。

これによって増加したインスリンを分解するために分解酵素が使われてしまい、アミロイドβの分解・排出にまで回らずに蓄積していくことでアルツハイマー型認知症の発症リスクを高めることが明らかとなってきました。

また、一般的に加齢によって認知症のリスクが高まることも指摘されているため、高齢者が糖尿病を発症した際には早期から血糖値のコントロールに努めることで、認知症を合併するリスクを抑えることにつながります。

4.糖尿病のリスクを減らすためのポイント

糖尿病はさまざまな合併症を引き起こし、場合によっては生命に関わる重篤なものもあります。

先ほども述べたように、肥満は糖尿病のリスクを高めるものであるため、生活習慣の見直し・改善を図ることが糖尿病のリスクを軽減するためにも重要です。

健康診断などを受診し、上記で紹介した検査項目に異常がある場合には、以下の点に留意しましょう。

糖尿病のリスクを減らすためのポイント

  1. 食習慣に気をつける
  2. 適度な運動習慣を身につける
  3. 禁煙をする
  4. ストレスのコントロールをする

これによって、血糖値の上昇を抑え、糖尿病とそれに伴う合併症の発症リスクを軽減することにもつながります。

(1)食習慣に気をつける

バランスの取れた食習慣を心掛けることで、血糖値の上昇を抑え、糖尿病を発症するリスクを軽減することができます。

具体的には、3食しっかりとることやカロリーコントロールに留意しましょう。

バランスのとれた栄養素を1日に必要なカロリーの範囲内で摂取することで、膵臓への負担を減らし、インスリンの作用を正常に保つことにもつながります。

また、食物繊維を多く含む食品を摂取することで、血糖値の急激な上昇を抑える効果が期待できます。

例えば、野菜やきのこ、海藻類は食物繊維やミネラルを多く含むことが知られています。

これらの食品を意識して日々の食事に取り入れることが大切です。

なお、血糖値の急激な上昇を抑えるためには、上記で述べたことはもちろん、食べる順番も重要です。

具体的には、食物繊維の多い野菜類を最初にとり、次にタンパク質や脂質、最後に糖質(炭水化物)をとる順番で食事をすると、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。

これらのポイントを意識しながら食習慣の見直し・改善を行うことが糖尿病だけでなく、ほかの病気を予防することにもつながるのです。

(2)適度な運動習慣を身につける

有酸素運動と無酸素運動の双方を組み合わせた運動習慣を意識することで、血糖値のコントロールを行うことができます。

例えば、軽いジョギングやウォーキングなどの有酸素運動は週に150分以上かつ週3回以上行い、運動をしない日が2日以上続かない間隔で取り組むことが重要です。

また、筋トレなどの無酸素運動は連続しない日程で週に2~3回程度行うことが望ましいとされています。

適度な有酸素運動を行うことで、血液中のブドウ糖(グルコース)がエネルギーとして消費されるため、血糖値の低下が期待できます。

また、筋肉をつけることで、血液中のブドウ糖(グルコース)をグリコーゲンとして蓄えることができ、血糖値のコントロールに有効です。

そのため、有酸素運動と無酸素運動を組み合わせることで、より血糖値のコントロールに効果的であるといえます。

もっとも、過度な運動は却って血圧を上昇させ、血糖値が上昇する要因ともなるため、無理のない範囲で運動習慣を身につけることが何よりも大切です。

(3)禁煙をする

喫煙の習慣は、糖尿病のリスクを増大させることが知られています。

特にタバコは細胞に対するインスリンの作用を弱めてしまう「インスリン抵抗性」を上昇させることで、血糖値の上昇と糖尿病の発症リスクを高めることも報告されています。

また、一般的に喫煙の習慣は動脈硬化やがんのリスクも上昇させ、認知症の発症にも関わります。

そのため、禁煙をすることは糖尿病の発症リスクを抑えるのはもちろん、ほかの病気や合併症を予防することにもつながるのです。

(4)ストレスのコントロールをする

強いストレスや慢性的なストレスにさらされることは、血糖値が上昇する要因となることが知られています。

これは、ストレスを受けることで体の中でアドレナリンやコルチゾールという物質が作り出されるためです。

これらの物質は血圧や心拍数を高めるはたらきがあり、ストレスに耐えるために必要な役割を担っています。

もっとも、慢性的なストレスを感じることで、これらの物質が過剰に放出されることによって血圧や心拍数が上昇したままとなります。

これによって、血糖値も上昇し続けるため、糖尿病を発症するリスクが高まってしまうのです。

そのため、適切なストレスマネジメントを心がけることで、血糖値の上昇を防ぎ、糖尿病のリスクを抑えることにもつながります。

まとめ

本記事では、糖尿病を疑うきっかけとなる血液検査の項目やそのほかの検査項目について解説しました。

糖尿病は、慢性的な血糖値の上昇が見られる場合に発症のリスクが高まります。

そのため、定期的に血液検査を受け、血糖値の把握をすることで、糖尿病を予防することにつながります。

また、2型糖尿病は肥満や生活習慣の乱れによって引き起こされる場合も多いです。

血糖値の上昇が見られない場合でも、肥満などの生活習慣の乱れがあるケースでは、緩やかに血糖値の上昇が進行していくケースもあります。

本記事で紹介した検査項目に異常や気になる点がある場合には、糖尿病やそれに伴う合併症を予防するためにも、一度専門の医療機関で精密検査を受けることをおすすめします。