甲状腺の腫れがある場合にはどんな病気が考えられる?甲状腺の病気についても解説
「喉のあたりに腫れができているが、風邪とも少し違う気がする」
「喉の下あたりの一部だけが腫れているのはどんな病気が考えられる?」
「腫れがある場合にはどのような検査を受けるのが適しているのか知りたい」
喉の腫れがある場合には、まずは風邪の症状であると思われる方も多いと思います。
しかし、喉の下あたりの一部または全部が腫れている場合には、甲状腺の病気である可能性があります。
甲状腺に異常が生じると、甲状腺の一部または全部が腫れるなどの症状が現れることがあります。
甲状腺は、私たちの体の中の細胞や組織にはたらきかけ、活動を活発にする役割を担っています。
そのため、甲状腺の異常によって、様々な影響が生じる可能性があります。
もっとも、甲状腺は喉に近い場所にあり、風邪などによる喉の腫れと混同されてしまうケースが多く、発見が遅れてしまうことも少なくありません。
本記事では、甲状腺の腫れがある場合に疑われる病気や特徴などについて解説します。
また、甲状腺に腫れがある場合に実施される検査内容や治療法についても合わせて解説します。
喉の腫れがあり、どのような病気の可能性があるのか、どのような検査や治療を受けるべきか疑問に思われている方の参考になれば幸いです。
1.甲状腺の腫れとは
甲状腺とは、喉仏の下あたりに位置する小さな器官です。
蝶が羽を広げたような形といわれることがあり、10~15gほどの小さな器官ですが、私たちが問題なく生命活動を維持するために重要な役割を担っています。
甲状腺の機能に異常が生じると、甲状腺の一部または全部が腫れることがあり、それによって様々な不調や症状が現れる場合があります。
なお、甲状腺の腫れ方には、その一部が腫れる場合と全体が腫れる場合の2つがあり、甲状腺の腫れとは喉の一部や首回りが腫れることを意味します。
しかし、ほかの病気でも喉や首回りの腫れの症状はしばしば見られるため、甲状腺の病気であることを見落とされるケースも多いです。
以下では、甲状腺のはたらきと機能異常になった場合の影響、混同されやすい代表的な病気などについて解説します。
(1)甲状腺とは
甲状腺は、私たちの生命活動を維持・促進するために重要な役割を担っている器官です。
私たちの体の中の細胞や組織の活動は、ホルモンと呼ばれる物質によって維持・調整が図られています。
甲状腺は、甲状腺ホルモンと呼ばれる物質を作り出し、血液中に放出する役割を担っています。
甲状腺ホルモンは血液中に放出されると、血液の流れに乗って、体の中の様々な細胞や組織に運ばれます。
そして、細胞や組織のはたらきを活発化させ、生命活動の維持や成長を助けます。
具体的には、タンパク質や脂質などの物質から新しい細胞が作られる活動を促進し、細胞や組織での酸素の消費と活動の活発化を助ける作用を及ぼします。
また、心臓の筋肉を収縮させ、心拍数の増加などのはたらきもあり、これらの作用を通じて体の基礎代謝の活性化を促進します。
基礎代謝とは、呼吸や発汗など、私たちが無意識的に行っている活動に必要なエネルギー消費のことです。
基礎代謝が促進されることで、体の中のあらゆる細胞や組織の活動が活発になり、私たちが健康的に生活を送ることが可能となります。
そのため、甲状腺に異常が生じることで、甲状腺ホルモンが作られる量や放出される量が適正に保たれなくなり、様々な不調や症状が現れます。
甲状腺に腫れが生じるのも、そのような甲状腺の異常が理由であることが多いです。
(2)甲状腺の腫れの分類
甲状腺の腫れには、一部が腫れる場合と全体的に腫れる場合があります。
以下では、甲状腺の腫れ方の違いと特徴について解説します。
#1:甲状腺の一部が腫れる
甲状腺は、蝶が羽を広げたような形の器官であり、右側を右葉、左側を左葉といいます。
右葉または左葉のみが腫れてしまうことを「結節性甲状腺腫」といい、「しこり」とも呼ばれることがあります。
喉仏の下あたりに比較的狭い範囲で小さなしこりがある場合には、この結節性甲状腺腫である可能性が高いです。
腫れがある部分を触ったり押したりしても、痛みを伴わない場合が多いですが、まれに痛みを伴う場合もあります。
しこりの部分に痛みがある場合には、悪性腫瘍(がん)である可能性があります。
甲状腺がんはほかの部位にできるがんと比べると進行が緩やかであり、予後も良好であることが多いですが、未分化がんなどの致死率の高いがんが潜んでいる可能性もあります。
また、がん細胞の成長によってリンパ節への広がりが見られると、リンパを通って体のほかの組織や器官にがんが転移するリスクもあるのです。
そのため、しこりの部分に触れて痛みが生じる場合には、直ちに甲状腺外科などの専門の診療科を受診することが重要です。
#2:甲状腺の全部が腫れる
甲状腺全体が腫れている状態を「びまん性甲状腺腫」といい、喉仏の下あたりが広がるように腫れている場合には、びまん性甲状腺腫である可能性が高いです。
甲状腺が全体的に腫れてしまうような症状は、甲状腺の病気の中でもいくつか見られます。
例えば、甲状腺の病気の中でもバセドウ病の場合には、ゴムのように弾力のある腫れ方をするのが特徴であり、下を向いたり腕を上げたりする場合に違和感があるケースが多いです。
また、慢性甲状腺炎とも呼ばれる橋本病では、表面が硬くゴツゴツしているような腫れ方をします。
このように、同じ甲状腺の病気であっても、その腫れ方には特徴や違いがあることに注意が必要です。
なお、上記で挙げたいずれの病気であっても、症状の初期から甲状腺が腫れることはあまりありません。
まずは疲労感や倦怠感などの症状が現れ、段階的に甲状腺の腫れが生じることがほとんどであり、このことも甲状腺の病気であることが見逃されてしまうケースがある要因となっています。
(3)甲状腺の腫れと混同されやすい症状
上記のように、甲状腺の腫れは喉仏の下あたりの首回りの一部または全部が腫れることを指します。
しかし、喉や首回りが腫れてしまう病気や症状は、甲状腺の病気以外にもいくつかあります。
具体的には、以下のような病気と混同されてしまうケースが多いです。
- リンパ節炎
- 頸部のう胞
それぞれの特徴や症状についても押さえておきましょう。
#1:リンパ節炎
リンパ節炎では、リンパ節に炎症が生じることで首のあたりに腫れが現れます。
リンパ節とは、リンパ管と呼ばれる器官をつなぐ組織で、体の中にウイルスや細菌などの異物が侵入した際にこれを排除する免疫機能を形作る重要な器官です。
ウイルスや細菌がリンパに侵入すると、免疫機能のはたらきによって炎症反応が起こり、これによってリンパ節が腫れることになります。
リンパ節に炎症が生じると、主に顎の下や鎖骨あたりが腫れることが多く、甲状腺の位置とも近い部分が腫れるため、混同されることが多いです。
#2:頸部のう胞
頸部のう胞は、喉仏のあたりにできる良性の腫瘍です。
のう胞とは、袋状の組織のことであり、この中に水や血液が貯まることによって、腫れやしこりを生じることがあります。
なお、のう胞は細胞から作られているわけではないため、がん細胞となることはありません。
頸部のう胞では、一般的に喉のあたりに腫れやしこりを生じるだけであり、痛みなどを伴うことはほとんどありません。
また、のう胞に貯まった水や血液は時間の経過とともに吸収されるため、経過観察を行うことで自然に腫れがおさまる場合がほとんどです。
もっとも、細菌などの感染が見られる場合には、炎症反応が現れ、痛みや腫れの拡大などの症状が生じる可能性があるため、注意が必要です。
腫れが大きくなった場合や広がった場合には気管を圧迫してしまうこともあり、ほかの器官に影響が生じる場合にはのう胞内部の水分の吸引や摘出手術などの外科的措置がとられるケースもあります。
2.甲状腺が腫れてしまう主な病気
甲状腺の腫れには、一部が腫れてしまう「結節性甲状腺腫」と全体的に腫れる「びまん性甲状腺腫」の2つがあり、甲状腺の病気の種類によっても腫れ方が異なります。
甲状腺の病気のうち、腫れが生じるものには以下のようなものがあります。
- 甲状腺がん
- 亜急性甲状腺炎
- 甲状腺機能亢進症
- 甲状腺機能低下症
それぞれの原因やほかの症状について、以下で解説します。
(1)甲状腺がん
甲状腺がんは、甲状腺にできる悪性の腫瘍であり、主に以下のようなものがあります。
- 乳頭がん
- 濾胞がん
- 髄様がん
- 未分化がん
このうち、甲状腺がんの大半を占めるのは乳頭がんです。
甲状腺がんでは、喉仏の下あたりにしこりができることがほとんどです。
また、がんが進行してリンパ節への転移が見られると、首の横にも腫れが生じることがあります。
なお、甲状腺がんはほかの部位にできるがんと比べると進行が緩やかであり、数年をかけてゆっくりと腫れが大きくなったり広がったりする場合も珍しくありません。
そのため、数年前からしこりがあり、大きさがそれほど変化していないと感じるようなケースであっても、甲状腺がんではないと言い切れないため、注意が必要です。
甲状腺がんが進行していくと、喉仏の下あたりのしこりだけでなく、声帯の神経を圧迫することによる声のかすれといった症状が現れる場合があります。
また、甲状腺がんの中でも悪性度の高い未分化がんでは、がんの進行につれて気管が圧迫されることによる息苦しさや飲み込みにくさなどの症状が現れることがあります。
未分化がんではこのほかにも、首の痛みや血の混ざった痰が出るなどの症状も見られるケースもあります。
このように、甲状腺がんは小さなしこりから始まっても、放置することで様々な不調や症状が現れます。
また、ほかの組織や器官にがんが転移するリスクもあるため、甲状腺のしこりに気づいた時点で早期に甲状腺外科などを受診することが重要です。
(2)亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎は、甲状腺に炎症が生じる病気です。
炎症が生じる原因については解明されていない部分が多いですが、ウイルス感染によるものであるという指摘もあります。
通常、ウイルスなどの感染が生じると、免疫機能のはたらきによって好中球やリンパ球などの細胞がウイルスなどの異物を排除するために患部に集まってきます。
このときにウイルスに対する抗体が甲状腺の細胞までも破壊してしまうことで、血液中に大量の甲状腺ホルモンが放出されてしまいます。
そのため、一時的に甲状腺ホルモンが過剰な状態となり、動悸や息切れ、体重の減少、不眠症といった症状が現れることが多いです。
その後、甲状腺の細胞が再生されることによって次第に症状がおさまるものの、今度は一時的に甲状腺の機能が低下してしまい、心拍数の低下や代謝異常などの症状が現れます。
早期発見をすることができれば、投薬による治療などによって2~4か月程度で完治することが一般的です。
亜急性甲状腺炎では、甲状腺の右葉あるいは左葉のみにしこりが生じる場合と全体的に腫れる場合があり、特にしこりができている場合には経過観察中に反対側にも移動することがあります。
これはクリーピング現象と呼ばれるものであり、亜急性甲状腺炎に特徴的な症状です。
なお、甲状腺のしこりあるいは腫れと同時に痛みを伴うことが多く、発症直後はものを飲み込むことができないなどの症状もしばしば生じます。
また、炎症反応に伴う発熱や全身の倦怠感を訴えることが多いため、喉の病気や風邪の症状と間違われやすく、発見が遅れるケースも多く見られることに注意が必要です。
(3)甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、甲状腺の機能が過剰に促進されることで生じる病気です。
代表的な甲状腺機能亢進症はバセドウ病であり、自己免疫のはたらきによって生じます。
甲状腺ホルモンは、脳にある下垂体前葉という器官で作られる甲状腺刺激ホルモン(TSH)という物質によって作られる量や血液中に放出される量が調整されます。
バセドウ病は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対する自己抗体が作られることにより、この自己抗体が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の代わりに甲状腺を刺激し続けることによって生じます。
これによって、甲状腺ホルモンが過剰に作り出され、血液中に放出されることで、細胞や組織の活動が過剰に促進され、以下のような症状が現れることが多いです。
また、甲状腺自体が刺激されることによって甲状腺全体が腫れることも特徴的な症状です。
腫れ方としては、甲状腺全体が腫れるびまん性甲状腺腫が見られることが多く、腫れに触れるとゴムのように弾力があるケースがほとんどです。
バセドウ病は特に女性に多く、20~30代の女性に多く見られますが、高齢者にも見られることがあります。
もっとも、高齢者の場合には甲状腺の腫れがあまり目立たず、体重減少などの症状からがんを疑って受診し、精密検査を実施して判明することもあります。
また、バセドウ病では初期から甲状腺の腫れが現れることは稀であり、動悸や息切れなどによる疲労感、手指の震えなどの症状が先に見られることも特徴です。
(4)甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、甲状腺の機能が低下することによって代謝異常を来すことで生じる病気です。
代表的な甲状腺機能低下症には慢性甲状腺炎(いわゆる橋本病)があり、バセドウ病と同じく自己免疫機能によって引き起こされます。
橋本病は、甲状腺ホルモン自体に対する自己免疫が作られることで、甲状腺を破壊してしまい、甲状腺ホルモン量が低下することによって生じます。
甲状腺ホルモンが作られる量と血液中に放出される量が減少してしまうため、細胞や組織の活動が停滞し、代謝異常による不調や症状が現れます。
具体的には、以下のような症状が見られることが多いです。
橋本病では、甲状腺が自己抗体によって攻撃されることで炎症が発生し、甲状腺が全体的に腫れることが多いです。
バセドウ病の場合とは異なり、表面が硬くゴツゴツとした腫れ方をするのが特徴的であり、腫れがゆっくりと進行することにも注意が必要です。
そのため、初期から甲状腺の腫れが現れることはほとんどなく、症状が進行しても首が少し太くなったという程度の自覚症状しかないこともあります。
バセドウ病と同じく、女性の方が多く発症し、無月経や便秘などの症状が現れることもあり、不妊に影響を与えることも報告されています。
そのため、不妊治療で橋本病であることが判明するケースもあります。
また、抑うつ状態などの精神活動の停滞を伴うことから、高齢者が橋本病を発症すると認知症などの原因となることもあるため注意が必要です。
なお、橋本病の治療中に甲状腺が急激に大きくなることがあり、そのような場合には甲状腺悪性リンパ腫の可能性が疑われます。
このように、橋本病は様々な病気を引き起こすリスクがあるため、適切な治療を行うことが重要です。
上記のような症状が現れた場合には、橋本病の可能性も視野に入れ、内分泌科などの専門の診療科を受診することも検討しましょう。
3.甲状腺の腫れが見られる場合に行われる検査
甲状腺の腫れやしこりは、一般的に甲状腺のあたりを触って大きさや腫れの程度を確かめる触診と呼ばれる方法によって検査が行われます。
特にバセドウ病や橋本病では、目視で確認できるほど甲状腺が腫れることがあり、表面の硬さを調べるためにも重要な検査方法です。
もっとも、症状の初期などには腫れやしこりが見られないケースも多いため、腫れやしこりが触診では分からない場合や原因の特定に至らない場合には、以下のような検査が行われることが多いです。
- 超音波検査
- 穿刺吸引細胞診
- CT検査
それぞれについて、具体的にご説明します。
(1)超音波検査
超音波検査は、主に触診では明らかにすることができない甲状腺の深い部分の様子を調べるときに行われます。
甲状腺に超音波をあてて、体の中で反射した超音波を受け取ることで、しこりや腫れの有無と状態、大きさなどを把握することが可能です。
また、X線(レントゲン)検査とは異なり、放射線を使用しないため、安心して検査を受けることができます。
喉や甲状腺に痛みがある場合であっても、検査機械が直接患部に触れることもないため、検査による痛みなどを心配する必要がないことも特徴です。
甲状腺が正常な状態であれば、超音波検査を行うとエコーレベルが高く、甲状腺の箇所が周りの筋肉と比較すると白く写ります。
これに対して、例えば橋本病では甲状腺の部分のエコーレベルが低下し、甲状腺全体が黒っぽく見えることが多いです。
また、亜急性甲状腺炎の場合には、痛みを伴う箇所にだけエコーレベルの低下が見られることが特徴です。
このように、甲状腺の病気によって、超音波検査で見られる様子にはさまざまなものがあるため、エコーレベルなどの検査結果をもとに診断を行っていきます。
(2)穿刺吸引細胞診
穿刺吸引細胞診は、甲状腺の細胞の一部を吸引して調べる検査方法です。
腫れやしこりの原因の特定に至らない場合には、超音波検査を行い、補充的に穿刺吸引細胞診が行われます。
甲状腺の病変部の細胞を直接採取して調べることができるため、特に腫瘍に関しては良性か悪性かの判断をほぼ正確に行うことが可能です。
そのため、一般的には甲状腺腫瘍が疑われる場合に行われることが多いです。
もっとも、橋本病で悪性リンパ腫が疑われる場合などにも行われることがあります。
穿刺吸引細胞診は、注射針よりも細い針を用いて行うことが一般的であり、麻酔なしでもほとんど痛みを感じることがありません。
なお、検査の直後は患部をガーゼで押さえるなどして止血することができます。
(3)CT検査
CT検査は、体のあらゆる方向からX線をあて、体を輪切り状にして異常などを調べる検査方法です。
甲状腺にできたしこりが気道などのほかの器官や組織を圧迫しているかどうかを調べるときに行われます。
CT検査では、5~10mmの間隔で体を輪切り状にデータ化して観察することができるため、超音波検査では観察できない部分を明らかにする際に用いられます。
もっとも、これよりも小さな病変については、CT検査では明らかにすることができないというデメリットもあります。
そのため、輪切りの間隔をさらに細かくできるCTが別途必要となる場合があることに注意が必要です。
その意味では、CT検査のみで病変を調べることは難しいケースもあり、超音波検査などのほかの検査に加えて補充的に行われることが多いです。
4.甲状腺の腫れがある場合の治療方法
甲状腺に腫れやしこりが見られる場合には、ほかの症状の有無などから、一般的に以下のような治療が行われます。
- 薬物療法
- 手術療法
それぞれの特徴について見ていきましょう。
(1)薬物療法
薬物療法では、主に投薬による治療が行われます。
もっとも、甲状腺の病気の原因によって処方される薬には違いが見られます。
具体的には、甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンのはたらきが過剰になっているため、これを抑制するために抗甲状腺薬が投与されます。
反対に、甲状腺機能低下症の場合には、甲状腺ホルモンの量が不足しているため、これを補うために甲状腺ホルモン薬が投与されます。
また、亜急性甲状腺炎などのウイルス感染を原因とする炎症が現れている場合には、炎症反応を抑えるステロイド薬が投与されることが多いです。
なお、投薬による治療を行う場合には、薬の投与量の調整が欠かせません。
投与している薬の量によっては、副作用が起こることもあるため、投薬治療を開始して直後は、定期的に経過観察を行い、薬の量を調整しながら治療を進めることが重要です。
(2)手術療法
甲状腺の病気の中でも、甲状腺がんや腫れが大きい場合には、病変部分の一部または全部を摘出する手術療法がとられる場合があります。
病変の箇所を切除するため、根本的な治療を行うことができ、効果がすぐに得られることから確実性の高い方法といえます。
その一方で、外科的処置を伴うため、この方法による治療を受ける場合には、甲状腺外科などの専門の診療科を受診することが必要となります。
また、入院期間なども必要となるため、時間がかかることもデメリットとして挙げられます。
なお、甲状腺の一部または全部を摘出することが前提となるため、術後は甲状腺機能が低下してしまうことがほとんどです。
そのため、必要に応じて甲状腺ホルモン薬の投与が行われることがあります。
5.甲状腺の病気が疑われる際に伝えるべきポイント
甲状腺の病気にはさまざまなものがあり、その症状もほかの病気の症状と似ていることが多いです。
また、甲状腺は喉仏の下あたりに位置するため、喉の下の方が腫れている場合には、甲状腺の病気である可能性があります。
そのため、甲状腺の病気が疑われる場合には、一般内科や内分泌科などの診療科を受診し、検査などを受けることで、早期発見につながります。
甲状腺の病気であるかどうかを診断する際には、問診と触診を行い、必要に応じて検査を行います。
そのため、問診では以下のポイントに注意しながら症状を伝えるようにしましょう。
- 腫れやしこりに気づいた時期
- 腫れやしこりの大きさ
- 体重変化の有無
- 家族の病歴
それぞれについて、ご説明します。
(1)腫れやしこりに気づいた時期
腫れやしこりがあることにいつ気づいたのかを伝えるようにしましょう。
甲状腺の病気である場合は、腫れやしこりがゆっくり進行することが多いですが、何か月ほどその症状が続いているのかによって、原因を特定することにつながる場合があります。
(2)腫れやしこりの大きさ
腫れやしこりの大きさについても、具体的な甲状腺の病気を特定する際に重要です。
特に腫れやしこりに気づいてから短期間で大きくなった場合には、未分化がんなどの悪性の高いがんである可能性もあります。
また、腫れやしこりに伴って痛みがある場合には、炎症反応によるものであるケースが多く、亜急性甲状腺炎である場合や橋本病が急激に悪化した場合が考えられます。
甲状腺の病気でも、その種類や原因によって腫れ方などに違いが見られるため、気づいたことがあれば医師に伝えることが大切です。
(3)体重の変化の有無
体重の増減が見られるかどうかについても把握しておくことが重要です。
特に甲状腺の病気の中でも、甲状腺機能亢進症では意図しない体重減少がしばしば起こります。
また、甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン量の低下に伴う代謝異常によって体重の増加やむくみといった症状が現れることが多いです。
なお、亜急性甲状腺炎でも体重の変化が見られることがありますが、甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症と比較すると、その期間は短期で終息することがほとんどです。
一方、甲状腺がんである場合には、体重の変化を伴うことはほとんどありません。
そのため、体重の変化の有無は、甲状腺がんとそれ以外の甲状腺の病気を区別する際の1つの要素となります。
(4)家族の病歴
甲状腺の病気は、生活習慣のほか、遺伝的要因によっても発症することがあります。
例えば、橋本病やバセドウ病は自己免疫のはたらきによって生じる甲状腺の病気ですが、自己免疫の反応は遺伝的な影響を受けているとの報告もあります。
また、甲状腺がんについても、遺伝による影響が指摘されています。
そのため、両親や兄弟姉妹など、近い血縁関係の人に甲状腺の病気になったことがある人がいるかどうかも把握しておくことが重要です。
まとめ
本記事では、甲状腺に腫れがある場合に考えられる甲状腺の病気や検査方法などについて解説しました。
甲状腺の腫れ方には、一部だけが腫れる「結節性甲状腺腫」と全体が腫れる「びまん性甲状腺腫」の2つがあり、どのような甲状腺の病気であるかによって腫れ方に違いがあります。
また、最初から甲状腺が腫れることは稀で、発熱や倦怠感、手指の震えなどの症状が先に現れることがほとんどで、甲状腺の病気であることが見逃されるケースも多いです。
特に体重の変化がある場合や家族に甲状腺の病気になったことがある人がいる場合には、甲状腺の病気である可能性があるため、内分泌科などを受診することが重要です。