
手のしびれと糖尿病の関係は?糖尿病性神経症の特徴を解説
「手や指にしびれが起こるのは糖尿病と関係がある?」
「糖尿病以外にはどんな病気の可能性が考えられる?」
「原因が分からない手や指のしびれがある場合に受診すべき診療科を知りたい」
手指のしびれや痛みのような症状に悩まされている方の中には、このような疑問や不安をお持ちの方もいると思います。
糖尿病は血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高い状態が長く続くことで発症する病気です。
血糖値が高い状態では、血液の中で糖が固まりやすくなるため、血管が傷つけられたり詰まりやすくなったりします。
これによって、体の中の細胞や組織に十分な酸素や栄養素が運ばれなくなってしまい、さまざまな症状を引き起こしてしまいます。
特に体の末端にある細い血管(毛細血管)が詰まりやすくなり、足先や手指にしびれや痛みなどの神経症状が現れることがあるのです。
本記事では、糖尿病と手指のしびれの関係や症状の現れ方の特徴について解説します。
また、手指のしびれが現れた場合に受診することが望ましい診療科についても合わせて解説します。
指先のしびれや痛みなどの症状は、血管や神経の異常が関わっているケースが多いです。
ご自身の症状の現れ方も確認しながら、適切な医療機関を受診するための参考となれば幸いです。
1.手のしびれと糖尿病の関係
糖尿病になると、手や足にしびれや痛みなどの感覚異常の症状が現れることがあります。
これは、血糖値が高い状態が長期間続くことによって生じます。
糖が体の中に取り入れられると、唾液に含まれるアミラーゼという酵素のはたらきによってブドウ糖に分解され、血液の中に吸収されます。
これによって一時的に血糖値が高くなるものの、膵臓からインスリンという物質が放出されます。
インスリンは体の中の細胞にはたらきかけ、血液中の糖を吸収・分解するはたらきを助けるのです。
しかし、インスリンが作られなくなったり、細胞に対するインスリンのはたらきが弱められてしまうと、糖をエネルギー源として吸収・分解できなくなってしまいます。
これによって、血液中に過剰に糖が残ってしまい、血糖値が高くなってしまうのです。
血糖値が高い状態が続くと、血液中の糖が固まりやすくなり、血管が詰まりやすくなってしまいます。
これによって血液の流れが悪くなると、体の末端まで酸素や栄養素を送ることができなくなり、手や足の先の細胞や神経が傷ついてしまいます。
このように、糖尿病によって血糖値が高い状態が続くことで、手指や足先にしびれや痛みが現れるのを「糖尿病性神経症」といいます。
具体的にはビリビリとしたようなしびれや痛みが現れることが多く、それが両手あるいは両足と、左右対称に現れる点が特徴的です。
また、症状が進行すると、手足に力が入りにくくなったり、ものをつかめなくなったり、運動機能にも不調が現れることがあります。
しびれや痛みの症状は安静にしているときや夜間に現れやすいという特徴もあるため、上記のような症状の現れ方をしている場合には、糖尿病性神経症の可能性があります。
なお、糖尿病性神経症では、長い神経の方に影響が出やすく、足先のしびれや痛みが先に現れることが多く、症状の進行にしたがって手にしびれなどが現れます。
そのため、手や指先にしびれなどの症状が現れている場合には、糖尿病の症状が進行している可能性もあるため、注意が必要です。
症状が悪化すると、痛みやしびれの症状は次第に感覚の麻痺などに変わり、痛みなどを感じにくくなってしまいます。
そのため、怪我や傷を負っても痛みを感じることができなくなり、傷口から細菌などが感染するリスクが高まります。
通常であれば、細菌などの異物が体の中に侵入すると、免疫のはたらきによって排除されますが、糖尿病になると免疫機能が弱まってしまいます。
そのため、細菌などを排除することができず、細菌感染が起こった箇所の細胞が壊死してしまい、手足の切断を余儀なくされることもあるのです。
また、通常であれば激しい痛みを伴う病気にも気づくことができず、突然死につながるリスクもあるため、注意が必要です。
もっとも、早期に血糖値の異常に気づき、適切な治療を行うことで糖尿病性神経症を引き起こすリスクを軽減することができます。
そのため、定期的に健康診断などの検査を受診し、適切な血糖値のコントロールに努めることが糖尿病を予防する上でも大切です。
2.糖尿病性神経症の症状の特徴
上記で述べたように、糖尿病が悪化することで、しびれや痛みなどの症状が現れるようになります。
また、糖尿病の合併症の中でも、糖尿病性神経症は比較的早い段階で現れる傾向にあることも特徴です。
なお、糖尿病性神経症には、症状の現れ方に以下のような特徴があります。
- しびれが生じた時期が不明であることが多い
- 手や腕よりも足先から症状が現れることが多い
- 感覚異常の症状の方が強く現れる
順にご説明します。
(1)しびれが生じた時期が不明であることが多い
糖尿病性神経症の症状は、初期から急激に現れるわけではありません。
初期には軽度のしびれが生じる程度であり、本人も気づかずに見逃してしまうケースがほとんどです。
徐々にしびれや痛みなどの症状が進行していくため、症状が現れはじめた時期を明確に特定できないことが多いのが特徴です。
これに対して、後述するようなほかの病気では急激に症状が現れることが多く、症状の現れ方に違いが見られます。
(2)手や腕よりも足先から症状が現れることが多い
糖尿病性神経症では、手よりも足の方からしびれや痛みの症状が現れることが多いです。
具体的には、足先に以下のような症状が見られます。
- 足の裏や指先がしびれる
- 足がよくつるようになる
- 足や指先がほてったり冷えたりする
- 砂利や紙・布の上を歩いているような感覚になる
なお、症状の進行とともに手や指にもしびれなどが広がっていくことが多いです。
そのため、足先のしびれや痛みなどの感覚異常が現れた後に手指に症状が移ったような場合には、糖尿病の症状が進行・悪化している可能性があります。
糖尿病神経症を放置すると、ほかの合併症や病気を引き起こす原因にもなるため、このような症状の現れ方をしている場合には、直ちに糖尿病専門のクリニックや内分泌科を受診することが重要です。
(3)感覚異常の症状の方が強く現れる
糖尿病性神経症では、しびれや痛みなどの感覚異常の症状が強く現れるのも特徴の1つです。
私たちの体の中には、脳や脊髄などによって形作られる中枢神経と手足に広がる末梢神経があります。
このうち、末梢神経には運動に関わる運動神経、ものを触る際にはたらく感覚神経、呼吸などの無意識的な活動に関わる自律神経があります。
糖尿病によって血糖値が高い状態が続くと、血液の流れが悪くなり、細い神経線維から傷ついてしまいます。
これによって、ものを触る際にはたらく感覚神経の異常から症状が現れるのです。
なお、症状の進行によって、運動神経や自律神経のはたらきも鈍くなり、手足を動かしにくくなったり、立ち眩みや発汗量の増加などの症状が現れることもあります。
特に自律神経の異常が進行してしまうと、吐き気や嘔吐、昏睡などの症状が現れる可能性があります。
意識障害が生じてしまうと、死に至るリスクも高まるため、早期に医療機関を受診して治療を行う必要があるのです。
3.手や指のしびれが現れるほかの病気
上記のように、手や指先にしびれや痛みの症状が現れるのは、血糖値が高い状態が続くことで、血管と神経が傷ついてしまうことに理由があるからです。
もっとも、血管や神経が傷ついたり圧迫されたりする病気はほかにもあるため、糖尿病との区別が必要となるケースもあります。
具体的には、以下のような病気が挙げられます。
- 頚椎症性神経根症
- 脳卒中
- 手根管症候群
これらの病気の中には、しびれや痛みの現れ方に特徴があるものもあります。
ご自身の症状の現れ方とも照らし合わせながら、適切な診療科を受診して治療を行うことが大切です。
(1)頚椎症性神経根症
頚椎は首の骨であり、7つの椎骨という骨から構成されています。
骨と骨の間には、椎間板というクッションのような役割を果たす組織があります。
頚椎症は、加齢などによって首の骨に負担がかかり続けることで、クッションの役割を果たしていた椎間板がすり減って変形してしまうことによって生じます。
変形した椎間板が頚椎の中を通っている神経根と呼ばれる神経の束を圧迫してしまうことで、両手にしびれや痛み、力の入りにくさなどの症状が現れます。
糖尿病性神経症とは異なり、左右のどちらか一方だけに症状が現れることが多いのが特徴です。
また、首や肩を動かした際などの特定の動きをした場合に現れることが多く、加齢のほかデスクワークなどで長時間同じ姿勢でいる人は首や腰に負担がかかるため、発症しやすいと言われています。
もっとも、安静にしていれば60~90%ほどの人は3か月以内に自然に症状が治まると報告されています。
そのため、血糖値の上昇を抑制することができなければ症状が治まらない糖尿病性神経症とは、このような点で違いが見られます。
(2)脳卒中
脳卒中は、脳の血管が詰まったり破れたりする病気です。
具体的には、血管が詰まることで引き起こされる病気は脳梗塞、血管が破れることで生じる病気は脳出血と呼ばれています。
これらの病気では、主に手足のしびれなどの麻痺、ろれつが回らなくなるなどの言語障害が現れることが多いです。
血圧の上昇や動脈硬化などによって血管が傷つくことが主な原因として発症するほか、糖尿病が進行して脳卒中を引き起こす場合もあります。
主に体の片側のみにしびれが現れ、めまいやものが二重に見えるなどの症状のほか、まっすぐに歩くことができないなどの特徴的な症状が多いです。
また、血管が詰まったり破れたりすることで脳の細胞に酸素や栄養素を運ぶことができなくなると、細胞が壊死し、意識障害などを引き起こして死に至るリスクもあります。
体の片側に違和感や異常が現れる場合には、脳卒中を引き起こした可能性も視野に入れ、直ちに脳神経外科などの専門の医療機関を受診することが重要です。
(3)手根管症候群
手首から手のひらにかけて走っている正中神経と呼ばれる神経が圧迫などを受けて傷つくことで生じます。
正中神経は、手を動かす腱とともに手根管と呼ばれる空間を通っている神経です。
手根管を形作る骨と靭帯が狭くなることで、正中神経が圧迫を受けてしまい、主に片手の親指から薬指にかけてしびれや痛みが生じることに特徴があります。
主に女性が発症することが多く、自転車や車の運転などの手を使う作業を行ったときに症状が現れやすいです。
症状が進行すると親指の付け根あたりの筋肉が弱くなり、ものをつかんだりするのが難しくなってしまうことがあります。
症状が軽度であれば、投薬治療がとられることもありますが、症状が重篤な場合は外科的措置がとられることもあります。
4.糖尿病性神経症の疑いがある場合に行われる主な検査
手や指にしびれや痛みなどの症状がある場合には、糖尿病によるものであるかそうでないかの判断を行うことが必要になります。
具体的には、問診によって糖尿病性神経症に典型的な症状の現れ方をしているかどうかの確認を行います。
また、ほかの病気の可能性がある場合やほかの病気の可能性を除外するために、以下のような検査が行われるのが一般的です。
- ABI(足関節上腕血圧比)検査
- 血液検査
- CT・MRI検査
- 神経伝導検査
それぞれの内容について解説します。
(1)ABI(足関節上腕血圧比)検査
ABI(足関節上腕血圧比)検査とは、左右の上腕と足首の血圧を同時に測定する検査です。
具体的には、足首の血圧を上腕の血圧で割った数値を用いて評価を行います。
通常であれば、上腕の血圧よりも足首の血圧の方がやや高いため、数値は1.0を超えることがほとんどです。
もっとも、足首の血管が狭くなっていたり詰まっていたりすると足首の血圧の方が低くなってしまいます。
そのため、計測した血圧比が0.9を下回ると足首の血管が狭くなっている可能性が疑われるのです。
その意味で、足の血管に動脈硬化が起こっているかどうかを判断する場合に行われることも多いです。
なお、糖尿病の症状が進行すると、毛細血管だけでなく動脈などの大型血管も傷ついたり詰まったりすることがあります。
つまり、糖尿病が原因となって動脈硬化が起こるケースもあるのです。
また、先ほども述べたように、糖尿病性神経症は足から症状が現れることがほとんどであり、この検査を行うことで足の血流障害の有無を判断する際の材料ともなります。
もっとも、動脈硬化は糖尿病以外の要因によっても起こるため、糖尿病以外の病気の可能性を完全には除外できないことに注意が必要です。
そのような場合には、後述する血液検査を合わせて行うことで、糖尿病であるかどうかの判断がなされます。
(2)血液検査
糖尿病は、血糖値が高い状態が続くことで発症するため、血糖値の測定を行うことで糖尿病であるかどうかを判断することができます。
血液検査で参照される数値には、以下のようなものがあります。
- 空腹時血糖値
- 食後血糖値
- HbA1c
順にご説明します。
#1:空腹時血糖値
空腹時血糖値は、食事をしていない状態の血糖値を評価します。
具体的には、10時間以上食事をとっていない状態の血糖値を指します。
糖が体の中に取り込まれていない状態であるため、通常であれば最も血糖値が低くなり、100㎎/dL未満が正常値です。
また、126㎎/dL以上の場合には糖尿病であると判断されることが多いです。
空腹時血糖値の判定と基準値は、以下のようにまとめることができます。
判定 | 空腹時血糖値の範囲 | |
正常型 | 正常 | 100㎎/dL未満 |
正常高値 | 100~109㎎/dL | |
境界型 | 110~125㎎/dL | |
糖尿病型 | 126㎎/dL以上 |
なお、110~125㎎/dLの範囲にあるときは、「糖尿病の疑いが否定できない」基準とされ、糖尿病境界型とも呼ばれます。
境界型に該当する場合には、糖尿病である疑いが否定できないため、後述する食後血糖値やHbA1cなどの数値も測定し、判断を下します。
#2:食後血糖値
食後血糖値は、食事をとった2時間後に測定する血糖値です。
血液中に糖が吸収されているため、食後血糖値と比較するとその数値は高くなりますが、以下の基準に基づいて判断されます。
判定 | 食後血糖値の範囲 | |
正常型 | 140㎎/dL未満 | |
境界型 | 140~199㎎/dL | |
糖尿病型 | 200㎎/dL以上 |
食後血糖値が高い場合には、インスリンの作用が弱まっている可能性があります。
そのため、空腹時血糖値が正常値であったとしても、食後血糖値が高い場合には糖尿病の可能性が疑われます。
#3:HbA1c
HbA1cはグリコヘモグロビンと呼ばれる物質です。
これは酸素や栄養素を運ぶ役割を持つヘモグロビンという物質に糖が結合したものを指します。
血糖値が高い状態にあると、糖がヘモグロビンに多く結合してしまうため、グリコヘモグロビンの濃度が高くなります。
また、糖が一度ヘモグロビンと結合してしまうと、ヘモグロビンの寿命である120日を経過するまでは分離しません。
そのため、この値が高い場合には、持続的に血糖値の上昇が見られることを意味するのです。
HbA1cは、以下のような基準値に基づいて判定がされます。
判定 | HbA1cの範囲 | |
正常型 | 正常 | 5.6%未満 |
正常高値 | 5.6~5.9% | |
境界型 | 6.0~6.4% | |
糖尿病型 | 6.5%以上 |
なお、HbA1cの値を測定することによって、測定を行った当日を含む過去2~3か月間の血糖値の評価を行うことができます。
(3)CT・MRI検査
CT検査とは、X線をさまざまな方向からあてることによって体の断面を画像にすることができる検査です。
また、MRI検査は強力な磁気や電波を用いて体の中の水素原子を共鳴させ、臓器や血管を撮影する検査をいいます。
いずれも神経や血管の異常が疑われる場合に行われる検査方法であり、特にCT検査では骨が神経を圧迫しているかどうかを判断する際に実施されます。
また、MRI検査では神経の状態のほか、血管の状態を観察することができるため、血管の詰まりや破れも正確に特定することが可能です。
そのため、脳卒中によるしびれや痛みなどが疑われる場合や脳卒中の可能性を除外する場合にも行われることがあります。
もっとも、CT検査やMRI検査では、脳や脊髄を中心とする中枢神経や血管を観察することに長けていますが、末梢神経は末端の方で異常な腫れなどが見られない限りは状態を正確に判断することが難しい場合もあります。
そのような場合には、次に述べる神経伝導検査によって神経のはたらきを評価する検査が実施されます。
(4)神経伝導検査
神経伝導検査は、手や足の先にある末梢神経に電気刺激を与えて、神経のはたらきを測定する検査方法です。
そのため、手指や足先のしびれ・感覚異常が見られる場合に実施されることが多いです。
具体的には、筋肉に電極を置いて神経をいくつかの箇所で刺激し、そのときの刺激に対する反応を波形として検出します。
波形の大きさや形を見ることで、神経のはたらきが正常であるかどうかを判断することができます。
この検査を行うことで、糖尿病性神経症の有無はもちろん、症状の進行度合いについても測定することが可能です。
5.手や指のしびれが現れた際に受診すべき診療科
すでに述べたように、手や指にしびれが現れる病気には、糖尿病のほかにもさまざまなものがあります。
そのため、ご自身の症状の原因が分からない場合には、以下のような診療科を受診することがおすすめです。
- 脳神経外科
- 整形外科
- 内分泌科
なお、病気によっては症状の現れ方に特徴があるものも多いです。
どのような症状の現れ方をしているかによって、受診すべき診療科は異なるケースもあるため、ご自身の症状の現れ方も確認しながら適切な医療機関を受診しましょう。
(1)脳神経外科
脳神経外科は、脳や神経に関わる病気の診断と治療を行う診療科です。
CT検査やMRI検査などで、脳の血管や神経の状態について検査を受けることができるため、異常が見つかった場合にはすぐに必要な処置を受けることもできるところに特徴があります。
体の片側のみにしびれが生じているなど、脳卒中が疑われるような症状の現れ方をしている場合には、受診するのがおすすめです。
もっとも、近くの医療機関に脳神経外科などの神経を専門に扱う診療科がない場合には、次に述べる整形外科などを受診することも検討してみましょう。
(2)整形外科
整形外科は、骨や筋肉、神経などに関する病気の診断と治療を行う診療科です。
脳や脊髄に異常がない場合や神経を専門とする医療機関がない場合には受診することを検討してみましょう。
具体的には、手のしびれが現れる範囲やタイミングが限定的である場合には、頚椎症性神経根症や手根管症候群の可能性があるため、受診するのがおすすめです。
もっとも、骨や筋肉などの組織による神経の圧迫が見られなかった場合には、糖尿病性神経症の疑いがあるため、糖尿病を専門とする内分泌科を受診するようにしましょう。
(3)内分泌科
内分泌科は、ホルモンのバランスに関わる病気の診断と治療を行う診療科です。
糖尿病は、糖の吸収・分解を促進するインスリンというホルモンが体の中で作られなくなることやインスリンのはたらきが弱められることによって発症します。
血液検査などから糖尿病であることが判明すれば、血糖値をコントロールするための治療を行うことも可能です。
糖尿病性神経症は血糖値が高い状態が続くことで引き起こされるため、血糖値を正常な範囲に抑えることができれば、症状の進行や悪化を防ぐことができます。
なお、糖尿病になると、神経症状よりも頻尿や多尿、異常なのどの渇きなどの症状が先に現れることが多いです。
この段階で受診し、糖尿病であることが判明すれば、糖尿病性神経症などの合併症やほかの病気を引き起こしてしまう前に有効な治療を行うことができます。
6.糖尿病性神経症の主な治療法
糖尿病性神経症の治療は、食事療法や運動療法による血糖値のコントロールによって行うことが一般的です。
もっとも、症状の程度などによって、行われる治療法には違いも見られます。
具体的には、以下のような治療法がとられます。
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
糖尿病性神経症は、症状が軽度であれば、食事療法と運動療法のみによって症状の改善を図ることが可能です。
しかし、症状が進行・悪化している場合には、これらの治療法だけでは十分ではなく、次に述べる薬物療法が必要となることが多いです。
現れている症状を放置することで、選択できる治療法も限られてしまうため、早期に専門の医療機関を受診して治療を開始することが重要といえます。
(1)食事療法
食事療法では、食習慣の見直し・改善によって血糖値のコントロールを行います。
具体的には、糖や脂質などの肥満の原因となる栄養素を制限し、バランスのよい食事をとることを目指します。
例えば、主食(米やパン、麺類など)の量を一定に保ち、ビタミンや食物繊維を多く含む海藻類や野菜の量を増やすなどの食事を心がけることが大切です。
また、1日3食に分けてしっかり食事をとるほか、早食いを避けて野菜やタンパク質を先にとり、最後に炭水化物をとるなどのリズムを整えることも重要です。
不規則な食事や寝る前の食事は血糖値の上昇や肥満につながりやすく、朝食を抜くことは動脈硬化のリスクを高めることが報告されています。
そのため、血糖値を上げないような食事のバランスやリズムを意識することが重要です。
(2)運動療法
運動療法には、糖などの栄養素の吸収・分解を促進させるはたらきのほか、インスリンのはたらきを強める効果を期待することができます。
ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングなどのレジスタンス運動もまた血糖値のコントロールに有効であることが知られています。
そのため、有酸素運動とレジスタンス運動の両方を取り入れた運動を行うことが望ましいです。
具体的には、有酸素運動は週に3回程度、レジスタンス運動は週に2~3回程度連続しない日程で行うことが効果的とされています。
また、頻度だけでなく、継続的に取り組むことが何よりも重要です。
なお、症状が進行・悪化すると、足先の感覚が鈍くなり、痛みなどを感じにくくなることがあります。
そのため、足の傷や感染症を防止する観点から、定期的なフットケアが欠かせません。
具体的には、足先を清潔に保ち、運動の際に使う靴の大きさは足のサイズに合わせた適切なものを選び、摩擦や靴擦れなどが起こらないように注意を払うことが大切です。
(3)薬物療法
手足にしびれや痛みなどの症状が強く現れており、運動療法を継続的に行うことが難しいケースでは、薬物療法がとられることもあります。
具体的には、手足のしびれや痛みを緩和するために鎮痛剤などを用いることが多いです。
特に痛みなどがそれほど重くない場合には、非ステロイド系消炎鎮痛剤を用いた治療が行われます。
中程度以上の痛みやしびれなどがある場合には、プレガバリンやデュロキセチンが用いられることがあります。
もっとも、プレガバリンでは部分的にしか効果が見られないケースもあり、めまいや浮腫などの副作用が発生することも報告されています。
これに対して、デュロキセチンは痛みを和らげる効果がプレガバリンと同じか少し上回ることが知られており、重篤な副作用が生じることも稀であることが報告されています。
なお、これ以外にも、症状が中程度以下であり、発症から日が浅い場合にはアルドース還元酵素阻害薬という薬が使われることもあります。
アルドース還元酵素は、体の中でソルビトールという糖を作り出すはたらきを促進する酵素です。
糖尿病性神経症は、このソルビトールが過剰に作り出されて神経細胞の中に蓄積されることで発症するとされています。
そのため、アルドース還元酵素阻害薬を服用することで、アルドース還元酵素のはたらきを妨げ、ソルビトールが蓄積するのを抑えることができるのです。
このように、症状の程度などによって処方される薬の種類は異なることも押さえておきましょう。
まとめ
本記事では、糖尿病と手のしびれの関係性や糖尿病性神経症の症状の特徴などについて解説しました。
手のしびれが現れる病気は糖尿病のほかにもいくつかあるため、適切な治療を行うためには症状の現れ方にも気を付ける必要があります。
特に手だけでなく足にもしびれや痛みがある場合やどちらか一方だけではなく左右に症状が現れている場合には、糖尿病の合併症である糖尿病性神経症の可能性があります。
糖尿病性神経症の症状が軽度であれば、適切な医療機関を受診することで早期発見ができ、症状の改善を図ることが可能です。
そのため、原因の分からない手のしびれがある場合には、糖尿病の可能性も視野に入れて内分泌科や糖尿病専門のクリニックを一度受診されることがおすすめです。