
甲状腺の病気の治療薬とは?種類や服用の注意点について解説
「甲状腺の病気の治療薬にはどんなものがある?」
「薬を服用するときの注意点について知りたい」
甲状腺の病気の治療薬について、このような疑問をお持ちの方もいると思います。
甲状腺は、喉仏の下あたりにある器官であり、甲状腺ホルモンと呼ばれる物質を作り、血液中に放出しています。
甲状腺ホルモンは、体の代謝(エネルギー消費・熱を作るはたらき)や心臓・血管などの臓器のはたらきを維持・調整するホルモンです。
しかし、甲状腺の病気によって甲状腺ホルモンのバランスが崩れると、体にさまざまな不調が生じてしまいます。
特に甲状腺ホルモンの量が正常な範囲よりも多い場合と少ない場合には、薬によって甲状腺ホルモンの量を調整して治療を行います。
もっとも、薬を服用する際には、さまざまな注意点もあります。
本記事では、甲状腺の病気を治療する際に用いられる薬の種類やはたらき、服用する際の注意点について解説します。
甲状腺ホルモンのはたらきや量の調整に関するメカニズムなどについては、以下の記事が参考になります。
1.甲状腺の病気の治療薬

甲状腺の病気では、甲状腺ホルモンのバランスが崩れてしまうことが多いです。
具体的には、甲状腺機能が通常よりも高められたり低下したりすることで、血液中に放出される甲状腺ホルモンの濃度が上昇したり低下したりします。
そのため、血液中の甲状腺ホルモン濃度を測定した上で、甲状腺ホルモンの状態にあわせて以下のような薬が処方されます。
- 甲状腺ホルモン薬
- 抗甲状腺薬
- ヨウ化カリウム(無機ヨウ素)
- β遮断薬
なお、甲状腺の病気が疑われる場合に実施される検査や評価の方法については、以下の記事もご覧ください。
(1)甲状腺ホルモン薬
甲状腺ホルモン薬は、甲状腺のはたらきが低下してしまう甲状腺機能低下症の治療薬です。
不足している甲状腺ホルモンを薬によって補うものであり、甲状腺機能低下症の代表例でもある橋本病の治療にも用いられます。
特に甲状腺ホルモンが低下することによって生じる体重の増加やむくみ、倦怠感や疲労感などの症状を緩和する効果が期待できます。
甲状腺ホルモン薬には、成分によって以下のような分類があります。
| 甲状腺ホルモン薬の種類 | 特徴 |
| レボチロキシン | サイロキシン(T₄)製剤 |
| リオチロニン | トリヨードサイロニン(T₃)製剤 |
一部の状況ではリオチロニンの使用も検討されますが、一般的な甲状腺機能低下症ではレボチロキシンが標準治療薬です。
サイロキシン(T₄)とトリヨードサイロニン(T₃)は、甲状腺ホルモンの種類であり、サイロキシン(T₄)は甲状腺のみで作られます。
これに対して、トリヨードサイロニン(T₃)はその80%程度がサイロキシン(T₄)を材料として体の細胞で作られます。
そのため、甲状腺ホルモン濃度を正常に戻すためには、サイロキシン(T₄)を補うことがより効果的であり、レボチロキシンが用いられることが一般的です。
また、レボチロキシンは体の中での薬の濃度が半分に減少するまでの期間(半減期)が6~7日であり、比較的長い間薬の作用が続きます。
これに対して、リオチロニンの半減期は1日程度であることから、複数回の服用が必要となり、このこともレボチロキシンが用いられることが多い理由の1つです。
甲状腺機能低下症を引き起こす原因や症状などについては、以下の記事で詳しく解説しています。
(2)抗甲状腺薬
抗甲状腺薬は、甲状腺ホルモンが作られるはたらきを抑え、血液中の甲状腺ホルモン濃度を低下させる薬です。
甲状腺の病気の中でも、甲状腺の機能が過剰に高められることによって甲状腺ホルモン量が増加する甲状腺機能亢進症の治療に用いられます。
特に甲状腺機能亢進症の代表的な病気であるバセドウ病の治療に用いられることが一般的です。
この薬では、甲状腺ホルモンが過剰に放出されることによって引き起こされる動悸や息切れ、体重の減少、発汗量の増加などの症状を抑える効果が期待できます。
なお、抗甲状腺薬には、以下のような種類があります。
| 抗甲状腺薬の種類 | 作用 |
| チアマゾール(MMI) | 甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)という酵素のはたらきを妨げて甲状腺ホルモンの合成を抑える |
| プロピルチオウラシル(PTU) | ・甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)にヨウ素が結合することを妨げる ・サイロキシン(T₄)がトリヨードサイロニン(T₃)に変換されることを妨げる |
このうち、薬の作用が長時間にわたって続くことや副作用の少なさからチアマゾール(MMI)が用いられることが一般的です。
しかし、妊娠の初期にチアマゾール(MMI)を服用すると、胎盤を通して胎児に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
そのため、妊娠5週0日~9週6日の間はプロピオチオウラシル(PTU)を投与することが推奨されています。
特に妊娠初期(第1三半期)はプロピオチオウラシル(PTU)が選択されやすく、妊娠中期以降はPTUの重篤な肝障害リスクも踏まえ、状況によってチアマゾール(MMI)への切り替えが検討されます。
また、甲状腺ホルモンの量が極端に上昇している甲状腺クリーゼに陥った場合には、多臓器不全などを引き起こし、生命に関わるリスクがあります。
甲状腺クリーゼでは、直ちに甲状腺ホルモンの濃度を低下させる必要があり、サイロキシン(T₄)がトリヨードサイロニン(T₃)に変換されることを妨げて甲状腺ホルモン濃度を下げるプロピオチオウラシル(PTU)が用いられるケースもあります。
なお、甲状腺クリーゼの場合には、抗甲状腺薬に加えて、ヨウ化カリウム(無機ヨウ素)やβ遮断薬、ステロイドなどを組み合わせた治療が行われます。
もっとも、症状の現れ方などによっても、どちらの薬が選択されるかは異なります。
甲状腺機能亢進症で見られる症状や原因、治療の注意点などについては、以下の記事もご覧ください。
(3)ヨウ化カリウム(無機ヨウ素)
ヨウ化カリウムは、ヨウ素とカリウムの化合物です。
ヨウ素は甲状腺ホルモンを作る際の材料となる物質であり、ヨウ化カリウムは甲状腺が甲状腺ホルモンを作りやすい形でヨウ素を供給することができます。
なお、甲状腺ホルモンの量が過剰になっているケースでヨウ化カリウムを投与すると、一時的に甲状腺ホルモンの合成を妨げ、甲状腺ホルモン濃度を下げる効果が期待できます。
しかし、過剰な量を服用したり長期間使い続けたりすると、血液中の甲状腺ホルモン濃度が上昇し、却って症状を悪化させる可能性があります。
ヨウ化カリウムを用いた治療は、甲状腺クリーゼや重症甲状腺中毒症の一部、手術前の短期補助など、状況を限定して医師の判断で用いられます。
服用の回数や量についても、医師と相談しながら決定し、血液検査によって甲状腺ホルモン濃度を定期的に把握しながら治療を進めていくことになります。
(4)β遮断薬
β遮断薬は、心臓の筋肉にはたらきかけて筋肉の収縮や心拍数の増加を抑える薬です。
これによって、動悸や手指の震えなどの症状を和らげる効果が期待できます。
主に甲状腺機能亢進症による動悸や息切れなどの症状を緩和することを目的として、抗甲状腺薬と併用されることが一般的です。
2.甲状腺ホルモン薬を服用する際のポイント

甲状腺ホルモン薬を服用することによって、体に不足している甲状腺ホルモンを補うことができ、症状を改善させる効果が期待できます。
しかし、甲状腺ホルモンの量は多すぎても少なすぎても問題があり、適正な水準を維持することが重要です。
そのため、甲状腺ホルモン薬による治療を行う場合には、以下の点を意識しましょう。
- 服用のタイミングや用量に注意する
- 吸収を妨げる成分を把握する
- ほかの薬剤との併用による副作用に注意を払う
- ライフスタイルの改善を行う
なお、甲状腺のはたらきがある程度残っている場合には、甲状腺ホルモン薬の服用量を減らしたり休薬したりできる場合があります。
しかし、甲状腺機能の低下が慢性的である場合には、甲状腺ホルモン薬による治療が長期間にわたって続く可能性があることにも注意が必要です。
(1)服用のタイミングや用量に注意する
甲状腺ホルモン薬の中でもレボチロキシンは起床後や食前30分前に服用することが一般的です。
これは、空腹時の方が吸収がよいことに理由があります。
また、1日の服用量は、年齢や基礎疾患の有無などによって細かく調整されます。
例えば、以下のような基準に基づいて投与量が決定されることがあります。
| 患者の属性 | 投与量(目安) |
| 若年層 | 50~100μg/1日 |
| 高齢者 | 25μg程度/1日 |
| 心疾患などの合併症がある | 12~25μg/1日 |
※体重換算(成人の完全補充量の目安は概ね1.6μg/kg/1日
※高齢者・心疾患は少量開始で漸増
なお、上記はあくまで一般的な基準であり、具体的な用量は定期的な検査などを通じて適宜調整されます。
また、レボチロキシンの服用を開始してすぐに血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になるわけではなく、時間をかけて次第に改善していくことがほとんどです。
そのため、治療の効果が感じられない場合であっても、自己判断で服用量を増やしたり服用をやめたりしてはいけません。
(2)吸収を妨げる成分を把握する
レボチロキシンは、小腸で吸収されて血液中に入ります。
そして、食べ物や薬に含まれる成分の中には、小腸でのレボチロキシンの吸収を抑えてしまうものがあるため、注意が必要です。
具体的には、カルシウムや鉄分などがこれにあたります。
そのため、レボチロキシンによる治療を行っている場合には、吸収を妨げる栄養素や物質の摂取量にも注意を払う必要があります。
また、マグネシウムなどのミネラルもレボチロキシンの吸収に影響を与えることが知られています。
特に胃薬(制酸剤)や市販されているサプリメントなどには上記のような成分が含まれているものもあります。
治療を開始する時点で服用している薬やサプリメントがある場合には、医師に伝えておくことが治療効果を高める上でも大切です。
(3)ほかの薬剤との併用による副作用に注意を払う
甲状腺ホルモン薬を使用する場合には、一部の薬との併用に注意しましょう。
例えば、以下のような薬です。
| 薬の種類 | 作用 |
| アミオダロン | 不整脈の治療薬 |
| 強心配糖体(ジギタリス) | 心不全の治療薬 |
| ワルファリン | 血液の凝固を抑える薬 |
アミオダロンにはヨウ素が含まれているため、甲状腺ホルモン薬と併用することで、体の中のヨウ素の量が過剰になってしまいます。
これによって、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンの量も過剰になってしまい、甲状腺機能亢進症で見られるような症状(動悸や息切れ、手指の震え、頻脈など)が現れる可能性があります。
また、甲状腺ホルモン薬を服用することによって血液中の甲状腺ホルモン濃度が変化することで、心臓のはたらきや血液の凝固因子に影響を及ぼすこともあるのです。
そのため、基礎疾患の有無や治療薬の服用に関する状況についても、詳細に医師に伝える必要があります。
(4)ライフスタイルの改善を行う
甲状腺ホルモンのバランスは、日々の食事などの生活習慣によっても左右されます。
特に食事の栄養素の偏りや運動不足などの習慣は、エネルギー代謝に影響を与え、甲状腺の機能を低下させる要因にもなります。
そのため、食事の栄養素のバランスを整え、定期的な運動習慣を身につけることも大切です。
例えば、ヨウ素を含む海藻類(特に昆布)や魚介類などの摂取量を適正に保ち、亜鉛などのミネラルを含む食品や食材をとることを心がけましょう。
亜鉛などは甲状腺の機能をサポートする効果が期待でき、甲状腺ホルモン薬による治療効果を高めることにもつながります。
また、適度な運動に取り組むことで、心肺機能を維持し、基礎代謝を向上させる効果も期待できます。
このように、甲状腺ホルモン薬の服用とあわせて、生活習慣全体を見直すことも大切です。
3.抗甲状腺薬を服用する際のポイント

抗甲状腺薬の中でも、チアマゾール(MMI)による治療を行う際には、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。
具体的には、以下のような点です。
- 服用量や飲み方を守る
- 食事の内容やサプリメントの服用に注意する
- 副作用の症状を把握しておく
- 定期的な血液検査を実施する
順にご説明します。
(1)服用量や飲み方を守る
症状の内容や程度などによって、チアマゾール(MMI)の服用量や回数は異なります。
治療を開始した時点では比較的服用量を多くし、症状が改善していくと量を減らすことが一般的です。
そして、チアマゾール(MMI)は毎日の服用サイクルを守る必要があります。
服用サイクルが乱れた場合、甲状腺ホルモンの濃度も不安定になってしまうため、飲み忘れや日々の服用タイミングがズレてしまうことは極力避けなければなりません。
また、飲み忘れに気づいた場合でも、次の服用のタイミングが近い場合には次の分のみを服用し、一度に2回分をまとめて飲まないようにすることが大切です。
なお、チアマゾール(MMI)の服用を開始してから数週間程度で甲状腺ホルモンの濃度が正常値に近づき、症状が改善することもあります。
しかし、自己判断で服用量を減らしたり途中で服用をやめてしまうと、症状が再燃することがあるため、服用量については医師の指示に従うことが大切です。
(2)食事の内容やサプリメントの服用に注意する
抗甲状腺薬を服用する際にも、ヨウ素の過剰摂取は避ける必要があります。
すでに述べているように、甲状腺ホルモンはヨウ素を材料として作られるため、抗甲状腺薬による治療を行っているときにヨウ素を過剰摂取してしまうと、薬の効果を弱めてしまう可能性があります。
ヨウ素を含む食品や食材には、海藻類や魚介類が挙げられますが、その中でも昆布やひじきには多く含まれていることが知られています。
そのため、これらの食品や食材のとりすぎには注意しましょう。
なお、健康食品やサプリメントにもヨウ素が含まれているものがあるため、成分表示などを確認することが大切です。
例えば、うがい薬などにはヨウ素が含まれているため、抗甲状腺薬を服用している間は使用を控えるなどの対応が必要となることもあります。
(3)副作用の症状を把握しておく
抗甲状腺薬を服用している場合には、治療中に副作用が生じる可能性があることに注意が必要です。
具体的には、以下のような副作用が生じやすいです。
| 副作用 | 具体的な症状 |
| 皮膚症状・アレルギー反応 | 発疹やじんましん、かゆみ など |
| 無顆粒球症 | 倦怠感や発熱(38℃以上の熱)、喉の痛み など |
| 肝機能障害 | 全身の倦怠感や食欲不振、黄だん など |
無顆粒球症は、血液中の免疫細胞である好中球が大幅に減少してしまうことで引き起こされます。
これによって、免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなってしまいます。
また、細菌やウイルスなどの異物に対する抵抗力も低くなるため、感染症にかかると重症化しやすくなってしまうのです。
特にチアマゾール(MMI)による治療を行っている場合には、服用を開始してから2~3か月以内に起こることが多いとされています。
このほか、稀に肝機能が低下してしまうこともあるため、治療を開始してから数か月の間は2週間に1回程度の頻度で血液検査を行うことが不可欠です。
特に治療を行っている中で38℃以上の発熱や強い喉の痛み、強い倦怠感、黄だん(皮膚や白目が黄色くなる)が現れた場合には、自己判断で内服を続けず速やかに医療機関へ連絡しましょう。
(4)定期的な血液検査を実施する
甲状腺機能亢進症は、適切な抗甲状腺薬の服用量を維持することで、数か月程度で治療が終了することもあります。
しかし、服用量が少ない場合や多い場合には、症状が安定せずに治療が長期化する可能性があります。
そして、処方する薬の適量を判断するためには、定期的に血液検査を行い、甲状腺ホルモン濃度の測定を行うことが欠かせません。
特に副作用が生じた場合には、医師の判断のもと、服用量を減らしたり一時的に休薬したりする対応が必要となる場合もあります。
もっとも、服用量に関する調整は医学的な知見に基づいて行うものであるため、自己判断で調整してはいけません。
また、甲状腺機能亢進症の治療では、症状が改善しても、途中で動悸や息切れ、手指の震えなどの症状が再燃することもあります。
そのため、治療中には定期的な血液検査を行うと同時に、現れている症状について把握し、主治医や医療スタッフに伝えることが重要です。
なお、抗甲状腺薬による治療が終了した後でも、甲状腺機能に異常が生じ、症状が再燃することもあります。
これを防ぐためには、治療が終了した後も定期的に血液検査を受け、甲状腺の機能を測定・把握することが重要といえるでしょう。
まとめ
本記事では、甲状腺の病気の治療で用いられる薬の種類や特徴、服用する際の注意点などについて解説しました。
甲状腺ホルモンの量は多すぎても少なすぎても不調を来すため、甲状腺の機能の状態に応じて、甲状腺ホルモン薬または抗甲状腺薬による治療が大切です。
治療の効果を高めるためには、それぞれの薬の特徴や副作用などを把握し、医師の指示に従って服用することが重要といえます。
また、治療中には定期的に血液検査を受け、現れている症状の内容や変化についても医師に伝えることが求められます。
甲状腺の病気は、早期発見と適切な治療によって症状を改善させることが可能です。
特に理由の分からない動悸や息切れ、倦怠感、体重の急激な増減などには、甲状腺の病気が関わっている可能性もあります。
これらの症状に心当たりのある方は、内分泌科などの専門の医療機関で精密検査を受けることがおすすめです。




