糖質制限が糖尿病に与える影響は?予防や治療の効果を高めるための注意点も解説

「糖質制限は糖尿病の予防や治療に効果的なのか?」
「どの程度まで糖質を制限すればいいのか知りたい」
「糖尿病の治療中にも糖質制限をしてもいい?」

健康診断などで血糖値が高いことを指摘された方や糖尿病の治療を行っている方の中には、糖質制限についてこのような疑問をお持ちの方もいると思います。

糖質は、体の活動のためのエネルギーを作り出す栄養素です。

食事を通じて体の中に取り込まれた糖質は、ブドウ糖(グルコース)という物質に分解され、血液の中に吸収されます。

そうすると、血液中のブドウ糖濃度が上昇し、これが血糖値と呼ばれるものです。

そして、食事による糖質の摂取量が多い場合には血糖値が上昇しやすくなります。

この状態が長く続くことで、糖尿病を発症するリスクが高まるため、注意が必要です。

もっとも、糖質の摂取量を制限することで、血糖値が急激に上がることを防ぐ効果が期待できます。

そのため、糖質制限を行うことで糖尿病の発症リスクを抑えることが可能です。

また、糖尿病の治療をすでに行っている場合でも、糖質制限の食事を取り入れることで、血糖値のコントロールを良好にすることができるでしょう。

しかし、糖尿病の予防や治療のために糖質制限に取り組む際には、いくつかの注意点もあります。

本記事では、糖質制限が糖尿病の予防や治療に与える影響や糖質制限を実践する上での注意点などについて解説します。

糖尿病の予防や治療には、糖質の摂取量を制限するほか、食習慣を全体的に見直すことが効果的です。

糖尿病の予防や治療の際に食事で意識すべきポイントや血糖値の急激な上昇を防ぐ食材などについては、以下の記事で詳しく解説しています。

1.糖尿病と糖質制限の関係

糖尿病は、血糖値が高い状態が続いてしまう病気です。

先ほども述べたように、糖質(ブドウ糖)は体の活動のエネルギー源となる栄養素ですが、エネルギーとして利用されるためにはインスリンという物質が必要です。

インスリンは、膵臓のβ細胞という場所から放出され、細胞にはたらきかけてブドウ糖の吸収と消費を促すはたらきがあります。

また、エネルギー源として消費されずに残ってしまったブドウ糖をグリコーゲンという物質に換えて筋肉や脂肪に蓄えるはたらきも持っています。

このようなインスリンのはたらきによって、上昇した血糖値は正常な範囲に保たれることになるのです。

しかし、インスリンの量が低下したり、細胞へのはたらきが弱められたりすることで、ブドウ糖がうまく消費されなくなってしまいます。

これによって血糖値が高い状態が続くことで、糖尿病を発症してしまうのです。

なお、インスリンの量が低下してしまうことによって引き起こされるものを1型糖尿病といい、インスリンのはたらきが弱められることで発症するものを2型糖尿病といいます。

このうち、糖尿病患者全体の約95%程度を2型糖尿病が占め、主に食事の栄養素の偏りや運動不足といった生活習慣の乱れなどが引き金となって発症することが多いです。

特に糖質を多く含む炭水化物に偏った食事習慣は、血糖値が高い状態を慢性化させ、2型糖尿病を発症するリスクが高まることが指摘されています。

炭水化物は、「糖質+食物繊維」からなり、炭水化物・脂質・タンパク質を三大栄養素といいます。

そして、糖質は炭水化物のうち、消化吸収されてエネルギーになる成分です。

そのため、炭水化物の摂取量を控えることで、体に取り込まれる糖質(ブドウ糖)の量を抑えることができ、血糖値が急激に上昇することを防ぐ効果が期待できます。

このように、糖質を制限する食事を心がけることで、血糖値を安定させ、2型糖尿病の発症を予防することができる可能性があるのです。

なお、糖尿病による高血糖の状態を放置することで、徐々に血管や神経が傷ついていきます。

そうすると、動脈硬化などの合併症を引き起こし、全身にさまざまな影響が生じるリスクが高まることに注意が必要です。

そのため、糖質制限による血糖値の安定は、すでに2型糖尿病の治療を行っている場合にも、一定の効果を期待することができるでしょう。

もっとも、過度に糖質を制限することにはリスクも伴います。

一般に、炭水化物の摂取量は成人で1日130g程度が目安として示されることがあります。

一方、糖尿病では炭水化物量は一律ではなく、治療内容(薬の種類など)や体格、生活に合わせて個別に調整することが大切です。

また、糖質を制限することによって、ほかの栄養素の摂取バランスも乱れてしまい、体調不良などを引き起こすこともあるのです。

このように、過度に糖質の摂取量を減らすこと自体が2型糖尿病を予防したり、治療効果を高めたりするわけではないことに注意しましょう。

2型糖尿病の主な症状や発症原因などの詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。

2.糖質制限の種類

糖質制限には、1日の糖質摂取量に応じて、3つの種類があります。

研究やガイドラインでは、「低炭水化物食(例:炭水化物130g未満/日)」や「超低炭水化物/ケトジェニック食(例:50g以下/日)」のように整理されることもあります。

本記事では、分かりやすさのために糖質(炭水化物)量を目安に3段階に分けて紹介します。

具体的には、以下の3種類です。

糖質制限の種類

  1. 緩やかな糖質制限
  2. 中程度の糖質制限
  3. 厳格な糖質制限

なお、いずれの場合であっても、長期的に糖質制限を行うことについては、その効果や安全性が確立されていないのが現状です。

そのため、自己判断で糖質制限を行うことにはリスクも伴います。

糖質制限に取り組む場合には、まずは医師をはじめとする専門家の指導を仰ぐことが最も重要です。

(1)緩やかな糖質制限

緩やかな糖質制限では、1日に摂取する糖質の量を130g程度までに制限する方法です。

特に主食(お米やパン、麺類)の摂取量を緩やかに制限し、ダイエット目的で行われることが多いといえます。

主食の炭水化物の量を制限する一方、タンパク質や脂質の摂取量には特に制限を設けないことが一般的です。

そのため、食事制限によるストレスを感じにくく、無理なく続けることができる可能性が高いといえるでしょう。

特に肥満の場合や血糖値が高いことを指摘された場合には、まずは緩やかな糖質制限を行うことで、体脂肪の減少や血糖値の低下などが期待できることがあります。

もっとも、緩やかな糖質制限では、得られる効果も限定的であることに注意が必要です。

特に糖尿病の治療に関しては、血糖値の改善にはそれほど大きな効果を与えないこともあり、次に述べる中程度の糖質制限を行うことが適しているケースも多いでしょう。

(2)中程度の糖質制限

1日に摂取する糖質の量を70~110g程度までに制限する方法です。

先ほども触れたように、糖質の摂取量は1日に100g程度が望ましいとされているため、中程度の糖質制限はこれをわずかに下回る水準になるといえます。

しかし、極端な糖質制限とはならず、タンパク質や脂質の摂取量にも制限が加わりません。

また、主食となる炭水化物については、3食のうちどれか1回を抜いたり、白米を玄米に代えるなどの対応によって糖質の摂取量を制限することが多いです。

タンパク質や脂質には血糖値を上昇させる効果がなく、消化・吸収に時間がかかることから、満腹感を得ることも期待できます。

そのため、無理なく始めることができる点に特徴があるといえるでしょう。

もっとも、すでに長期間にわたって炭水化物や糖質を多く摂取する食習慣を持っている場合には、中程度の糖質制限ではもの足りなさを感じて失敗する可能性もあります。

そのような場合には、まずは緩やかな糖質制限を行い、その後で徐々に中程度の糖質制限を行うことも効果的です。

特に肥満や血糖値が高い状態が続いている場合には、中程度の糖質制限を行うことで適正体重に戻し、血糖値を安定させることにもつながるでしょう。

なお、肥満は2型糖尿病の発症にも関わるリスク因子です。

詳細については、以下の記事も合わせてご参照ください。

(3)厳格な糖質制限

厳格な糖質制限では、1日の糖質摂取量を60g以下まで制限します。

炭水化物の摂取量を大幅に制限することが多いですが、タンパク質や脂質については制限を設けないことが一般的です。

食事によって体に取り込まれる糖質(ブドウ糖)の量を大きく抑えることができるため、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。

また、短期的に血糖値のコントロールを改善し、体脂肪の量を減らす効果も期待できるでしょう。

もっとも、糖質(ブドウ糖)の量が不足することによって、低血糖に陥るリスクも高まるため、注意が必要です。

低血糖は、正常な範囲を超えて血糖値が下がった状態をいいます。

糖質(ブドウ糖)は体の活動に必要な栄養素でもあるため、低血糖に陥ると、体がエネルギー不足となり、以下のような症状が現れることがあります。

低血糖による主な症状

  • 動悸
  • 発汗量の増加
  • 手指の震え
  • 強い空腹感
  • 目まい
  • 眠気
  • 集中力の低下 など

低血糖の状態を放置することで、昏睡などに陥り、生命に関わるリスクもあるため、注意が必要です。

そのため、糖尿病の予防や治療で長期的に取り組むことには不向きな方法といえるでしょう。

なお、糖尿病の治療中には、さまざまな要因から低血糖に陥りやすいです。

低血糖に陥る主な原因や低血糖を防ぐためのポイントについては、以下の記事で詳しく解説しています。

3.糖尿病の予防や治療に効果的な糖質制限のポイント

糖尿病の予防や治療に糖質制限が効果的な理由には、短期的なものと長期的なものがあります。

短期的な効果としては、以下のようなものが挙げられます。

糖質制限による短期的な効果

  • 食後血糖値の低下
  • 体脂肪の減少
  • インスリンのはたらきの改善 など

また、長期的な効果としては、以下のようなものがあります。

糖質制限による長期的な効果

  • HbA1cの改善
  • 薬やインスリン注射量の減少
  • 合併症の発症リスクの低減 など

これらの効果を適切に引き出すためには、糖質制限を実践する上でのポイントを押さえることが必要不可欠です。

具体的には、以下のポイントを押さえておきましょう。

糖尿病の予防や治療に効果的な糖質制限のポイント

  1. 適切な糖質制限の方法を実践する
  2. GI値に注意しながら糖質の摂取量を抑える
  3. 食物繊維やタンパク質を意識的にとる
  4. 食べる順番に注意する
  5. 適度な運動習慣と組み合わせる
  6. ストレスに適切に対処する

順にご説明します。

(1)適切な糖質制限の方法を実践する

糖質制限を実践し、糖尿病の予防や治療の効果を高めるためには、適切な方法を選ぶことが大切です。

上記のように、糖質制限といっても、緩やかなものから厳格なものまでがあります。

どの方法によって糖質制限を進めるかは、生活習慣や目標によっても異なります。

例えば、炭水化物などの糖質に偏った食習慣を長い間続けていた場合には、急激な糖質制限を行うことによって、体調不良やストレスの増大などのリスクがあります。

そのため、今までの生活習慣と照らし合わせて、無理のない範囲で糖質制限を行うことから始めましょう。

また、目標を適切に設定することも大切です。

糖質の摂取量を制限し、血糖値を安定させることは、健康的な生活習慣を維持することが目的となるほか、糖尿病の治療中では合併症の予防が目的となることもあります。

具体的な目標を設定することで、糖尿病の予防や治療へ向けて、モチベーションを維持しながら取り組むことが可能です。

なお、糖質制限によって糖尿病の予防や治療の効果を高めるためには、専門的な知識が欠かせません。

自己判断で糖質制限に取り組んだとしても、医学的に効果を期待することができず、却って糖尿病の発症リスクが高まったり糖尿病が悪化したりする可能性があります。

そのため、糖質制限の目的や方法などについても、まずは医師をはじめとする専門家に相談することが重要といえます。

特に健康診断などで血糖値が高いことを指摘された場合や肥満が気になる場合には、内分泌科や糖尿病専門クリニックなどを受診して生活改善に関するアドバイスを受けましょう。

(2)GI値に注意しながら糖質の摂取量を抑える

糖質を制限する場合には、GI値と呼ばれる指標に注意しながら取り組むことを意識しましょう。

GI値とは、食後血糖値の上昇スピードを示した指標です。

一般的に白米やパン、うどんなどはGI値が高く、過剰に摂取することで食後血糖値が急激に上昇してしまいます。

糖質制限を適切に行うためには、GI値の高い食品や食材は控えた方がよいといえます。

もっとも、炭水化物の中には、糖質のほかにも食物繊維がわずかに含まれています。

そのため、炭水化物であるという理由で一律に摂取を控えてしまうと、食物繊維の摂取量も抑えられてしまい、却って栄養バランスが損なわれる可能性があることに注意が必要です。

これに対して、玄米や全粒粉パンなどは食物繊維を多く含み、GI値も低いことが知られています。

また、大豆などの豆類にも糖質が含まれているものの、食物繊維やタンパク質も含むため、食後血糖値の上昇は緩やかです。

このように、糖質を含むものを一律に制限するのではなく、全体的な栄養バランスにも気を配りながら進めることが大切です。

なお、砂糖で味付けされた菓子類やジュースは、穀物や豆類、果物と比較しても血糖値を急激に上昇させやすいことが知られています。

そのため、糖質制限を行う場合には、菓子類やジュースは控えることが望ましいでしょう。

(3)食物繊維やタンパク質を意識的にとる

糖質制限は、単に糖質の摂取量を控えることを意味するわけではありません。

糖質を控えた分、タンパク質や食物繊維などの栄養素を意識的にとるようにしましょう。

特にタンパク質は筋肉を作る際の材料となる栄養素であり、適切な量を摂取することで筋肉量を増やし、余分なブドウ糖が蓄えられて血糖値を下げる効果が期待できます。

また、食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑える効果があり、これらの栄養素を多くとることで、血糖値を安定させることにもつながります。

このほか、ビタミンやミネラルなどの栄養素も補い、栄養バランスを全体的に整えるようにしましょう。

特に糖質以外の栄養素のバランスが崩れたり不足したりすると、筋肉量の低下や体調不良の原因にもなります。

そうすると、糖尿病の予防や治療の効果も損なわれてしまうため、注意が必要です。

なお、栄養素のバランスは1食ごとに整える必要性は必ずしもありません。

1日のうち3食トータルで栄養素のバランスを考えればよいため、まんべんなく摂取するようにしましょう。

(4)食べる順番に注意する

糖質制限を行っている場合でも、食べ方によっては血糖値の上昇を招く可能性があります。

例えば、糖質を一番最初に食べてしまうと、食後血糖値が急激に上昇しやすくなります。

そのため、食べる順番を意識することが重要です。

具体的には、食物繊維をとった後にタンパク質や脂質をとり、最後に糖質をとるようにしましょう。

この順番を意識することで、食後血糖値が急激に上昇することを防ぐ効果が期待できます。

(5)適度な運動習慣と組み合わせる

食事の栄養素のバランスを意識するほか、適度な運動と組み合わせながら実践することで、血糖値を安定させることにもつながります。

体の中に取り込まれる糖質(ブドウ糖)の量を制限したとしても、運動不足の状態のままであれば、ブドウ糖が消費されずに血糖値のコントロールが悪くなってしまいます。

そのため、食事だけでなく、運動に関する習慣も見直し、生活習慣全体を改善させることを意識しましょう。

適度な運動習慣は、体脂肪を減少させて肥満を改善する効果が期待できます。

また、筋肉が収縮するときのエネルギーとしてブドウ糖が消費され、このことが血糖値の安定にもつながるのです。

さらに、運動によって筋肉量を増やすことで、余分なブドウ糖が筋肉に蓄えられ、血糖値を下げる効果が期待できます。

糖尿病の予防や治療における運動の効果や取り組む際の注意点などについては、以下の記事も合わせてご覧ください。

(6)ストレスに適切に対処する

糖質制限を行っている間は、体調不良や低血糖のリスクによって、ストレスが加わることがあります。

これによって、過食などを行ってしまうと、糖質制限が途中で失敗するだけでなく、体重の増加や血糖値の上昇を引き起こす可能性が高いです。

また、ストレスを感じると、体の中ではストレスホルモンと呼ばれる物質がはたらき、インスリンのはたらきを妨げることで血糖値が上昇しやすくなります。

そうすると、却って血糖値に悪影響を与え、糖尿病の予防や治療の効果が失われてしまうことに注意が必要です。

そのため、軽い散歩や趣味の時間を作るなど、ストレスを感じたときには気分転換することを意識しましょう。

4.糖質制限以外に糖尿病の予防や治療に効果的な食事

糖質制限による食事で糖尿病の予防や治療を行う場合には、上記のようなポイントを意識することで、効果を高めることができます。

もっとも、糖尿病の予防や治療のために効果的な食事の方法は糖質制限によるもの以外にもあります。

例えば、以下のような食事でも、血糖値を安定させる効果が期待できるのです。

糖質制限以外に糖尿病の予防や治療に効果的な食事

  1. 地中海食
  2. プラントベース食
  3. DASH食

なお、日本糖尿病学会がまとめている「糖尿病診療ガイドライン2024」でも、食事療法としてこれらの食事が挙げられており、血糖値(HbA1c)の低下が認められたことが言及されています。

もっとも、すでに糖尿病の治療を行っている場合には、症状や合併症の進行度合いによっても食事などで留意すべきポイントが異なります。

そのため、まずは主治医に相談してから実践することが重要です。

(1)地中海食

地中海食とは、ギリシアやイタリアなどの地中海沿岸の国々で食されてきた伝統的な食事様式です。

具体的には、以下のような特徴があります。

地中海食の主な特徴

  • 食物繊維を含む全粒穀物(大麦、オーツ麦など)を主食とする
  • 野菜や果物、ナッツ類などの植物性の食材を豊富に含む
  • 魚介類を中心とし赤身の肉類が少ない
  • ハーブやスパイス、オリーブオイルなどの香料を使う

地中海食は、炭水化物や脂質などの摂取量が多くなる傾向があり、摂取カロリーも高い傾向にあります。

しかし、これまでの研究では、地中海食には動脈硬化や心筋梗塞の発症を予防する効果があることが明らかとなっているのです。

また、肥満や糖尿病、高血圧などの予防・改善効果も報告されています。

これは、主食である全粒穀物が低GI値食材であり、食後血糖値が急激に上昇するのを防ぐ効果があることが関わっているともいわれています。

また、魚介類やオリーブオイルに含まれる不飽和脂肪酸には悪玉(LDL)コレステロールを下げるはたらきがあり、このことが動脈硬化を抑える可能性があると指摘されています。

(2)プラントベース食

プラントベース食は、植物性の食材を中心とし、動物性の食品や食材を控える食事のことです。

具体的には、野菜や大豆、穀物類、果物などを可能な限り加工せずにそのまま食べることを基本としています。

その意味では、地中海食から動物性の食品や食材を除いた食習慣ととらえることも可能です。

もっとも、厳格に動物性の食品や食材を避けるわけではなく、必要な栄養素が不足する場合には、卵や乳製品なども少量であれば摂取することができるともされています。

植物性の食材を中心に摂取することから、食物繊維やミネラルを豊富にとることができ、摂取カロリーも低く抑えることができるため、体脂肪を減少させる効果が期待できます。

また、野菜などに含まれるミネラルの中でもカリウムは余分な塩分を体の外に排出するはたらきがあります。

これによって、高血圧を改善することにもつながるのです。

なお、オーストリアの研究では、プラントベース食によって、2型糖尿病の発症リスクが24%軽減されたことも報告されています。

この研究では、プラントベース食を中心としながらも、動物性の食材や食品も必要に応じてとることが健康的な生活を送ることにつながるという提言も行っています。

(3)DASH食

DASH食とは、「Dietary Approaches to Stop Hypertension」食のことで、高血圧を改善するためにアメリカで調査・研究された食事です。

具体的には、以下のような特徴が挙げられます。

DASH食の主な特徴

  • 全粒穀物(大麦や玄米など)を主食とする
  • ミネラル(特にカリウム)を多く含む野菜や果物などを積極的にとる
  • 鶏肉や魚介類、豆類などの低脂肪・高タンパクな食材をとる

高血圧を引き起こす原因にはさまざまなものがありますが、塩分のとりすぎが高血圧を引き起こすことがあります。

DASH食で摂取することが推奨されているカリウムは、体の中の余分な塩分(ナトリウム)の排出を促すはたらきがあり、高血圧を改善させる効果が期待できます。

また、高血圧の状態が続くことで、血管が次第に傷つき、動脈硬化や心筋梗塞を引き起こすリスクが高まってしまいます。

しかし、タンパク質を多く含む食材や食品をとることで、血管の修復を促し、動脈硬化などを防ぐことにもつながるのです。

なお、糖尿病と高血圧はお互いに影響を及ぼし合い、糖尿病に高血圧が合併することがあれば、高血圧によって糖尿病が引き起こされることもあります。

そのため、DASH食は高血圧を予防するとともに、糖尿病の予防にも効果的といえるでしょう。

また、糖尿病を発症した場合にも、DASH食を実践することで、高血圧を予防することにもつながります。

もっとも、糖尿病にはさまざまな合併症が生じやすく、その中でも腎機能が低下する糖尿病性腎症を発症している場合には、注意が必要です。

これは、腎臓のはたらきが低下することで、カリウムの排出がうまくできなくなってしまうことに理由があります。

カリウムが排出されずに体の中に溜まってしまうと、「高カリウム血症」に陥り、動悸や倦怠感などを引き起こし、重篤な場合には不整脈によって生命に関わるリスクもあるのです。

そのため、糖尿病性腎症を発症している場合や腎機能が低下している状態では、DASH食を実践することは避けた方がよいでしょう。

5.糖質制限を行う前に必ず主治医に相談したいケース

糖質制限を実施する場合には、さまざまな注意点やポイントがあります。

それらをしっかりと押さえた上で取り組むと、糖尿病の予防や治療の効果を高めることにもつながるでしょう。

もっとも、糖尿病の治療中の場合には、糖質制限に取り組む前に主治医に必ず相談すべきケースがあります。

具体的には、以下のようなケースです。

糖質制限を行う前に必ず主治医に相談したいケース

  1. 経口血糖降下薬やインスリン注射による治療を行っている
  2. 肝機能が低下している
  3. 腎機能が低下している
  4. 心血管系の病気を合併している

それぞれについて見ていきましょう。

(1)経口血糖降下薬やインスリン注射による治療を行っている

血糖値を下げる薬(経口血糖降下薬)やインスリン注射による治療を行っている場合には、糖質制限を行うことで、低血糖を引き起こすリスクが高まります。

特に1型糖尿病の場合には、インスリンを体の中で作り出すことができないため、不足しているインスリンを注射によって補うことがほぼ唯一の治療法となります。

このような状態で糖質を制限してしまうと、体の中に取り込まれた糖質(ブドウ糖)がインスリン注射のはたらきで過剰に消費されてしまい、低血糖に陥るリスクがあるのです。

また、2型糖尿病の場合でも、経口血糖降下薬やインスリン注射による治療が行われることがあります。

そのような場合に糖質制限を行うと、同様の理由によって低血糖を引き起こす可能性が高いです。

なお、1型糖尿病の場合には、糖質制限を実施することによって、糖尿病性ケトアシドーシスという急性合併症を引き起こしやすくなります。

これは、ブドウ糖をエネルギー源として消費できなくなることによって、筋肉や脂肪がエネルギー源として分解されることで生じます。

そうすると、筋肉などが分解される過程でケトン体という物質が過剰に作られ、これが蓄積することで血液が酸性に傾きます。

これによって強い脱水症状や吐き気などを引き起こし、重篤な場合には生命にも関わるため、注意が必要です。

このように、1型糖尿病やSGLT2阻害薬などの薬剤を使用している2型糖尿病の人は、極端な糖質制限や絶食によってケトン体が増えやすくなるため、必ず主治医の管理のもとで糖質制限を行うことが重要です。

また、体調不良の際の対応(シックデイルール)も含めて確認するようにしましょう。

(2)肝機能が低下している

肝機能が低下している場合には、糖質制限を行うことを控えるようにしましょう。

糖質(ブドウ糖)が体の中に不足している場合には、肝臓で「糖新生」と呼ばれる現象が起こります。

糖新生とは、ほかの物質をブドウ糖に作り変えて放出する現象であり、空腹時や就寝時などに生じることが一般的です。

これによって、食事をしていないときでも血糖値が下がりすぎることはありません。

しかし、肝機能が低下している場合には、糖新生のはたらきも抑えられてしまいます。

そのため、肝機能が低下している状態で糖質制限を実施してしまうと、糖新生によるブドウ糖の供給が抑えられてしまい、低血糖に陥るリスクが高まってしまうのです。

特に糖尿病を発症すると、インスリンのバランスが崩れることによって、脂質などの栄養素の分解・吸収も乱れることがあります。

これによって、余分な脂肪が肝臓に蓄積される脂肪肝が引き起こされることもあり、糖尿病では肝機能が低下してしまうケースがあるのです。

そのため、肝機能を適切に把握することが重要といえるでしょう。

(3)腎機能が低下している

腎機能が低下している場合にも、糖質制限の食事をとることは避けなければなりません。

これは、糖質の制限によって、タンパク質の摂取量が増えていることに理由があります。

腎機能が低下すると、体の中の不要なもの(老廃物)をうまく排出することができなくなってしまいます。

特にタンパク質は筋肉などを作るために必要な栄養素ですが、体の中で利用された後には老廃物となります。

しかし、腎機能が低下することで、老廃物がうまく体の外に排出されずに体の中に溜まり、腎臓などに負担をかけてしまうことがあるのです。

そして、糖質制限では、タンパク質の摂取量には制限がないことから、過剰に摂取することで、タンパク質が利用された後に老廃物が大量にできることになります。

これによって、さらに腎臓に負担をかけ、腎機能をさらに低下させてしまうリスクがあることに注意しましょう。

特に糖尿病による高血糖の状態が続くことで、血管が傷ついてしまい、腎臓を通る細い血管が詰まりやすくなります。

これによって腎機能が低下していくことがあることにも留意しましょう。

なお、糖尿病によって腎機能が低下した場合に見られる症状については、以下の記事も参考になります。

(4)心血管系の病気を合併している

心疾患などの合併症を発症している場合にも、糖質制限を行うことは注意が必要といえます。

具体的には、狭心症や心筋梗塞、不整脈などの治療を行っている場合です。

これらの病気は、太い血管(動脈)がしなやかさを失ってしまう動脈硬化が進行することで発症するリスクが高まります。

心血管系の病気がある場合には、糖質を減らす代わりに脂質を増やす際、飽和脂肪酸(脂身や加工肉、バターなど)が増えすぎないように注意が必要です。

また、魚やオリーブオイル、ナッツなどの不飽和脂肪酸を中心とするメニューの設計を行い、血中脂質(LDLなど)も定期的に確認しましょう。

まとめ

本記事では、糖質制限が糖尿病の予防や治療に効果的な理由や予防効果を高めるためのポイントなどについて解説しました。

糖質の摂取量を制限することで血糖値の急激な上昇を抑えることができますが、糖質(ブドウ糖)は体に必要な栄養素でもあるため、ほかの栄養素との摂取バランスが重要です。

なお、糖質の制限方法にも種類があり、糖尿病の予防や治療などの目的に応じて適切な方法を選択するようにしましょう。

もっとも、糖尿病の予防や治療にあたって糖質制限を実施する際には、さまざまな注意点もあります。

そのため、ポイントを押さえた糖質制限を行わなければ、却って健康を損なうことに注意が必要です。

糖尿病の予防や治療のために糖質の摂取量を制限する場合には、まずは内分泌科などの専門の医療機関を受診するようにしましょう。