甲状腺の病気の主な症状は?甲状腺の機能や疾患の分類についても解説
「甲状腺の病気の疑いがある場合にはどのような症状が現れる?」
「甲状腺の場所や機能について詳しく知りたい」
「病気の原因や分類にはどんなものがある?」
甲状腺は、体の中のさまざまな器官や臓器のはたらきを助ける役割を持つため、甲状腺に異常が生じると、さまざまな症状や不調が現れます。
もっとも、甲状腺の病気には原因などによって分類があり、現れる症状も異なることが多いです。
そのため、甲状腺の病気の場合に現れる症状などについて、上記のような疑問をお持ちの方もいるかと思います。
本記事では、甲状腺の機能から甲状腺の病気の原因と具体的な症状までを解説します。
また、甲状腺の病気の主な治療法についても合わせて解説しますので、甲状腺の病気が疑われる方の中で、治療方法や影響について疑問や不安をお持ちの方の参考になれば幸いです。
1.甲状腺の機能と甲状腺ホルモン
甲状腺は、首のところにある喉仏の下のあたりにある器官のことです。
重量は10~15gほどの小さな器官ですが、基礎代謝や生命活動の維持に重要な役割を果たしている器官でもあります。
また、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンが上記のような役割を主に担っています。
しかし、甲状腺の病気は甲状腺の機能に何らかの異常が生じることによって現れるため、まずは甲状腺の機能や甲状腺ホルモンのはたらきについて理解することが重要です。
以下では、甲状腺が体の中で果たす役割や甲状腺ホルモンの種類・機能について解説します。
(1)甲状腺の役割
甲状腺は、喉の下のあたりに位置する器官で、ちょうど蝶が羽を広げたような形をしています。
濾胞という小さな袋状の組織が集まってできていて、その濾胞の中はサイログロブリン(Tg)という液体で満たされています。
このサイログロブリン(Tg)が甲状腺ホルモンを作り出すための原料となっているのです。
甲状腺ホルモンは、血中に放出されて体の中のさまざまな細胞に運ばれ、細胞のはたらきを助けて活発化させることで、基礎代謝の向上や体の生育を促進するはたらきがあります。
もっとも、体の細胞やはたらきが正常に機能するためには、甲状腺ホルモンの量が多すぎても少なすぎてもいけません。
そのためには、体の中で作られる甲状腺ホルモンの量を調整するための機能が必要です。
この甲状腺ホルモンの量を調整するはたらきを持つのが、脳にある下垂体前葉と呼ばれる器官です。
具体的には、下垂体前葉から甲状腺に対して放出される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺ホルモンの調整に重要な役割を果たしています。
血中に放出された甲状腺ホルモンの量は、常に下垂体前葉の上位にある脳の視床下部によって検知されています。
脳の視床下部が体の中の甲状腺ホルモン量を少ないと検知すると、下垂体前葉に対して甲状腺刺激ホルモン(TSH)をさらに放出するように指令を出します。
これによって、甲状腺では甲状腺ホルモンを作り出す動きが促進され、血中にさらに放出されることで、甲状腺ホルモン不足が解消されます。
一方、血中の甲状腺ホルモン量が多いと視床下部が検知すると、下垂体前葉に対して甲状腺刺激ホルモン(TSH)の放出を抑制するように指令を出します。
これにより、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンの量も抑制され、適正な甲状腺ホルモン量が維持されることになるのです。
このように、体の中のホルモン量は常に一定になるように保たれています。
これは体の中の恒常性(ホメオスタシス)を維持するための機能であり、フィードバック性調節と呼ばれています。
その意味で、甲状腺は甲状腺ホルモンのフィードバック性調整を行う1つの器官ということができます。
(2)甲状腺ホルモンの種類
甲状腺の中で作られる甲状腺ホルモンには、サイロキシン(T₄)とトリヨードサイロニン(T₃)の2種類があります。
どちらもヨウ素分子が結合することで形作られますが、サイロキシン(T₄)は4つのヨウ素分子が結合することで作られ、トリヨードサイロニン(T₃)は3つのヨウ素分子が結合しているという違いがあります。
このうち、サイロキシン(T₄)は甲状腺のみで作られますが、トリヨードサイロニン(T₃)は甲状腺で作られるほか、体の中のほかの細胞でもサイロキシン(T₄)を材料として作られます。
そのため、トリヨードサイロニン(T₃)のうちおよそ80%ほどが甲状腺以外でも作られていることになります。
甲状腺で作られた甲状腺ホルモン(T₄とT₃)は甲状腺刺激ホルモン(TSH)のはたらきによって血中に放出されると、そのほとんどが甲状腺ホルモン結合蛋白(TBP)と結合して血中に存在します。
一方、この甲状腺ホルモン結合蛋白(TBP)と結合することなく独立して存在する甲状腺ホルモン(T₄とT₃)もあり、遊離型甲状腺ホルモン(FT₄とFT₃)と呼ばれます。
なお、血中では甲状腺ホルモン結合蛋白(TBP)と結合した結合型の甲状腺ホルモンと遊離型の甲状腺ホルモン(FT₄とFT₃)は互いに一定の濃度を保ちます。
これによって、体の中のホルモンの運搬作用を均一にするはたらきがあるのです。
また、甲状腺ホルモン結合蛋白(TBP)には、以下のような3つの種類があります。
- サイロキシン結合グロブリン(TBG)
- トランスサイレチン(TTR)
- アルブミン
このうち、サイロキシン結合グロブリン(TBG)の値の変化が甲状腺ホルモン(T₄とT₃)の量に影響を与えます。
具体的には、サイロキシン結合グロブリン(TBG)の数値が上昇すると、血中のサイロキシン(T₄)とトリヨードサイロニン(T₃)の濃度も高くなります。
一方、サイロキシン結合グロブリン(TBG)の値が低下すると、それにしたがってサイロキシン(T₄)とトリヨードサイロニン(T₃)の濃度も低くなります。
一方、遊離型の甲状腺ホルモン(FT₄とFT₃)は、通常はサイロキシン結合グロブリン(TBG)の値に左右されずに一定の値を保ちます。
そのため、遊離型の甲状腺ホルモン(FT₄とFT₃)の値が正常よりも高い、あるいは低い場合には、甲状腺の機能に何らかの異常が生じていることを表すのです。
このような理由から、甲状腺の病気が疑われる場合には、血液検査が行われ、サイロキシン結合グロブリン(TBG)と遊離型の甲状腺ホルモン(FT₄とFT₃)の濃度をセットで測定します。
(3)甲状腺ホルモンの機能
体の中のさまざまな細胞には、甲状腺ホルモンを受け取る受容体という組織があります。
甲状腺ホルモンは、この受容体を通じてさまざまな細胞に作用し、細胞の活動を助けるはたらきを担っています。
具体的には、以下のような作用をもたらします。
- 代謝作用
- 熱産生・酸素消費の増加作用
- 心血管系作用
代謝とは、古い細胞が新しい細胞に入れ替わる現象のことをいい、甲状腺ホルモンはその際のエネルギー源や新しい細胞を作る材料の確保のために重要な役割を果たします。
具体的には、タンパク質や脂質、糖質(炭水化物)の吸収や分解を促進し、細胞や組織の活動を活性化させます。
また、細胞が酸素を消費してエネルギーを作り出す活動を促進させ、エネルギー変換を促して基礎代謝を高める作用も担います。
基礎代謝とは、呼吸や心臓の動き、発汗などの無意識的に行われる活動に使われるエネルギーをいい、私たちが問題なく生命活動を行うために必須のはたらきです。
そのため、基礎代謝を高めるためには心臓や血管の動きを活発化させることが欠かせません。
甲状腺ホルモンは、心臓と血管から作られている心血管系にも作用し、全身に血液を行きわたらせるはたらきを助けます。
具体的には、心臓の筋肉の収縮力を高め、心拍数を増加させる作用があります。
これによって、全身に送る血液量を増加させ、細胞に必要なエネルギーを運び、不要な老廃物を受け取り、処理を行う臓器や器官に運ぶ流れを促進します。
このように、甲状腺ホルモンは私たちの体の活動を支え、成長や生命維持のために重要なはたらきを担っているのです。
そのため、甲状腺の機能に異常が生じると、体のさまざまな場所で不調をきたしてしまいます。
このような不調は甲状腺の病気によって生じ、甲状腺ホルモンが果たす役割の広さから、心臓や肝臓などの臓器、精神の状態などにも影響が現れることが多いです。
具体的な甲状腺の病気の種類や現れる症状については、次項で詳しく解説します。
2.甲状腺の病気の分類と主な症状
甲状腺の病気は、甲状腺の機能に何らかの異常が生じることによって引き起こされます。
もっとも、甲状腺の機能に異常が生じる原因はさまざまです。
原因などによって、甲状腺の病気は、以下のように分類されます。
- バセドウ病
- 橋本病
- 腫瘍
- 炎症性疾患
また、これらには共通する症状もあれば、特有の症状もあります。
以下では、甲状腺の病気の種類と主な症状についてご説明します。
(1)バセドウ病
バセドウ病は、自己抗体による自己免疫疾患です。
自己抗体とは、自分自身の体の中の成分に対してできる抗体のことで、本来的には体の中に侵入したウイルスなどの異物に対して作用します。
バセドウ病では、自分の体の中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する自己抗体(TRAb)ができてしまい、これが刺激され続けることにより、甲状腺が甲状腺刺激ホルモン(TSH)からの指令と勘違いして甲状腺ホルモンを過剰に作り出して血中に放出します。
つまり、バセドウ病は、甲状腺の機能が正常よりもはたらきすぎている状態であるということができるでしょう。
これによって、体の中のさまざまな細胞や組織のはたらきが過剰に促進され、心身に不調をきたします。
バセドウ病の代表的な症状には、以下のものがあります。
また、甲状腺ホルモンが過剰に作り出されるため、濾胞が広がるようにして大きくなり、喉の腫れなどの症状も見られます。
さらに細胞のはたらきが促進されるため、新しく作られる細胞の数が増え、眼球が飛び出たようになるなど、特有の症状が現れることも多いです。
バセドウ病の治療法としては、主に投薬による薬物療法が中心です。
特に症状が軽症である場合には、甲状腺ホルモンが作り出されるはたらきを抑制する薬(抗甲状腺薬)を用いて治療が行われます。
もっとも、抗甲状腺薬は服用を始めてから3か月以内に副作用が現れるケースが多く、また効き方には個人差がある点がデメリットです。
抗甲状腺薬の副作用が強く出る場合や喉の腫れが大きい場合には甲状腺の一部またはすべてを摘出する外科的処置がとられることもあります。
なお、バセドウ病が重症化すると、甲状腺クリーゼという多臓器不全を引き起こすケースがまれに見られます。
(2)橋本病
橋本病は慢性リンパ球性甲状腺炎とも呼ばれ、バセドウ病と同じく自己免疫疾患です。
バセドウ病とは異なり、甲状腺ホルモン自体に対する自己抗体が作られることにより、この自己抗体が甲状腺を破壊してしまい、これによって甲状腺ホルモンがうまく作られなくなることで以下のような症状が現れます。
橋本病は男性よりも女性に多く発症し、無月経や便秘などの症状が現れることもあります。
これは、甲状腺ホルモンの量が不足し、内臓の活動やはたらきが低下することによって生じるといえます。
そのため、橋本病はバセドウ病とは逆に、甲状腺の機能が正常よりもはたらかなくなった状態ということができるでしょう。
また、自己抗体が甲状腺を破壊することによって、甲状腺に炎症が生じ、甲状腺の腫れや痛みなどの症状が見られるケースもあります。
甲状腺機能が著しく低下している場合や甲状腺の腫れが見られる場合には、甲状腺ホルモンを補うための投薬治療が行われるのが一般的です。
(3)腫瘍
腫瘍とは、細胞が過剰に増えたり大きくなった状態をいいます。
通常であれば、細胞の増加や成長は体の中でうまくコントロールされますが、このコントロールが効かなくなった状態によって生じるのが腫瘍です。
腫瘍には、良性のものと悪性のものがあり、このうち悪性の腫瘍は特に癌(がん)と呼ばれています。
甲状腺にできる腫瘍のうち、およそ90%は良性のものですが、稀に悪性腫瘍(がん)が生じることもあります。
どちらも喉の腫れやしこりが主な症状であり、自覚症状も少ないことから、発見が遅れるケースもあります。
特に悪性腫瘍(がん)については注意が必要です。
#1:甲状腺腺腫(良性腫瘍)
甲状腺の良性腫瘍は甲状腺腺腫と呼ばれています。
この甲状腺腺腫の中でも大部分を占めるのが濾胞性腺腫で、主に体の外部からの刺激によって細胞の数が増え、濾胞が膨らむことによって生じます。
バセドウ病や橋本病の場合とは異なり、甲状腺全体が腫れるよりも一部だけが腫れる場合やしこりができる場合が多いです。
後述する悪性腫瘍(がん)とは異なり、ほかの組織や臓器に転移する心配がないため、経過観察による対処療法が一般的です。
もっとも、腫れやしこりが大きい場合には気管が圧迫されるおそれがあるため、摘出手術などの外科的処置がとられることがあります。
また、腫れの原因が濾胞の中に水がたまることによるのう胞である場合には、たまった水分を排水するために穿刺廃液という処置がとられるケースもあります。
#2:甲状腺がん(悪性腫瘍)
甲状腺の悪性腫瘍は甲状腺がんと呼ばれ、主に以下のようなものが含まれます。
- 乳頭がん
- 濾胞がん
- 未分化がん
- 髄様がん
このうち、甲状腺がんの90%ほどを占めるのが乳頭がんで、比較的進行も緩やかです。
乳頭がんは通常であれば甲状腺のしこり以外の症状はほとんど現れませんが、しこりが大きくなると喉の痛みや違和感、声のかすれなどの症状が見られるケースもあります。
また、リンパ節への転移も比較的早いですが、そこでの成長も緩やかであり、リンパ節の腫れなどから早期発見に至るケースも多いです。
一方、甲状腺がんの中でも未分化がんは全体のおよそ10%ほどを占め、がん細胞の成長がほかの甲状腺がんよりも著しく、進行が早いという特徴があります。
未分化がんは特に高齢者に発症しやすく、悪性度の高いがんであることから致死率も高いです。
甲状腺がんは、ほかの組織や臓器への転移が見られるか否かに関わらず、摘出手術をメインとした外科的処置がとられる場合がほとんどです。
(4)炎症性疾患
甲状腺に炎症が生じることによって引き起こされる甲状腺疾患です。
炎症とは細胞が傷ついたことに対する反応のことをいい、体の外部からの刺激や異物の侵入などによって発生することが多いです。
甲状腺に炎症が生じる原因についてはさまざまなものがありますが、ウイルスや細菌感染によるものとそうでないものに分類されます。
炎症が生じた原因によらず、甲状腺の炎症性疾患では、甲状腺の腫れや痛みのほか、発熱といった症状を伴うことが一般的です。
#1:亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、ウイルス感染などによって炎症が発生し、甲状腺の濾胞が破壊されてしまうことで生じます。
これによって、濾胞の中で貯められていた甲状腺ホルモンが血液中に大量に放出されることによって、体のさまざまな細胞や器官の活動が活発になり、バセドウ病に見られるような症状が現れます。
もっとも、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の放出量が抑制されることで、次第に血中の甲状腺ホルモン量も低下していきます。
破壊された濾胞も次第に再生し、もとのように甲状腺ホルモンを作り出すようになりますが、その量は不十分であり、これによって甲状腺ホルモンの低下を招きます。
そのため、今度は橋本病のような症状が現れることになり、甲状腺機能がはたらきすぎている状態と低下した状態が順にやってくるのが大きな特徴です。
発症の初期段階では甲状腺ホルモンが過剰に血中に放出された状態となるため、バセドウ病と混同されることも多いですが、亜急性甲状腺炎では2~4か月程度で症状がおさまる場合が多く、この点でバセドウ病との違いが見られます。
症状が比較的軽度であれば、仕事や運動を控えて安静にすることで、自然治癒を目指すことが可能です。
もっとも、重症の場合には、炎症や免疫作用を抑制するステロイド薬や非ステロイド抗炎症薬を用いた薬物治療が行われる場合もあります。
#2:無痛性甲状腺炎
無痛性甲状腺炎が生じるメカニズムは、亜急性甲状腺炎と概ね同じです。
もっとも、亜急性甲状腺炎ではウイルス感染を原因とする炎症によって濾胞が破壊されますが、無痛性甲状腺炎では濾胞が破壊される原因について不明である場合が多いです。
また、ほかの甲状腺疾患がある場合に生じることもあり、橋本病や一度寛解したバセドウ病がトリガーとなって炎症が発生し、無痛性甲状腺炎へと発展することもあります。
主な症状としては動悸や息切れ、手指の震えなどのバセドウ病と共通のものが多いですが、バセドウ病と比べると軽度であることがほとんどです。
また、名前の通り、喉の痛みを伴わないことが亜急性甲状腺炎との大きな違いでもあります。
甲状腺の濾胞が破壊されたことで過剰に放出された甲状腺ホルモンの濃度も自然と低下していくため、ほとんどの場合は治療は必要ではなく、経過観察にとどまることが多いです。
また、通常は予後もよく、3~6か月程度で回復するケースがほとんどを占めます。
3.甲状腺の病気の主な治療法
甲状腺の病気の治療法は、その原因や具体的な症状によって異なります。
具体的には、以下の3つがあります。
- 薬物療法
- アイソトープ療法
- 手術療法
それぞれの内容やポイントについてご説明します。
(1)薬物療法
甲状腺の病気の原因に応じて、投薬による治療を行う方法です。
具体的には、バセドウ病に代表される甲状腺機能がはたらきすぎてしまう甲状腺機能亢進症には、甲状腺機能を抑制する抗甲状腺薬が用いられます。
また、橋本病に代表される甲状腺機能が低下してしまう甲状腺機能低下症では、逆に甲状腺ホルモンを補うために甲状腺ホルモン薬が投与されます。
炎症性疾患の場合には、炎症を抑えるためのステロイド薬などによって治療を行うことが一般的です。
このように、甲状腺の病気の種類や症状に応じて処方される薬に違いがあることが特徴といえます。
なお、バセドウ病の場合に投与される抗甲状腺薬は、投与の量によっては副作用が生じる場合もあり、また、喫煙によって薬の効果が弱まることがあります。
そのため、これらの点にも留意しながら適切な治療を進めていくことが重要です。
また、抗甲状腺薬の服用を始めて2~3年が経過しても症状が改善しない場合やその間に甲状腺に腫れが見られるケースでは、後述するアイソトープ療法がとられる場合もあります。
(2)アイソトープ療法
アイソトープ治療は、放射性物質(ラジオアイソトープ)を含む薬を用いた治療方法です。
広い意味では薬物療法に分類されますが、主にバセドウ病の治療のみに用いられる点で違いがあります。
アイソトープ治療で用いられるのは放射性ヨウ素であり、甲状腺ホルモンはヨウ素分子が結合することで形作られます。
甲状腺には、放射性ヨウ素も通常のヨウ素と同じく取り込む性質があり、取り込まれた放射性ヨウ素から出る放射線によって濾胞を破壊することによって甲状腺ホルモンの量を抑える効果があります。
なお、放射線と聞くと白血病やがんへの影響を心配される方もいるかと思いますが、アイソトープ治療がこれらの疾患を誘発するものではないことは実証的に証明されています。
また、薬物療法と比較すると副作用や合併症が生じることはほとんどなく、再発が少ないことなどもメリットとして上げられる治療方法です。
一方、アイソトープ療法では、甲状腺の濾胞が破壊されることにより、一時的に甲状腺機能低下症になることがデメリットとして挙げられます。
また、バセドウ病特有の眼球の突出症状が悪化するケースも稀にですが生じます。
ほかにも瞼の腫れやものが二重に見える(複視)などの症状が現れる場合もありますが、その場合にはステロイド薬を服用することによって症状の改善を図ることが可能です。
なお、アイソトープ療法は誰でも行うことができるわけではなく、以下にあてはまる場合には行うことができません。
- 授乳中である
- 妊娠中または妊娠している可能性がある
- 近い将来(概ね6か月以内)に妊娠の可能性がある
- 近い将来(概ね6か月以内)に妊娠を希望している
- 18歳未満である
また、甲状腺へ取り込まれた放射性ヨウ素の量を測定しながら摂取量を調整するなどの対処も必要となります。
さらに、アイソトープ療法を行うことができる施設や医療機関は限られているため、アイソトープによる治療を希望される方は事前に医療機関などに確認をすることを推奨します。
(3)手術療法
甲状腺の腫れやしこりが大きい場合は、甲状腺の一部または全部を摘出する手術療法がとられます。
主に甲状腺がんの場合や短期的に根本的な治療を行いたい場合に選択されることが多いです。
手術療法では、甲状腺疾患の原因となる部分を除去することを目的としているため、効果がすぐに得られ、確実性の高い治療方法といえます。
また、アイソトープ療法による治療が受けられない場合にも手術療法を行うことが可能です。
もっとも、外科的処置を伴うため、専門の甲状腺外科を受診する必要があるほか、入院が欠かせません。
そのため、治療を行うために一定の期間が必要になることに注意が必要です。
また、甲状腺を切除する際に喉に小さな傷が残ってしまうこともデメリットとして挙げられます。
手術療法によって甲状腺の一部または全部を切除すると、甲状腺の機能が一部または全部失われてしまうことになり、特にすべてを摘出した場合には甲状腺機能低下症となってしまいます。
そのため、手術療法を選択した場合には、必要に応じて甲状腺ホルモン薬の継続的な服用が必要となることも押さえておきましょう。
まとめ
本記事では、甲状腺の病気の種類や主な症状、甲状腺の病気の治療方法などについて解説しました。
甲状腺の病気には、甲状腺ホルモンの量が多くなったり少なくなったりすることで生じるもののほか、炎症や腫瘍が原因で生じるものなど、さまざまなものがあります。
また、甲状腺の病気には特有の症状が現れるものがある一方で、共通して現れる症状も多く、症状の内容によって行われる治療方法にも違いが見られます。
甲状腺の病気は、早期に発見することができれば、適切な治療によって改善する場合がほとんどです。
本記事で紹介したような症状にお悩みの方は、甲状腺の病気である可能性も視野に入れて、内分泌科や甲状腺外科などの専門の医療機関を受診されることをおすすめします。