甲状腺の病気になるとどのくらい疲れやすい?疲れやすさの原因や甲状腺の病気について解説
「甲状腺の病気になるとどの程度疲れやすくなるの?」
「疲れやすくなる原因と疲れやすさが出る甲状腺の病気にはどんなものがある?」
「甲状腺の病気が疑われる場合にはどんな医療機関を受診すればいいのか知りたい」
体の疲れやすさなどの心身の不調に悩まされている方の中には、甲状腺の病気である可能性を疑っている方もいるかと思います。
甲状腺で作られる甲状腺ホルモンという物質は、私たちの体の中のさまざまな組織や器官のはたらきを助け、私たちが健康的に日常を送るためには必要不可欠なものです。
そのはたらきはエネルギーの消費や細胞の活性化だけでなく、自律神経系のはたらきの維持・調整にも関与しています。
そのため、甲状腺の機能に何らかの異常が生じた場合には、甲状腺ホルモンのバランスが崩れてしまいます。
これによって自律神経系のはたらきに不調をきたし、疲れやすさや抑うつ状態といった精神状態への影響が現れることがあるのです。
本記事では、甲状腺のはたらきと疲れやすさの関係などについて解説します。
また、甲状腺の病気の中でも疲れやすさが症状として現れるものや受診すべき医療機関についても合わせて解説します。
甲状腺はさまざまな組織や器官のはたらきに関わるため、甲状腺に異常が生じると、疲れやすさのほかにもさまざまな症状が現れることが多いです。
原因が特定できない心身の不調は、甲状腺機能の異常によって引き起こされていることもあるため、ご自身の体調を見直すきっかけとなれば幸いです。
1.甲状腺と疲れやすさの関係
甲状腺の病気になると、疲れやすくなることがあります。
疲れやすさの程度は人によって異なるものの、昼間に眠気やだるさが現れたり、睡眠を十分にとっても疲労感がとれないなどの症状が現れることが多いです。
これは、甲状腺の機能に異常が生じることによって、甲状腺ホルモンの量に変化が出ることに原因があることが考えられます。
私たちの体のはたらきは、体の中で作られるホルモンという物質によって維持・調整が図られており、甲状腺ホルモンもそのような役割を持つ物質の1つです。
例えば、甲状腺ホルモンは肝臓のはたらきを助けてタンパク質や脂質の分解・吸収を促進したり、腸で糖質(炭水化物)が吸収されるのを助けたり、様々な役割を担っています。
また、自律神経系のはたらきを維持・調整して酸素の消費や心拍数の維持などにも関わり、基礎代謝を高める役割も持っています。
これらの活動が正常に行われるためには、甲状腺ホルモンの量のバランスが重要です。
つまり、甲状腺ホルモンの量が多すぎても少なすぎてもいけないのです。
通常、甲状腺ホルモンの量は適正な水準を維持するように調整が図られています。
これは、脳にある下垂体前葉という器官が放出する甲状腺刺激ホルモン(TSH)という物質によって担われています。
具体的には、脳にある視床下部という器官が甲状腺ホルモンの量が通常の水準よりも少ないと検知した場合、下垂体前葉に対して甲状腺刺激ホルモン(TSH)の放出を促す指令を出します。
これによって甲状腺刺激ホルモン(TSH)が放出されると、甲状腺の中の受容体という器官がこれを受け取り、甲状腺ホルモンを作り出して血液中に放出し、適正水準になります。
一方、甲状腺ホルモンの量が多い場合には、視床下部が甲状腺刺激ホルモン(TSH)を抑制するように指令を出し、これによって作り出される甲状腺ホルモン量が抑制されます。
このように、甲状腺ホルモンの量は体の中で一定の水準を保つように自律的にコントロールされているのです。
しかし、甲状腺の機能に異常が生じると、上記のようなコントロールが効かなくなり、甲状腺ホルモン量のバランスが崩れ、体のさまざまな器官で不調を来してしまいます。
これによって、自律神経系のはたらきが停滞したり、心拍数が変動したりすることで、動悸や息切れなどの症状が現れ、これによって疲労感が生じることがあります。
そのため、甲状腺ホルモンのはたらきが過剰になっても低下しても、疲れやすさなどの不調を来すことになることを押さえておきましょう。
2.疲れやすさの症状が現れる主な甲状腺の病気
体の疲れやすさは、甲状腺ホルモンのバランスが崩れることによって現れることがあります。
甲状腺ホルモンの量に変化を来してしまうのは、甲状腺機能に異常が生じていることに原因があるケースも見られます。
もっとも、甲状腺機能に異常が生じる病気の中でも、良性腫瘍や甲状腺がんの場合には甲状腺ホルモン量の変化を伴わないことが多いです。
そのため、甲状腺の病気の中でも、甲状腺ホルモンのバランスが崩れることによって疲れやすさなどの症状が現れるものは、主に以下のものがあります。
- 亜急性甲状腺炎
- 無痛性甲状腺炎
- バセドウ病
- 橋本病
これらの病気では、疲れやすさのほかにもさまざまな症状を伴うことが多いです。
それぞれの発症メカニズムや主な症状についても、合わせてご説明します。
(1)亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、炎症反応を伴う甲状腺の病気です。
炎症反応とは生体の防御反応の1つで、細胞や組織が何らかの原因によって傷つけられた際に生じます。
甲状腺は、濾胞と呼ばれる小さな袋状の組織が集まってできており、この濾胞の中に甲状腺ホルモンが蓄えられています。
亜急性甲状腺炎では、この濾胞が傷つけられることによって炎症反応が生じ、蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に大量に放出されてしまいます。
濾胞が傷ついてしまう原因についてははっきりしたことは特定されていませんが、ウイルスなどの感染によって引き起こされるという可能性も指摘されています。
これによって、一時的に甲状腺ホルモンが過剰な状態となり、体の組織や器官のはたらきが通常よりも高められた状態となってしまうのです。
具体的には、心臓や血管の収縮力が高められて心拍数が増加し、基礎代謝が活発化することで、動悸や息切れ、疲労感などの症状が現れます。
また、炎症反応を原因とする甲状腺の痛みや腫れ、発熱などの症状が見られることも特徴です。
これらの症状は一般的には軽度である場合が多く、風邪の症状とも似ていることから、甲状腺の病気であることが見逃されてしまうケースが多く見られます。
なお、傷ついた濾胞は次第に修復され、甲状腺ホルモン量も適正水準に自然と戻るため、2~4か月程度で自然と症状が軽快する場合がほとんどです。
もっとも、炎症反応が強く出ている場合には痛みや甲状腺の腫れの程度も大きくなるため、ステロイド薬や非ステロイド抗炎症薬などを用いた薬物療法がとられることもあります。
なお、亜急性甲状腺炎は通常であれば自然治癒することが多いですが、ごく稀に症状を繰り返す場合や甲状腺機能が低下したままになる場合があります。
亜急性甲状腺炎は春先や秋など、特定のウイルス感染症が流行する時期に発生しやすいという特徴もあります。
そのため、そのような時期に喉仏の下あたりに痛みを感じたり、倦怠感が現れた場合には、甲状腺の病気である可能性も視野に入れ、耳鼻咽喉科や内分泌科を受診することがおすすめです。
(2)無痛性甲状腺炎
無痛性甲状腺炎は、亜急性甲状腺炎と同じく炎症反応を伴う甲状腺の病気です。
亜急性甲状腺炎との違いは、名前にもあるように、甲状腺の痛みを伴わない点にあります。
また、発症の原因についても不明な場合が多く、自己免疫機能が関わっている可能性が指摘されているほか、後述するバセドウ病などを基礎疾患として有する場合に発症するケースもあります。
なお、自己免疫が関わる橋本病を潜在的に基礎疾患として有する女性が、出産後に無痛性甲状腺炎を発症するケースもあるため、注意が必要です。
妊娠中は免疫機能が抑制されるため、炎症反応が生じにくい状態となっていますが、出産を経ると免疫抑制が取り除かれ、免疫機能が過剰に反応することで発症します。
症状が現れるメカニズムは亜急性甲状腺炎とほぼ同様であり、甲状腺の濾胞が破壊されることによって甲状腺ホルモンが血液中に過剰に放出され、一時的に甲状腺ホルモン量が増加します。
これによって心臓や血管、自律神経系のはたらきが活発になり、疲労感や息切れ、手指の震えなどの症状が見られることが特徴です。
出産後の無痛性甲状腺炎については、頻脈(脈が早い状態)や体重の減少、無気力さなどの症状が現れることがあります。
もっとも、濾胞が修復されるのに伴って、これらの症状は3か月以内で軽快することがほとんどです。
濾胞が修復された後には甲状腺ホルモンがうまく作り出されないことによって、一時的に甲状腺ホルモン量が低下することがありますが、無症状のケースが多く見られます。
中には疲れやすさの症状が継続したり、甲状腺にしこりが現れたりすることがありますが、患部を手で押さえても痛みは見られません。
甲状腺ホルモンのバランスが崩れることによる不調は一過性のものであり、破壊された濾胞の修復に伴って自然と治癒するため、通常は治療をせずに経過観察にとどまります。
また、無痛性甲状腺炎は予後がよく、3~6か月程度で完治することがほとんどです。
もっとも、甲状腺機能が低下したままの状態になる症例が亜急性甲状腺炎と比較すると多く、およそ10~20%ほどの症例で見られるとの報告もあります。
なお、出産後の甲状腺機能異常については、産後の肥立ちの悪さや出産・育児ノイローゼと混同されて甲状腺の病気であることが見逃されてしまうケースが多いです。
出産後に体重の減少や疲れやすさなどの症状が現れた場合には、甲状腺の病気である可能性もあるため、専門の医療機関で甲状腺機能の検査を受けることも検討しましょう。
(3)バセドウ病
バセドウ病は、自己免疫のはたらきが関わる病気です。
免疫機能とは、体の中にウイルスや細菌などの異物が侵入した際にこれを攻撃し、排除する生体の防御反応のことをいいます。
そのため、通常であれば体の外から侵入してきたものに対してのみ免疫機能ははたらくのです。
これに対して、自己免疫は自分の体の中の細胞や組織を異物と判断してしまい、これを攻撃してしまうことを指します。
バセドウ病では、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を受け取る受容体を異物と判断してしまい、これに対する自己抗体が作り出され、受容体を絶えず刺激し続けることによって生じます。
これによって甲状腺は甲状腺ホルモンを作り続けてしまい、それが大量に血液中に放出されることによって、体の組織の機能が過剰に高められ、以下のような症状が現れます。
なお、甲状腺ホルモン量が増加する点では亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎とも共通していますが、これらが概ね3か月程度で軽快するのに対して、バセドウ病では3か月以上にわたって症状が現れる点が特徴です。
そのため、疲れやすさや倦怠感といった症状が特に理由もなく3か月以上も継続している場合には、甲状腺機能に異常が見られる可能性があります。
また、バセドウ病では甲状腺ホルモンが過剰に作り出されて血液中に放出されるため、細胞や組織のはたらきが高められることで、甲状腺全体が腫れたり眼球が突出したりするなど、特有の症状が見られることも大きな特徴です。
もっとも、高齢者には眼球の突出が見られない場合もあり、甲状腺の腫れもそれほど目立たないことも多いです。
そのため、体重の減少や食欲不振などからほかの部位の癌であると間違われることもあります。
ほかにも、血圧の上昇や頻脈などによって、心房細動や心不全といった合併症を発症する場合もあり、逆にこれらの病気の精密検査を行う中でバセドウ病であることが判明するケースもあります。
このように、バセドウ病では疲れやすさのほかにもさまざまな症状が現れ、合併症を引き起こす場合もあるため注意が必要です。
バセドウ病は、体の中での甲状腺ホルモンのはたらきが通常よりも高められた状態になっているため、抗甲状腺薬による薬物療法がとられることが一般的です。
これは甲状腺の中で甲状腺ホルモンが作り出されるはたらきを抑制することで、血液中の甲状腺ホルモン量を適正な水準に戻すことを目的としています。
もっとも、抗甲状腺薬は副作用が出やすく、特に妊娠中の女性が服用すると胎盤を通じて胎児に影響を及ぼすことが指摘されているため、薬の選択や投与量の調整が必要となります。
副作用が強く出る場合や甲状腺の腫れが大きい場合には、甲状腺の一部または全部を摘出する外科的措置がとられるケースもあります。
(4)橋本病
橋本病は甲状腺に慢性的な炎症反応を伴う病気であるため、慢性甲状腺炎とも呼ばれています。
バセドウ病と同じく自己免疫のはたらきによって生じますが、橋本病では甲状腺を異物と判断することで自己抗体が作り出され、これが甲状腺の組織を攻撃してしまいます。
甲状腺ホルモンの合成には、濾胞の中に存在するサイログロブリン(Tg)という物質が関わっています。
橋本病ではこのサイログロブリン(Tg)に対する自己抗体が作られてしまい、甲状腺ホルモンが作り出されるのが妨げられてしまうのです。
これによって、甲状腺ホルモンの量が徐々に低下していき、体の細胞や組織のはたらきも停滞することで、以下のような症状が現れます。
特に十分な睡眠をとっていても、倦怠感や疲れやすさのような症状がある場合には、橋本病の可能性もあります。
また、自律神経系へのはたらきが低下することによって体温調整ができなくなることで寒さに敏感になったり、抑うつ状態になったりするなど、さまざまな症状が現れることに注意が必要です。
橋本病は特に30~40代の女性に多く見られ、抑うつ状態などの精神活動の停滞から更年期障害やうつ病と間違われるケースも見られます。
なお、高齢者では記憶力の低下などから認知症が疑われたり、また認知症の症状を悪化させる可能性もあるため、注意が必要です。
もっとも、甲状腺に対する自己抗体が存在しても、甲状腺機能の低下が生じないケースもあり、そのような場合には治療の必要性がないことがほとんどです。
上記のような自覚症状が現れている場合には、不足している甲状腺ホルモンを薬によって補う薬物療法がとられます。
これによって、血液中の甲状腺ホルモン量を適正水準にまで高めることが期待できます。
なお、甲状腺ホルモン薬には、吸収を妨げてしまう物質などがあるため、十分な治療効果を得るためには、服用の際に飲み合わせなどに注意する必要があります。
例えば、胃薬や制酸薬などに含まれる亜鉛は甲状腺ホルモンの吸収を抑制してしまうため、これらの薬を服用している際にはあらかじめ医師に伝えることが大切です。
3.甲状腺の病気が疑われる場合の主な検査方法
上記のように、甲状腺の機能に異常が生じることで、疲れやすさのほかにも体重の増減や精神活動など、さまざまな影響が現れます。
これらの症状について思い当たる理由がなく、3か月以上にわたって継続している場合には、甲状腺の病気の可能性があります。
そのため、少しでも体調に異変を感じた場合には、専門の医療機関を受診し、甲状腺機能の検査を受けることが重要です。
甲状腺機能が正常であるか否かは、主に以下のような検査によって判断されます。
- 血液検査
- 超音波検査
- アイソトープ検査(甲状腺シンチグラフィ)
- 穿刺吸引細胞診
それぞれの特徴についてご説明します。
(1)血液検査
血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度と甲状腺ホルモン濃度を測定することによって検査を行います。
血液中の甲状腺ホルモン濃度の維持・調整には、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が関わるため、これらをセットで測定することで甲状腺機能が正常であるか否かを判断することが可能です。
例えば、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の濃度が高いにも関わらず、甲状腺ホルモン濃度が低い場合には、甲状腺の組織に何らかの異常があり、甲状腺ホルモンが作り出されていない可能性があります。
また、甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度が低い一方で、甲状腺ホルモン濃度が高い場合には、甲状腺ホルモンが過剰に作り出されている可能性があるのです。
このように、血液検査では甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度と甲状腺ホルモン濃度の関係性から甲状腺機能を判定することが一般的です。
なお、甲状腺の病気の中でも、バセドウ病と橋本病は自己抗体が原因となって引き起こされる病気であるため、これらの数値と合わせて甲状腺自己抗体の濃度を測定することで、病気の特定に至ることがあります。
例えば、抗サイログロブリン抗体(TgAb)の検査結果が陽性である場合には、橋本病であることが疑われます。
もっとも、年齢や生活習慣によって数値には変動が生じるため、血液検査のみでは原因を特定できない場合もあります。
そのような場合には、血液検査に加えて、超音波検査などが補充的に実施されるケースもあります。
(2)超音波検査
超音波検査は、甲状腺に超音波をあてて腫れやしこりの大きさや様子を検査する方法です。
体の中での超音波の反射を受け取り、それを画像として把握することができるため、腫れやしこりが目立たないケースであっても患部の様子を正確に調べることができます。
特に甲状腺の腫れやしこりが炎症反応によるものか否かを判断する際に参考となります。
正常な甲状腺であれば、超音波検査を実施すると、周りの組織と比較して甲状腺の部分が白く映ります。
しかし、炎症反応が生じている場合には、エコーレベルが低下し、その部分が黒く映ってしまうのです。
例えば、橋本病では自己抗体のはたらきによって甲状腺に慢性的な炎症反応が生じます。
そのため、甲状腺全体のエコーレベルが低下し、黒く映ってしまう場合には橋本病の可能性があります。
また、甲状腺のエコーレベルが低下している箇所と痛みを訴える箇所が一致している場合には、亜急性甲状腺炎の可能性が高いです。
このように、超音波検査を実施することで、甲状腺の腫れやしこりが炎症反応によるものか否かを判断できるだけでなく、炎症反応を伴う病気の中でも具体的な原因を特定する際に参考となることがあります。
なお、甲状腺に腫れやしこりが見られる場合には、甲状腺の腫瘍である可能性もあります。
腫瘍には良性と悪性のものがあり、特に悪性腫瘍は甲状腺がんとも呼ばれています。
甲状腺がんはほかのがんと比較すると進行が緩やかですが、がん細胞の成長に伴って肝臓や肺などに転移する可能性もあります。
超音波検査は、腫れやしこりが腫瘍によるものであるかどうかを見分ける際にも有効であり、甲状腺がんの早期発見と適切な治療を行う上でも重要です。
(3)アイソトープ検査(甲状腺シンチグラフィ)
アイソトープ検査は、放射性ヨウ素を用いて甲状腺機能を測定する検査方法です。
甲状腺ホルモンは、ヨウ素(ヨード)を材料として作られ、体の外から取り入れられたヨウ素は甲状腺の濾胞の中に蓄えられています。
甲状腺は放射性ヨウ素も通常のヨウ素と同じように濾胞の中に取り込む性質があり、これを利用して行われるのがアイソトープ検査です。
具体的には、放射性ヨウ素を含むカプセルを服用し、一定時間が経過した後に甲状腺へ取り込まれた放射性ヨウ素の量を測定することで、甲状腺機能を把握することができます。
例えば、甲状腺の組織が破壊されている亜急性甲状腺炎では、ヨウ素の取り込みがうまく行われず、その量が極端に少ないのが特徴です。
これに対して、バセドウ病の場合には作り出される甲状腺ホルモンの量が過剰となるため、より多くのヨウ素が必要となり、取り込まれる放射性ヨウ素の量が多くなります。
このように、甲状腺の病気の原因によって、放射性ヨウ素の取り込まれる量に違いが見られるのが特徴です。
また、検査結果は画像として処理されるため、放射性ヨウ素の取り込みがなされているか否かを視覚的に把握することができ、異常をすぐに検知することができます。
もっとも、アイソトープ検査では放射性物質を使用するため、安全性の観点から以下の人は受けることができないことがあります。
- 妊婦または妊娠している可能性がある
- 授乳中である
- 1か月以内にアイソトープ検査や治療を受けた
- 1年以内に子宮卵管造影検査を受けた
なお、放射性物質を使用するものの、その量は微量であり、体への影響はほとんどなく、がんなどに影響を及ぼさないことも実証されています。
(4)穿刺吸引細胞診
穿刺吸引細胞診は、甲状腺の細胞の一部を針で直接採取することによって行う検査です。
甲状腺にしこりがある場合に行われることが多く、良性か悪性(甲状腺がん)かを見分けるために行われます。
細胞の様子を直接調べることができるため、良性か悪性かをほぼ正確に見分けることが可能です。
また、甲状腺に腫れがある場合にも超音波検査と合わせて行われることがあります。
特に橋本病では自己免疫のはたらきによって甲状腺に慢性的な炎症反応が生じ、甲状腺を攻撃するために炎症細胞と呼ばれる細胞が集まってきます。
その中でもリンパ球と呼ばれる細胞のはたらきが活発であり、これらが集まる「リンパ球浸潤」と呼ばれる現象が起こることが多いです。
穿刺吸引細胞診を行うことによって、このリンパ球浸潤の有無を調べることができるため、橋本病が疑われる際にも実施されるケースがあります。
なお、穿刺吸引細胞診に使用される針は注射針よりも細く、体への負担も少ない場合がほとんどです。
もっとも、内出血や一時的な血圧の低下などの症状を伴うことがあるため、検査が終了した後は安静にしておくことが大切です。
4.甲状腺の病気が疑われる際に受診すべき医療機関
甲状腺の病気は、早期に発見することができれば、適切な治療を行うことによって完治または症状を大幅に改善することが可能です。
そのため、疲れやすさや体重の変化などの甲状腺の病気が疑われるような症状が現れ、それが一定期間にわたって継続している場合には、早期に医療機関を受診することが大切です。
もっとも、すでに述べてきたように、甲状腺はさまざまな組織や器官にはたらきかけることから、甲状腺機能に異常が生じると複数の箇所に不調を来すことになります。
甲状腺の病気が疑われる場合には、以下のような医療機関を受診することで、必要な検査を受けることができるケースがあります。
- 一般内科
- 内分泌科
- 甲状腺外科
どのような症状が現れた際に受診すべきかも合わせてご説明します。
(1)一般内科
原因が分からない心身の不調が現れた場合には、まずは一般内科を受診することがおすすめです。
動悸や息切れ、疲れやすさ、徐脈(脈が遅い)などの症状がある場合には、一般内科を受診し、精密検査を受ける中で甲状腺の病気の特定につながるケースもあります。
また、体重の急激な変化や顔のむくみなど、代謝異常に原因があるような症状が現れている方の中には、腎臓内科などを受診される方もいます。
内臓の機能を検査する中で、血液などの精密検査を行い、甲状腺に異常が見つかる場合もあるのです。
もっとも、症状が軽度の場合や自覚症状に乏しい場合には、甲状腺の病気であることが見逃されてしまう場合もあります。
そのため、甲状腺を専門としているクリニックのほか、後述する内分泌科を受診することで、原因の特定に至る可能性が高まります。
一般内科を受診し、治療を継続してもなお症状が改善しない場合などには、セカンドオピニオンとして内分泌科などを受診されることを推奨します。
(2)内分泌科
内分泌科は、主にホルモンのバランスに関わる病気や不調の検査・治療を専門とする診療科です。
そのため、甲状腺の病気に関する検査や治療を効果的に行う際には、内分泌科の受診が必要不可欠といえます。
早期に内分泌科を受診することで、甲状腺の病気の早期発見につながり、適切な治療を行うことが可能です。
特に甲状腺ホルモンのバランスが崩れる病気は、投薬によって症状の大幅な改善を図ることができます。
もっとも、甲状腺の病気の中には、甲状腺ホルモン量に異常はないものの、腫瘍が見られるものもあります。
また、腫瘍が原因で甲状腺ホルモン量に異常を来す病気もあるため、注意が必要です。
そのような病気の場合には、腫瘍や甲状腺組織の一部または全部を摘出する手術療法がとられることが一般的であるため、甲状腺の腫れやしこりが気になる方は、次に述べる甲状腺外科を受診されるのが治療には効果的です。
(3)甲状腺外科
甲状腺の腫れやしこりがある場合には、腫瘍が原因である可能性もあるため、甲状腺外科を受診することで専門的な検査を受けることが可能です。
また、検査の結果、しこりの部分や甲状腺組織の切除が必要になった場合には、そのまま外科的措置を受けることも可能であり、早期に治療の効果を期待できます。
まとめ
本記事では、甲状腺の病気と疲れやすさの関係などについて解説しました。
甲状腺ホルモンのバランスが崩れることによって、心臓や血管のはたらきのほか、自律神経系に不調を来すことで、動悸や息切れ、疲労感などの症状が現れてしまいます。
特に日中に眠気やだるさが生じる場合や十分な睡眠をとっても疲れがとれない状態が数か月にわたって続いている場合には、甲状腺の病気の中でも橋本病の可能性が考えられます。
甲状腺の病気は早期に発見することができれば、適切な治療を経て症状が大幅に改善したり完治したりすることも珍しくありません。
本記事の内容を参考にしながら、甲状腺の病気が疑われる場合には適切な医療機関を早めに受診することが大切です。