甲状腺の病気は何科を受診すべき?甲状腺の機能や関連疾患も解説
「最近、なんとなく体がだるく、疲れやすくなった」
「集中力や記憶力が弱くなってきたのは年齢のせい?」
「喉に腫れや痛みがあるけど、風邪とも少し違う気がする」
心身の不調について、このような悩みや疑問をお持ちの方もいるかと思います。
年齢や季節の移り変わりに原因があると思われている上記のような症状は、甲状腺の病気が原因である場合もあります。
しかし、甲状腺のはたらきや場所、医療機関を受診する際にどこの診療科に行けばよいのかについて、詳しく知らない方も多いかと思います。
本記事では、甲状腺の病気が疑われる場合に受診すべき診療科や甲状腺のはたらきについて解説します。
また、甲状腺の病気の具体的な症状や関連する病気についても合わせて解説しますので、上記のような悩みや疑問をお持ちの方が適切な診療科を受診される際の参考となれば幸いです。
1.甲状腺の病気が疑われる場合に受診すべき診療科
甲状腺の病気が疑われる場合には、まずは一般内科か内分泌科を受診されることが最適です。
甲状腺の病気は、甲状腺という器官に異変が生じることで起こります。
普段意識されることは少ないかも知れませんが、喉仏の下あたりにある器官で、全身の細胞や器官にはたらきかけるホルモンを作り出し、その放出を担います。
具体的には、体の成長や新陳代謝の活性化などに大きな役割を果たし、私たちが生活を送る上では欠かせない器官の1つです。
この部分に異常をきたしてしまうと、ホルモンが不足したり、あるいは逆に過剰に作り出されたりして、動悸や息切れ、食欲不振、抑うつ状態などのさまざまな症状が現れてしまいます。
また、甲状腺の病気の内容によっては、甲状腺がある喉のあたりに腫れやしこりなどの症状が現れるケースもあります。
このような症状がある場合には、悪性腫瘍(がん)が疑われることもあるため、甲状腺外科を受診することで、専門医から外科的処置も含めた適切な診断や処置を受けることも可能です。
なお、喉の腫れや痛みとともに、発熱などの症状を伴うものもあり、そのような場合には風邪や喉の炎症を疑って耳鼻咽喉科を受診される場合も多いです。
もっとも、耳鼻咽喉科は甲状腺異常に直接対応できる診療科ではないため、診察の結果、甲状腺の病気が疑われるような場合には、専門の甲状腺外科や一般内科を紹介されることもあります。
甲状腺の病気は、適切な治療を行うことで、日常生活を送ることができるようになる場合がほとんどです。
上記のような症状が現れた場合には、なるべく早めに一般内科や内分泌科を受診されることをおすすめします。
2.甲状腺の概要
甲状腺は、首の前にある喉仏の下あたりにある器官です。
ちょうど蝶が羽を広げたような形をしており、10~15gほどの小さな器官であることも特徴です。
小さな器官ですが、全身の細胞にはたらきかけ、成長や新陳代謝を促す甲状腺ホルモンを作り出し、その排出に関わる重要な役割を担います。
代謝とは、古い細胞が新しい細胞に入れ替わる現象をいいます。
代謝が正常に行われることで、体の中のさまざまな機能が維持・増強され、問題なく生活を送ることにつながるのです。
その意味で、甲状腺は私たちの体の機能を正常に維持するために必要不可欠な器官といえるでしょう。
以下では、甲状腺のはたらきや分泌メカニズムについて、具体的に解説します。
(1)甲状腺とは
甲状腺は、濾胞という小さな袋状の組織が多数集まって作られています。
この濾胞という組織の中では、サイログロブリン(Tg)という物質が作られ、それが貯められています。
体の中のあらゆる細胞にはたらきかける甲状腺ホルモンは、このサイログロブリン(Tg)から作られているのです。
そして、甲状腺ホルモンをストックし、必要な場合に血液中に放出して全身に運搬するための配送センターのような機能を持っています。
(2)甲状腺のはたらき
甲状腺ホルモンは、甲状腺のみで作られます。
そして、甲状腺ホルモンを作ったり放出したりする指令を出すのが、脳にある下垂体前葉です。
具体的には、下垂体前葉が甲状腺に対して、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と呼ばれる物質を放出することで、甲状腺ホルモンの量が調整されます。
甲状腺ホルモンは、体のさまざまな細胞に作用しますが、その中でも以下のようなはたらきが代表的なものとして挙げられます。
- 代謝作用
- 熱産生・酸素消費の増加作用
- 心血管系作用
それぞれについてご説明します。
#1:代謝作用
甲状腺ホルモンが担う代謝作用には、主に3つのものがあります。
具体的には、以下の3つの栄養素について、分解・吸収を促進するはたらきがあります。
- タンパク質
- 脂質
- 糖質(炭水化物)
まず、体の中に取り込まれたタンパク質は、胃の消化酵素によってアミノ酸に分解され、その後小腸で吸収されて肝臓に運ばれます。
肝臓に運ばれたアミノ酸は、再びタンパク質に作り変えられるほか、残ったアミノ酸は血液に放出されてあらゆる細胞に運ばれて、新しい細胞を作り出すための材料や活動の源となります。
また、脂質は膵臓の消化酵素によって脂肪酸とグリセリンに分けられます。
この2つの物質は小腸で中性脂肪となり、そこにタンパク質が結合してリポタンパク質となり、静脈を通じて心臓に入り、全身をめぐって細胞やホルモンの材料となります。
このうち、使われなかった脂質は肝臓などに蓄積されますが、甲状腺ホルモンは肝臓の中で低密度リポタンパク質(LDL)受容体という器官を作り出すことを促します。
この低密度リポタンパク質(LDL)受容体は、コレステロールと結合し、細胞の中に取り込んでエネルギーや細胞を作り出す材料として利用します。
つまり、体の中に取り込まれた脂質の分解を強く促進し、血中の遊離脂肪酸の増加やコレステロールの減少などを促す作用があります。
そのため、甲状腺ホルモンの値が正常よりも高くなると、低密度リポタンパク質(LDL)受容体が多く作り出され、その結果として血中のコレステロール値が減少します。
逆に甲状腺ホルモンの値が低くなると、コレステロール値が上昇することとなってしまいます。
なお、甲状腺ホルモンは、このほかにも糖質の代謝に関するはたらきも持っています。
具体的には、糖質の吸収を促進させる作用があります。
糖質は炭水化物に含まれているものが代表的ですが、唾液に含まれるアミラーゼという消化酵素によってブドウ糖に分解されます。
ブドウ糖は小腸で吸収された後、肝臓に運ばれ、血管を通って体の細胞に運ばれ、エネルギー源となります。
そのため、甲状腺ホルモンの値が正常よりも高くなると、腸管でのブドウ糖の吸収が過剰に促進され、糖尿病の症状が悪化する場合があります。
このように、甲状腺ホルモンは肝臓や小腸などの臓器でのエネルギーの消費や新しい細胞を作り出すためのはたらきを助けて、代謝を活発にする役割を担っているのです。
#2:熱産生・酸素消費の増加作用
体の細胞に対して酸素の消費を促す作用をいいます。
酸素の消費を増加させることによって、体の中に取り込まれたり作り出されたりした脂肪や糖分を燃焼してエネルギーに変換する効果があります。
つまり、基礎代謝を活発にさせるはたらきがあるといえます。
基礎代謝とは、呼吸や心臓を動かすなどの生命維持のために不可欠な活動に使われるエネルギーをいい、適度な運動と合わせて基礎代謝を高めることがエネルギー消費のために重要です。
そのため、甲状腺ホルモン値が正常よりも高くなってしまうと、基礎代謝が過剰に促進され、エネルギー消費が激しくなって瘦せてしまうことがあります。
また、食事を摂っても体重が増えずに減ってしまうこともあります。
一方、正常よりも甲状腺ホルモン値が低い場合には基礎代謝が低下し、エネルギー消費が促進されないことによって、むくみや体重が増えるなどの症状が現れます。
#3:心血管系作用
心血管系とは、心臓と血管によって作られている組織のことで、血液が全身を正常に流れるためのはたらきと役割を担うため、循環器系と呼ばれることもあります。
心臓は血液を全身に送り出し、栄養やエネルギーの補給だけでなく、二酸化炭素などの老廃物を排出するための臓器まで送り届ける役割を担います。
そして、甲状腺ホルモンは、心臓の収縮力を強め、心拍数を増加させる作用を持ちます。
先ほども触れたように、心臓は全身へ血液を送り届ける役割を担います。
このとき、心臓をポンプになぞらえると、収縮力はポンプを押す力、心拍数はポンプを押す回数を意味します。
つまり、収縮力と心拍数を高めることによって、全身へ送り出される血液量が増加し、エネルギーの運搬や消費、老廃物の排出を促進することにつながるのです。
このうち、心拍数の調整は、副腎という腎臓の上にある臓器で作られるアドレナリンとノルアドレナリンというホルモンによって行われます。
甲状腺ホルモンは、心拍数を高めるはたらきを持つアドレナリンに対する受容体の増加を促し、アドレナリンが心臓の筋肉の収縮力を強め、心拍数を増加させることを助けるはたらきを持っています。
そのため、甲状腺ホルモン値が高くなると脈拍が増え(頻脈)、逆に甲状腺ホルモン値が低くなると脈拍が少なくなります(徐脈)。
(3)甲状腺ホルモンの合成と放出のメカニズム
甲状腺ホルモンは、脳にある下垂体前葉が甲状腺に対して放出する甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって作られる量の調整が行われています。
これは、体の中のホルモンのフィードバック性調節と呼ばれるメカニズムに支えられているからです。
具体的には、下垂体前葉の上位に存在する視床下部という脳の機能が体の中の甲状腺ホルモンの量を少ないと検知した場合、下垂体前葉に対して甲状腺刺激ホルモン(TSH)を作り出すように指令を出します。
視床下部から指令を受けた下垂体前葉は、甲状腺に対して甲状腺刺激ホルモン(TSH)を放出し、これを受け取った甲状腺において甲状腺ホルモンが作り出され、血中に放出されます。
一方、視床下部が体の中の甲状腺ホルモンの量が多いと検知した場合には、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を抑制するように指令を出し、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の放出が抑制されることで、甲状腺ホルモンの量が適正に調整されます。
このような自己調整機能をフィードバック性調節と呼び、体の中の恒常性(ホメオスタシス)を維持するために必須の機能ということができるでしょう。
しかし、甲状腺の機能に異常が生じてしまうと、甲状腺刺激ホルモン(TSH)に対して適切に対応することができなくなり、甲状腺ホルモンが欠乏してしまう、あるいは過剰に作り出されて放出されることになってしまいます。
そうなると、フィードバック性調節の機能が損なわれてしまい、その結果として体にさまざまな異変や不調が生じることになります。
甲状腺の機能異常や具体的な症状については、次項で詳しく解説します。
3.甲状腺ホルモンの乱れによる主な症状
甲状腺の病気には、さまざまなものがありますが、以下では甲状腺ホルモンの乱れによって引き起こされる症状について解説していきます。
甲状腺ホルモンの乱れによって生じる症状は、大きく分けると以下の2つです。
- 甲状腺機能低下症
- 甲状腺機能亢進症
それぞれ、どのようなメカニズムで生じ、どのような症状が特徴的なのかを押さえておきましょう。
(1)甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、体の細胞に対する甲状腺ホルモンのはたらきが低下することによって生じます。
具体的な症状としては、基礎代謝の低下にはじまり、以下のようなものが挙げられます。
- 脱力感
- 毛が抜ける
- 肌が乾燥しやすい
- 寒さの耐性の低下
- 体重の増加
- 記憶力の低下
- 抑うつ状態
特に年齢が上がるにつれて生じやすく、症状の内容から、うつ病や更年期障害と混同されるケースもあります。
なお、一般的に基礎代謝は年齢とともに低下していく傾向があるため、加齢によるものとして見過ごされてしまうことや自分でも甲状腺疾患であることを認識していないことも多いです。
また、甲状腺機能低下症は、自己免疫疾患による慢性リンパ球性甲状腺炎(いわゆる橋本病)によっても生じることがあります。
自己免疫とは、体の中に異物が侵入した際にそれを排除しようとする体の中の反応です。
橋本病は、甲状腺ホルモンに対する自己抗体ができることで、自己免疫が甲状腺を破壊してしまう病気です。
これによって、甲状腺で作られる甲状腺ホルモンの量が減少し、結果として体の中に行きわたる甲状腺ホルモンの量が減少し、上記のような症状が現れてしまいます。
また、橋本病は女性に多く見られる甲状腺疾患の1つで、むくみや無月経、便秘などの症状を伴う場合もあります。
そのため、産婦人科を受診して検査を受けたところ、甲状腺疾患によるものであったことが判明するケースも見られます。
(2)甲状腺機能亢進症
甲状腺機能低下症とは逆に、甲状腺ホルモンが過剰に作り出され、血液中に放出されることによって生じます。
具体的な症状としては、以下のものが挙げられます。
- 動悸や息切れ
- 発汗の増加
- 手指の震え
- 食欲の増加
- 体重の減少
- 集中力が続かない
甲状腺機能亢進症のほとんどはバセドウ病であり、上で述べた橋本病と同様に自己免疫疾患です。
バセドウ病は、甲状腺の中にある甲状腺刺激ホルモン(TSH)の受容体に対する自己抗体が作り出されることにより、受容体がこの自己抗体に刺激され続けることによって過剰に甲状腺ホルモンを作り出してしまう病気です。
甲状腺ホルモンは心血管系の作用を促進するはたらきがあるため、過剰に作り出されて体の中に放出されることで、心拍数の増加や血管の収縮が起こり、高血圧や心不全などとも混同されるケースもあります。
また、バセドウ病では甲状腺ホルモンが過剰に作り出されてしまうため、甲状腺ホルモンを作り出す濾胞が広がるように大きくなり、細胞増殖が促進されることで眼球が飛び出るなどの特有の症状が現れる場合もあります。
甲状腺の腫れなども現れることがありますが、特に高齢者は甲状腺の腫れや眼球の突出などが生じないケースもあり、体重の減少などの症状からがんと間違われることもあります。
4.甲状腺機能の異常に関する主な病気
上記で見てきたように、甲状腺ホルモンは体の中のさまざまな機能に作用します。
特に心血管系や肝臓、消化器、細胞での熱産生などに関わることから、甲状腺に異常が生じた場合には、以下のような病気にも注意が必要です。
- 高血圧
- 心不全
- 心房細動
- 認知機能障害
- 妊娠・不妊
- 骨代謝の異常
これらの病気は、甲状腺の病気とは無関係に生じる場合も多く、これらの症状が現れた場合に直ちに甲状腺の病気と診断されず、見逃されるケースもあります。
そのため、これらの病気や症状が現れた場合であっても、甲状腺の病気である可能性があることを把握し、必要に応じて内分泌科や専門の甲状腺外科などを受診することが早期発見のために重要です。
(1)高血圧
甲状腺ホルモンには、心臓の筋肉の収縮力を強め、心拍数を増加させる作用があります。
そのため、甲状腺ホルモンが減少あるいは過剰に増加している状態では、血圧に異常が生じ、高血圧の症状が合併症として現れるケースがあります。
具体的には、甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰に作り出されて細胞に運ばれることにより、アドレナリンの受容体が作り出されることが促進されます。
これにより、心臓の筋肉の収縮力が強くなり、心拍数が増加することで動脈にかかる圧力(動脈圧)が上昇し、高血圧の状態になってしまいます。
また、甲状腺ホルモンは基礎代謝の向上にも関与するため、体の中の代謝が活発になることで血流の増加も促進され、心臓が収縮する際の血圧(収縮期血圧)も上昇します。
一方、甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの放出が低下するため、心臓の収縮力が弱くなり、心拍数も低下します。
もっとも、基礎代謝も低下することから、血管の収縮作用が促進されることがあり、これによって心臓が拡張して血液が流れ込んでいる際の血圧(拡張期血圧)が上昇します。
また、甲状腺は甲状腺ホルモンを作り出す以外にも、血中のカルシウム濃度を低下させるホルモンであるカルシトニンを放出する役割も担います。
甲状腺機能が低下することにより、カルシトニンの放出量も減少することで血中のカルシウム排出がうまく機能せず、塩分が体の中に蓄積することも高血圧の要因となるのです。
このように、血中の甲状腺ホルモン値が高くなる場合だけでなく、低下する場合にも高血圧の症状が現れるケースがあることを押さえておきましょう。
(2)心不全
心不全とは、心臓がうまく機能しないことによって、全身に血液を送り出すことができなくなった状態をいいます。
これによって、体のさまざまな臓器に血液が滞留し、呼吸困難や疲労感、むくみなどの症状が現れることがあります。
甲状腺ホルモンが影響する心不全は、甲状腺機能亢進症による高拍出性心不全の場合がほとんどです。
これは、心臓の機能が高まることで、通常よりも多くの血液を全身に送り出すことによって心臓に負荷がかかり、心臓の機能が低下することで生じます。
甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰に作り出されて血液中に放出されるため、心臓の筋肉の収縮力が強くなり、心拍数が増加します。
また、基礎代謝も促進されるため、心臓がそれによって高い心拍数を維持し続けようとすることで心臓の機能が低下し、息苦しさや疲労感などの症状が現れることになります。
そのため、甲状腺機能亢進症によって生じる心不全は、代謝の向上に心臓の機能が適応できないことによって生じるといえます。
もっとも、基礎心疾患がある高齢者には逆に低拍出性心不全の症状が現れるケースもあります。
この場合には、心臓の機能が低下することで全身に十分な血液を送り出すことができず、体のさまざまな臓器で血液が不足し、手指の先の末梢血管が収縮することで手足の冷えや低血圧などの症状が現れます。
(3)心房細動
甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰に血液中に放出されることで脈拍が増える頻脈の状態となり、心房細動を引き起こすケースがあります。
心房細動とは、心臓を構成する小さな部屋である心房が小刻みに震えることによって生じる病気で、不整脈の一種です。
主に動悸や息切れ、めまい、胸の不快感などの症状が現れます。
通常、心拍数は1分間に50~100回に保たれていますが、甲状腺ホルモンの過剰な放出によって頻脈の状態となれば、この心拍数を上回り、心房細動が生じやすくなります。
心房細動は加齢によって生じやすくなることが報告されており、また高血圧や糖尿病の合併症としても生じやすいです。
また、アルコールやカフェインの過剰摂取など、生活習慣の乱れによっても引き起こされることがあります。
このように、心房細動の原因が多岐にわたることが甲状腺の病気による症状ととらえられにくい要因といえるでしょう。
(4)認知機能障害
甲状腺疾患によって甲状腺ホルモンの量が適正に維持されない場合には、精神機能への影響があることも知られています。
具体的には、甲状腺機能亢進症では神経過敏やイライラ、情緒不安定、不眠などの症状が見られることが多いです。
これは、甲状腺ホルモンが過剰に体の中に放出されることでさまざまな細胞の活動が活発になり、そのことが精神状態にも影響を与えていることが要因として考えられています。
また、甲状腺機能亢進症の中でも代表的なバセドウ病では、抑うつ状態や不安障害などの症状が見られるケースもあります。
一方、甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンの濃度が低下することによって基礎代謝や精神機能も停滞し、集中力や記憶力の低下、考えるスピードが遅くなるなどの症状が現れます。
認知機能の低下なども加わるため、うつ病や認知症などの精神疾患と混同されるケースも見られますが、投薬治療などによって甲状腺機能を正常に保つことができれば治療が可能な症状である点に大きな違いがあります。
精神内科などを受診し、治療を継続していても症状が改善しない場合には、一般内科や内分泌科も受診されることを検討してみましょう。
(5)妊娠・不妊
甲状腺機能低下症では、女性は無月経などの症状も現れるため、不妊になる場合があります。
また、橋本病とバセドウ病は一般の場合と比較すると、不妊や流産が多くなるという報告もされています。
これについては、橋本病とバセドウ病がともに自己免疫系の甲状腺疾患であることから、自己免疫の異常が胎児や母体の胎盤機能に何らかの影響を及ぼしている可能性があるとの指摘があります。
また、橋本病では妊娠経過中に甲状腺機能が低下しやすい傾向があり、それによって流産が引き起こされる可能性があることにも注意が必要です。
このように、甲状腺の病気は妊娠や不妊に影響を与える可能性が指摘されています。
(6)骨代謝の異常
甲状腺ホルモンは、心血管系や臓器などのはたらきを活性化させるだけでなく、骨を形作るためにも重要な役割を担っています。
骨には以下の3種類の細胞があり、それぞれが骨を形作る上でさまざまな役割を持っています。
- 骨芽細胞
- 骨細胞
- 破骨細胞
このうち、骨芽細胞は骨を形作る際の材料となる骨基質タンパク質を作り出し、リン酸カルシウムなどの物質と結合することで一部の骨芽細胞が骨細胞となります。
また、破骨細胞は古くなった骨の組織を破壊して吸収し、その部分に新しい骨を作り出す役割を担います。
甲状腺ホルモンは骨芽細胞と破骨細胞のはたらきを助け、古い骨の組織を吸収して新しい骨の組織を作り出す骨代謝に大きな作用をもたらしているのです。
そのため、甲状腺ホルモン値が低下すると、骨代謝が正常に機能しなくなり、骨がうまく作られなくなってしまいます。
特に小児期に甲状腺ホルモンが不足すると、手足の短縮や身長が伸びないなどの症状が現れるケースがあります。
また、甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンが過剰に放出されることによって骨の組織の吸収と形成が促進されることになります。
もっとも、骨組織の破壊と吸収がやや促進された状態となるため、骨の密度が低下したことによる骨折のリスクが高まる傾向があります。
代表的な甲状腺機能亢進症であるバセドウ病では、骨粗しょう症になるリスクが高いことが報告されています。
特に高齢者や閉経後の女性に生じる可能性が高いですが、適切な治療を行うことで次第に骨密度が回復していくケースも多いです。
もっとも、バセドウ病の治療のみでは骨に含まれるカルシウムなどのミネラル分を回復させることは十分ではないケースも見られ、そのような場合にはカルシウムの補給などと合わせて対処することが重要です。
まとめ
本記事では、甲状腺の病気が疑われる場合に受診すべき診療科や甲状腺のはたらき、主な甲状腺の病気とその症状などについて解説しました。
甲状腺は基礎代謝や心血管系、肝臓などの臓器、骨の形成など、さまざまな器官に作用して生命活動を活発にするはたらきがあります。
そのため、甲状腺に異常が生じると、体のあらゆる場所で不調や症状が現れます。
また、その症状には典型的なものが少なく、ほかの病気と似ていたり共通していたりすることなどから、甲状腺の病気であることを見落とされてしまうケースも多いです。
少しでも本記事で紹介した症状が見られる場合には、甲状腺の病気の可能性も視野に入れながら分泌内科や甲状腺外科などの専門の診療科を受診されることをおすすめします。